公金の研究(7―3)カーボンオフセットの理想理念とそれから見える公共建物の無思慮さを表す一つの例: カーボンオフセットの理想理念を、無駄を省く手段として定着出来れば、別の取り組むべき施策への原資を生み出す有用な手段となる。
***
カーボンオフセット(Carbon Offset)とは、人の経済活動や生活などを通して「ある場所」で排出された、または内蔵された二酸化炭素CO2などの温室効果ガス(Greenhouse Gas:以下GHGと記す)を、植林や森林保護・クリーンエネルギー事業等のGHG削減活動に関与(投資)することで「他の場所」で直接的、間接的に吸収しようとする考え方や活動のことを示す言葉、とされている。
上の説明を、理想を加えて更に補足説明すると次のように纏める事が出来ると言われています。非常に興味深い考え方を内に秘めていると思うので、以下に紹介します。
1. 人の行うもろもろの経済活動には、CO2等のGHGの排出や内蔵が必然的に伴う。
2. 従って経済活動を計画する事業体は、その経済活動から排出され内蔵されると予測される「GHG量を最小化する削減努力」を計画時に合わせて取り込み行うことが第一に求められる。
3. 「削減努力を尽くした」後にどうしても残ってしまう排出量に対して、それを埋め合わせる目的で事業体は、公的機関から認証済みの活動(例えば植林や森林活動やクリーンエネルギー事業等)を行っている事業体の発行するクレジットを購入する等の行動を併せて行うことが、カーボンオフセットの理念とする行動である。
これら1から3の一連のながれの考え方には、人の活動というものはどうしてもある量の排出GHG・内蔵GHGが発生し、ある量のカーボンフットプリントが足跡として地上に刻まれ残らざるを得ない宿命にあるものだが、地球が無限大ではなく限りある存在だということが分かってしまった現在、当該事業からのカーボンフットプリントを最小化する努力がなければ温暖化等の気候危機を抑制することが出来ず、しかるが故に「最大限の削減努力」が求められ、それにもかかわらず残るカーボンフットプリントについてはGHG削減活動に投資することで、当該事業が及ぼす環境への負荷を更に極小化したい、という私達の願いが根底にあると思う。
そして有限な資源の無駄使いの無意味さ傲慢さに気付き、有限な資源(コモンズ)を他者へも最大限に残しておくことが大切な考え方だということだろう。
理想的な願望と指弾されるかもしれないが、なんとかこの理念を私達の政治経済活動に取り入れていけないものかを最近考えている。
しかし、いま我々の眼前に起こっている再開発事業の様々な様相は、カーボンオフセットの理念からかけ離れた状況で事態は推移しているのではないか、と思ってしまう。言い方を替えれば、私達の願いが叶っていると言える程には社会は成熟してはいないのではないだろうか。カーボンオフセットの理念が掛け値なしで実現される世の中作りの方向性は、しっかりと持ち続けておきたいと思う。
以前にも何回か紹介した、とある公共団体の建物を材料として公金の研究について更に考えを進めてみたい。
指摘する公共団体の建物は、昔は材木置き場で名高い地域の特許関係の外郭団体ビル。敷地は800坪程。そこに現在、都市部で多く見かける、ほぼ全面ガラス張り10階建てビルが立っている。1フロア500坪程と推測されることから、総床面積は500坪x3.3m²x10階=16500平米程となる。
問題として指摘したい点が、幾つかある。
1. 見る限り全面ガラス張りということから、ガラスとアルミとがふんだんに外壁に使用されている総ガラスファサードビル(all-glass Facade Building)ということになる。
2. 鉄筋コンクリート造りだろうからコンクリートと鉄筋もかなりの量を使用しているだろう。
3. 従って1と2の項目から類推できるこのビルに内蔵されているカーボンフットプリント量は、必要以上に大きなものに仕上がっているだろう。そして全面ガラス張りということから冷暖房に要するエネルギーも増大してしまう作りに仕上がっており、ビルの運転操業に関わる電気や燃料から由来するカーボンフットプリント量も必要以上に大きなものになっているのではないか。
4. そして、元材木置き場付近という都心を選んでそこに居を構える必要がそもそもあったのか?ということも問題としてある。
上に指摘した幾つかの疑問点に関連する情報を紹介することで、当該ビルの無思慮さ・それを許している社会の未熟さを浮き出させてみたい。
まずガラスとアルミやコンクリートと鉄筋とがふんだんに使用されているだろうことへの懸念である。これら素材のカーボンフットプリント量についての情報を紹介する。
PLITEQ社の情報記事(9Building materials and their shoking carbon footprints that will surprise you,2022年1月7日)に主要な建築材料のカーボンフットプリント値が紹介されている。カーボンフットプリント値の大きい順に記していく。
アルミ:強度対重量の観点からは高い性能を持っており、容易に利用でき輸送費も安く、劣化しにくく維持費も安いという特徴がある。しかしアルミ1m³(立方メートル)当たり平均して18,009kgの炭素を内蔵している。即ちアルミ製造に莫大なエネルギーが必要ということ。
鋼材:世界の鋼材需要の50%以上が建築業界向け。デザイン性・価格・強度において利用価値は高いが、鋼材1m³当たり平均して12,090kgの炭素を内蔵しており、持続可能な建築材料とは見なし得ないものと言える。
ガラス:建築物にはある割合で自然の光を取り入れることを要請する法律がある。従ってガラスは必須材料ではあるものの、残念ながらガラス1m³当たり平均して3,600kgの炭素が内蔵されている。従って環境に優しい材料とも言えない。
鉄筋コンクリート(Reinforced Concrete):1m³当たり平均して635kgの炭素をその製造工程ならびに輸送・施工工程の故に内蔵している。業界が常用し依存しているところから、もっとも有害な材料の一つといえる。
粘土レンガ:1m³当たり平均して345kgの炭素を内蔵している。
石:粘土レンガとともに人が最初に出会った建築材料。1m³当たり平均して237kgの炭素を内蔵している。
直交集成材(Cross Laminated Timber:CLTと略記される):各層が互いに直交するように積層し接着剤を用いて集成化したもの。今日、低カーボンフットプリント向け建築材料として最も利用されている。デザイン性が高く軽量で強度があり、設置が容易という性能から、大規模なビルに利用されている。音響性や耐火性能も良く建築現場でほとんどゴミを出さないという特徴も持っている。直交集成材は1m³当たり平均して219kgの炭素を内蔵している。日本は建築物規制上、本材料を使用できる場面が限られているのが実情であり、また森林計画経営や切り出しし輸送して、そして加工するという全ての場面において、システムは形の上では整っているものの、血が通っておらず本気度も何時ものことながらあると言えない状況が放置されていると思う。この点については次回取り上げてみたい。
軟木材(Soft Wood Timber:針葉樹軟材):軟材は仕上げ素材として良く利用されている。軟材は1m³当たり平均して110kgの炭素を内蔵している。
練り土:土、白墨、石灰や砂利等の自然素材のみを使用する古代からの建築材料。練り土1m³当たり平均して48kgという最少のカーボンフットプリントを持っている。この長所から現代建築に徐々に利用が広まっている面があるという。
当該ビルには、ガラスとアルミやコンクリートと鉄筋とがふんだんに使用されていると予想され、上記のカーボンフットプリント値からかなり余分なカーボンフットプリントが内蔵されていることになる。カーボンオフセットの理念が働いていたとは思えない所である。
次に当該ビルが総ガラスファサードビル(all-glass Facade Building)に仕上がっているということから、冷暖房に要するエネルギーも増大してしまい、ビルの運転操業に関わる電気や燃料から由来するカーボンフットプリント量も必要以上に大きなものになっているのではないか、という総ガラスファサードビルならではの情報を紹介したい。
総ガラスファサードビル(all-glass Facade Building)を紹介している情報には数多くのものがある。ここでは以下の3つを挙げ、特に3つ目のKuo氏がハーバード大にて先学期に行ったセミナー「より厚みを(Thicker)」についてカレン・シッフ氏が紹介している記事が良く纏まっているので、Kuo氏の思いを紹介しながら、それを中心に総ガラスファサードビルの問題点を考えてみたい。
1. Why glass skyscrapers are bad for the environment. Vontobel 2019年2月12日
2. Can an all-Glass Office Building really be considered Green? By L.Alter Treehugger 2020年5月27日
3. Heat Magnets:Jeannette Kuo on Mitigating the Harmful Effects of Glass Building Façade Harvard university Graduate School of Design By Karen Schiff 2022 march1
1832年Goetheが死の床で「もっと光を」と言った当時の建物の外壁は、建物の重さを支える役割を持っていたことから「厚み」が必要であった。従って窓は小さなものにならざるを得なかった。その後の数十年間建築物の構造は進化していき、外壁が支える必要のある荷重は低下していき、設計士らは窓を広く取れるようになっていった。
その結果建物の採光性は高まっていった。そしてガラスという素材に注目が集まり、豪華さや贅沢さという性能を建築物に与えるものがガラスであるという認識のもと、ガラスの技術革新が目標の一つとなっていった。
20世紀に至り、透明感を拡大していく傾向を追求した結果、そしてビル外壁がビル荷重を支える必要性も最小化できる技術革新も相まって、外壁にはガラスのカーテンを吊るすがごとくのガラスカーテンウォール(glass curtain wall)・ガラスファサード(glass façade)が出現することとなった。
ガラスカーテンウォール・ガラスファサードはオフィスビルに特に採用され、グローバル資本主義のハイテク世界に参画している象徴と企業に捉えられるに至った。透明な外観は力を象徴する独特の雰囲気をも持っていた。そして社会に開かれた透明性の高い事業体というイメージをも打ち出せる効能も、全面ガラス壁高層ビルが至る所に増殖した要因と言える。
「もっと光を」から誘導されたカーテンウォール・ガラスファサードは、残念ながら「地球の死」に結び付くことになっていった。
日の光は熱気をもたらす。従って相応の冷房装置が必要であり、コスト面だけでなく冷房装置がエネルギーを消費することから更なる熱気を生みだすことになり、地球温暖化に拍車がかかることになる。またガラスは断熱性が劣っており、エネルギー損失を増大させる。
現在非常に多くの高層ビルが全面ガラス壁(all-glass curtain wall)を採用しており、環境への負荷の問題が拡大している。
2019年ニューヨーク市はグリーンニューディール政策に呼応して、今後のカーテンウォール利用ビルに対して厳しい規制を課している。そして総床面積25,000平方フィート(約2320m²)以上の既存ビルに対しては再設計または改築してエネルギー消費を削減するよう要請することになっている。
Kuo氏は「より厚みを(Thicker)」というセミナーで教鞭を取っている。Thickerというタイトルは、古くから使われていた厚みのある外壁物を研究することにより、現在の全面ガラスカーテンウォール(façade)に代わる外壁が創造される可能性があるという考えから付けられている。
Kuo氏の思想は、彼女が育った熱帯のインドネシアにおいて、植民地と化したような造形物としての全面ガラス高層ビルを見つめてきた経験に基づいている。Kuo氏は、西洋の経済発展のイメージに直結したものとして、グローバル企業が全面ガラス高層ビルを利用してきたのではないか、と考えている。しかも、デザイン選択の際には地域特性を考慮することが無くなっている。それ故に持続可能性が期待できない酷暑の地でも莫大なエネルギーを要求する構築物が作りだされることになっている。
Kuo氏は、進歩と力を象徴する別の形式が創造される時代がやって来るまでは、現在の全面ガラスカーテンウォール(façade)が優先的・自動的に選択される時代が継続されるだろうとの学説を立てている。
全面ガラスカーテンウォールの醸し出す進歩と力の象徴が重要な意味を持つという思いは、誰が持つのだろうか?
カーテンウォールというものは、ビルが自然環境と対峙し対決するものであり、自然はコントロール出来るものだとする20世紀の風変わりな傲慢さを内に秘めた思想からの産物なのだろう。西洋は日の光に価値を置く。一方西洋以外の文化の地域では日陰が癒しを与えるものという価値観が歴史的に存在している。日陰を優先する思想と力に関する新しい見方との関係が今後どうなっていくのだろうか。
PLITEQ社の情報記事に紹介された主要な建築材料のカーボンフットプリント値の情報とKuo氏のセミナー「より厚みを(Thicker)」を紹介するカレン・シッフ氏の記事から、全面ガラス高層ビルは、そのビル自体を構成している材料素材のガラス・アルミ・コンクリ・鉄筋を製造し、現場まで運び、そして組み立てる上で消費したエネルギー総体の持つ内蔵されたカーボンフットプリント量が意味無く高くなっている可能性が大きく、またビル完成後の操業運転時のランニングエネルギーも意味無く過大に消費される可能性が大きい、と言える。
これだけの無駄がかなりの確度で容易に指摘できる公金を使っての箱物が、社会の中に違和感なく存在しているということは、現在の私達の社会がまだまだ不合理であり未熟な部分をもっている、ということを指摘し続ける必要があると感じるところです。
かかる観点からも、最初に触れたカーボンフットオフセットの理想的な理念をなんとか私達の政治経済活動に取り入れていけないものかと願う所です。
具体的には行政に対して、無駄なカーボンフットプリント部分を充分に削ぎ落とす努力を組み込んだ計画案作りを義務付け、それでも残存するカーボンフットプリントについてはクレジット購入等の環境保全行動でオフセットする行動も義務付ける。こんなシステムで動く世の中に向かっていきたいものです。
最後に、最初に掲げた「元材木置き場付近という都心を選んでそこに居を構える必要がそもそもあったのか?」という疑問点も重要な視点を提供する疑問と考えます。この疑問は、「スクラップし、そして新たにビルドする」という現在の日本全体に良く見られる思想に繋がる問題です。
元材木置場の地、江東区に建っている10階建てビルに即して述べれば、その団体の本庁は霞が関にあり、情報の蓄積と処理等の職務は今の時代リモートで充分対応可能と思われる。公金が絡むことを真剣に思慮すれば、遠隔地の例えば今は使われていない廃校跡地等を利用する様な考えを持ち込んで無駄な公金の発生をいかに削減するか、という考えがどうして持てなかったのか?が訝れるところです。
廃校跡地等の古い構築物を補修補強等手直しして新たな利用を図るという、エコ活動本来の望ましい姿を無視する我が国の現在の建築思想に極めて大きな違和感を持っています。
そして廃校跡地等のコモンズの有効再利用をしないという不作為、および地球上に住む全員が平等に共同管理・利用してしかるべき、限りある大切な資源という名のコモンズを無駄に使っているという傲慢さは、忘れてはいけないことと思っています。
次回は、なおざりにされ、夢が持てない我が国の森林経営問題を、世界の潮流と対比することにより、公金問題を掘り下げてみたいと思います。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
yo-chan
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カーボンオフセット(Carbon Offset)とは、人の経済活動や生活などを通して「ある場所」で排出された、または内蔵された二酸化炭素CO2などの温室効果ガス(Greenhouse Gas:以下GHGと記す)を、植林や森林保護・クリーンエネルギー事業等のGHG削減活動に関与(投資)することで「他の場所」で直接的、間接的に吸収しようとする考え方や活動のことを示す言葉、とされている。
上の説明を、理想を加えて更に補足説明すると次のように纏める事が出来ると言われています。非常に興味深い考え方を内に秘めていると思うので、以下に紹介します。
1. 人の行うもろもろの経済活動には、CO2等のGHGの排出や内蔵が必然的に伴う。
2. 従って経済活動を計画する事業体は、その経済活動から排出され内蔵されると予測される「GHG量を最小化する削減努力」を計画時に合わせて取り込み行うことが第一に求められる。
3. 「削減努力を尽くした」後にどうしても残ってしまう排出量に対して、それを埋め合わせる目的で事業体は、公的機関から認証済みの活動(例えば植林や森林活動やクリーンエネルギー事業等)を行っている事業体の発行するクレジットを購入する等の行動を併せて行うことが、カーボンオフセットの理念とする行動である。
これら1から3の一連のながれの考え方には、人の活動というものはどうしてもある量の排出GHG・内蔵GHGが発生し、ある量のカーボンフットプリントが足跡として地上に刻まれ残らざるを得ない宿命にあるものだが、地球が無限大ではなく限りある存在だということが分かってしまった現在、当該事業からのカーボンフットプリントを最小化する努力がなければ温暖化等の気候危機を抑制することが出来ず、しかるが故に「最大限の削減努力」が求められ、それにもかかわらず残るカーボンフットプリントについてはGHG削減活動に投資することで、当該事業が及ぼす環境への負荷を更に極小化したい、という私達の願いが根底にあると思う。
そして有限な資源の無駄使いの無意味さ傲慢さに気付き、有限な資源(コモンズ)を他者へも最大限に残しておくことが大切な考え方だということだろう。
理想的な願望と指弾されるかもしれないが、なんとかこの理念を私達の政治経済活動に取り入れていけないものかを最近考えている。
しかし、いま我々の眼前に起こっている再開発事業の様々な様相は、カーボンオフセットの理念からかけ離れた状況で事態は推移しているのではないか、と思ってしまう。言い方を替えれば、私達の願いが叶っていると言える程には社会は成熟してはいないのではないだろうか。カーボンオフセットの理念が掛け値なしで実現される世の中作りの方向性は、しっかりと持ち続けておきたいと思う。
以前にも何回か紹介した、とある公共団体の建物を材料として公金の研究について更に考えを進めてみたい。
指摘する公共団体の建物は、昔は材木置き場で名高い地域の特許関係の外郭団体ビル。敷地は800坪程。そこに現在、都市部で多く見かける、ほぼ全面ガラス張り10階建てビルが立っている。1フロア500坪程と推測されることから、総床面積は500坪x3.3m²x10階=16500平米程となる。
問題として指摘したい点が、幾つかある。
1. 見る限り全面ガラス張りということから、ガラスとアルミとがふんだんに外壁に使用されている総ガラスファサードビル(all-glass Facade Building)ということになる。
2. 鉄筋コンクリート造りだろうからコンクリートと鉄筋もかなりの量を使用しているだろう。
3. 従って1と2の項目から類推できるこのビルに内蔵されているカーボンフットプリント量は、必要以上に大きなものに仕上がっているだろう。そして全面ガラス張りということから冷暖房に要するエネルギーも増大してしまう作りに仕上がっており、ビルの運転操業に関わる電気や燃料から由来するカーボンフットプリント量も必要以上に大きなものになっているのではないか。
4. そして、元材木置き場付近という都心を選んでそこに居を構える必要がそもそもあったのか?ということも問題としてある。
上に指摘した幾つかの疑問点に関連する情報を紹介することで、当該ビルの無思慮さ・それを許している社会の未熟さを浮き出させてみたい。
まずガラスとアルミやコンクリートと鉄筋とがふんだんに使用されているだろうことへの懸念である。これら素材のカーボンフットプリント量についての情報を紹介する。
PLITEQ社の情報記事(9Building materials and their shoking carbon footprints that will surprise you,2022年1月7日)に主要な建築材料のカーボンフットプリント値が紹介されている。カーボンフットプリント値の大きい順に記していく。
アルミ:強度対重量の観点からは高い性能を持っており、容易に利用でき輸送費も安く、劣化しにくく維持費も安いという特徴がある。しかしアルミ1m³(立方メートル)当たり平均して18,009kgの炭素を内蔵している。即ちアルミ製造に莫大なエネルギーが必要ということ。
鋼材:世界の鋼材需要の50%以上が建築業界向け。デザイン性・価格・強度において利用価値は高いが、鋼材1m³当たり平均して12,090kgの炭素を内蔵しており、持続可能な建築材料とは見なし得ないものと言える。
ガラス:建築物にはある割合で自然の光を取り入れることを要請する法律がある。従ってガラスは必須材料ではあるものの、残念ながらガラス1m³当たり平均して3,600kgの炭素が内蔵されている。従って環境に優しい材料とも言えない。
鉄筋コンクリート(Reinforced Concrete):1m³当たり平均して635kgの炭素をその製造工程ならびに輸送・施工工程の故に内蔵している。業界が常用し依存しているところから、もっとも有害な材料の一つといえる。
粘土レンガ:1m³当たり平均して345kgの炭素を内蔵している。
石:粘土レンガとともに人が最初に出会った建築材料。1m³当たり平均して237kgの炭素を内蔵している。
直交集成材(Cross Laminated Timber:CLTと略記される):各層が互いに直交するように積層し接着剤を用いて集成化したもの。今日、低カーボンフットプリント向け建築材料として最も利用されている。デザイン性が高く軽量で強度があり、設置が容易という性能から、大規模なビルに利用されている。音響性や耐火性能も良く建築現場でほとんどゴミを出さないという特徴も持っている。直交集成材は1m³当たり平均して219kgの炭素を内蔵している。日本は建築物規制上、本材料を使用できる場面が限られているのが実情であり、また森林計画経営や切り出しし輸送して、そして加工するという全ての場面において、システムは形の上では整っているものの、血が通っておらず本気度も何時ものことながらあると言えない状況が放置されていると思う。この点については次回取り上げてみたい。
軟木材(Soft Wood Timber:針葉樹軟材):軟材は仕上げ素材として良く利用されている。軟材は1m³当たり平均して110kgの炭素を内蔵している。
練り土:土、白墨、石灰や砂利等の自然素材のみを使用する古代からの建築材料。練り土1m³当たり平均して48kgという最少のカーボンフットプリントを持っている。この長所から現代建築に徐々に利用が広まっている面があるという。
当該ビルには、ガラスとアルミやコンクリートと鉄筋とがふんだんに使用されていると予想され、上記のカーボンフットプリント値からかなり余分なカーボンフットプリントが内蔵されていることになる。カーボンオフセットの理念が働いていたとは思えない所である。
次に当該ビルが総ガラスファサードビル(all-glass Facade Building)に仕上がっているということから、冷暖房に要するエネルギーも増大してしまい、ビルの運転操業に関わる電気や燃料から由来するカーボンフットプリント量も必要以上に大きなものになっているのではないか、という総ガラスファサードビルならではの情報を紹介したい。
総ガラスファサードビル(all-glass Facade Building)を紹介している情報には数多くのものがある。ここでは以下の3つを挙げ、特に3つ目のKuo氏がハーバード大にて先学期に行ったセミナー「より厚みを(Thicker)」についてカレン・シッフ氏が紹介している記事が良く纏まっているので、Kuo氏の思いを紹介しながら、それを中心に総ガラスファサードビルの問題点を考えてみたい。
1. Why glass skyscrapers are bad for the environment. Vontobel 2019年2月12日
2. Can an all-Glass Office Building really be considered Green? By L.Alter Treehugger 2020年5月27日
3. Heat Magnets:Jeannette Kuo on Mitigating the Harmful Effects of Glass Building Façade Harvard university Graduate School of Design By Karen Schiff 2022 march1
1832年Goetheが死の床で「もっと光を」と言った当時の建物の外壁は、建物の重さを支える役割を持っていたことから「厚み」が必要であった。従って窓は小さなものにならざるを得なかった。その後の数十年間建築物の構造は進化していき、外壁が支える必要のある荷重は低下していき、設計士らは窓を広く取れるようになっていった。
その結果建物の採光性は高まっていった。そしてガラスという素材に注目が集まり、豪華さや贅沢さという性能を建築物に与えるものがガラスであるという認識のもと、ガラスの技術革新が目標の一つとなっていった。
20世紀に至り、透明感を拡大していく傾向を追求した結果、そしてビル外壁がビル荷重を支える必要性も最小化できる技術革新も相まって、外壁にはガラスのカーテンを吊るすがごとくのガラスカーテンウォール(glass curtain wall)・ガラスファサード(glass façade)が出現することとなった。
ガラスカーテンウォール・ガラスファサードはオフィスビルに特に採用され、グローバル資本主義のハイテク世界に参画している象徴と企業に捉えられるに至った。透明な外観は力を象徴する独特の雰囲気をも持っていた。そして社会に開かれた透明性の高い事業体というイメージをも打ち出せる効能も、全面ガラス壁高層ビルが至る所に増殖した要因と言える。
「もっと光を」から誘導されたカーテンウォール・ガラスファサードは、残念ながら「地球の死」に結び付くことになっていった。
日の光は熱気をもたらす。従って相応の冷房装置が必要であり、コスト面だけでなく冷房装置がエネルギーを消費することから更なる熱気を生みだすことになり、地球温暖化に拍車がかかることになる。またガラスは断熱性が劣っており、エネルギー損失を増大させる。
現在非常に多くの高層ビルが全面ガラス壁(all-glass curtain wall)を採用しており、環境への負荷の問題が拡大している。
2019年ニューヨーク市はグリーンニューディール政策に呼応して、今後のカーテンウォール利用ビルに対して厳しい規制を課している。そして総床面積25,000平方フィート(約2320m²)以上の既存ビルに対しては再設計または改築してエネルギー消費を削減するよう要請することになっている。
Kuo氏は「より厚みを(Thicker)」というセミナーで教鞭を取っている。Thickerというタイトルは、古くから使われていた厚みのある外壁物を研究することにより、現在の全面ガラスカーテンウォール(façade)に代わる外壁が創造される可能性があるという考えから付けられている。
Kuo氏の思想は、彼女が育った熱帯のインドネシアにおいて、植民地と化したような造形物としての全面ガラス高層ビルを見つめてきた経験に基づいている。Kuo氏は、西洋の経済発展のイメージに直結したものとして、グローバル企業が全面ガラス高層ビルを利用してきたのではないか、と考えている。しかも、デザイン選択の際には地域特性を考慮することが無くなっている。それ故に持続可能性が期待できない酷暑の地でも莫大なエネルギーを要求する構築物が作りだされることになっている。
Kuo氏は、進歩と力を象徴する別の形式が創造される時代がやって来るまでは、現在の全面ガラスカーテンウォール(façade)が優先的・自動的に選択される時代が継続されるだろうとの学説を立てている。
全面ガラスカーテンウォールの醸し出す進歩と力の象徴が重要な意味を持つという思いは、誰が持つのだろうか?
カーテンウォールというものは、ビルが自然環境と対峙し対決するものであり、自然はコントロール出来るものだとする20世紀の風変わりな傲慢さを内に秘めた思想からの産物なのだろう。西洋は日の光に価値を置く。一方西洋以外の文化の地域では日陰が癒しを与えるものという価値観が歴史的に存在している。日陰を優先する思想と力に関する新しい見方との関係が今後どうなっていくのだろうか。
PLITEQ社の情報記事に紹介された主要な建築材料のカーボンフットプリント値の情報とKuo氏のセミナー「より厚みを(Thicker)」を紹介するカレン・シッフ氏の記事から、全面ガラス高層ビルは、そのビル自体を構成している材料素材のガラス・アルミ・コンクリ・鉄筋を製造し、現場まで運び、そして組み立てる上で消費したエネルギー総体の持つ内蔵されたカーボンフットプリント量が意味無く高くなっている可能性が大きく、またビル完成後の操業運転時のランニングエネルギーも意味無く過大に消費される可能性が大きい、と言える。
これだけの無駄がかなりの確度で容易に指摘できる公金を使っての箱物が、社会の中に違和感なく存在しているということは、現在の私達の社会がまだまだ不合理であり未熟な部分をもっている、ということを指摘し続ける必要があると感じるところです。
かかる観点からも、最初に触れたカーボンフットオフセットの理想的な理念をなんとか私達の政治経済活動に取り入れていけないものかと願う所です。
具体的には行政に対して、無駄なカーボンフットプリント部分を充分に削ぎ落とす努力を組み込んだ計画案作りを義務付け、それでも残存するカーボンフットプリントについてはクレジット購入等の環境保全行動でオフセットする行動も義務付ける。こんなシステムで動く世の中に向かっていきたいものです。
最後に、最初に掲げた「元材木置き場付近という都心を選んでそこに居を構える必要がそもそもあったのか?」という疑問点も重要な視点を提供する疑問と考えます。この疑問は、「スクラップし、そして新たにビルドする」という現在の日本全体に良く見られる思想に繋がる問題です。
元材木置場の地、江東区に建っている10階建てビルに即して述べれば、その団体の本庁は霞が関にあり、情報の蓄積と処理等の職務は今の時代リモートで充分対応可能と思われる。公金が絡むことを真剣に思慮すれば、遠隔地の例えば今は使われていない廃校跡地等を利用する様な考えを持ち込んで無駄な公金の発生をいかに削減するか、という考えがどうして持てなかったのか?が訝れるところです。
廃校跡地等の古い構築物を補修補強等手直しして新たな利用を図るという、エコ活動本来の望ましい姿を無視する我が国の現在の建築思想に極めて大きな違和感を持っています。
そして廃校跡地等のコモンズの有効再利用をしないという不作為、および地球上に住む全員が平等に共同管理・利用してしかるべき、限りある大切な資源という名のコモンズを無駄に使っているという傲慢さは、忘れてはいけないことと思っています。
次回は、なおざりにされ、夢が持てない我が国の森林経営問題を、世界の潮流と対比することにより、公金問題を掘り下げてみたいと思います。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
yo-chan