パワハラ疑惑などで9月に県議会から全会一致で不信任決議を受け失職した斎藤元彦前兵庫県知事が、11月17日投開票の県知事選で、前尼崎市長の稲村和美氏等を破って2回目の当選を果たした。
斎藤氏は今年3月、「パワハラや物品受け取りなどの疑惑」に関する内部告発を受けると、「うそ八百」「公務員失格」と告発・告発者を非難。「疑惑」の調査を第三者に委ねることなく、副知事らに指示して告発者を探し出し、告発した県幹部職員を懲戒処分にした。処分を受けた職員はその後死亡、自殺とみられている。
不信任決議を受けた直後の斎藤氏は、一人街角に立ち、通りがかりの主婦らしき女性や幼い子供連れの母親などから励ましの声を掛けられている姿を、SNS上で数回見せていたが、「不当な扱いを受けたひとりぼっちの被害者」という絵作りには不自然さが滲み出ていて、正直、違和感を覚えずにはいられなかった。
しかし、10月31日の告示日を過ぎ本格的な選挙戦が始まると、斎藤氏は単身で街頭演説に立ち、パワハラ疑惑などに直接触れることなく「県の行財政改革を進めてきた実績」や「若者への投資や物価高対策の継続」を自信ありげに訴え、その姿を数十人規模の「SNS部隊」がネット上に拡散。
斎藤氏応援の目的で知事選に立候補したN国党の立花孝史党首がばらまく「パワハラ疑惑はでっち上げ」というアシスト・メッセージと相俟って、「既得権益の嘘に負けないで!」という斎藤氏応援の機運が急速に拡大し、街頭演説にも大勢の人が押し掛けるようになった。
こうして、斎藤氏は当初の予想に反し、2位の稲村氏等を大幅に上回る110万超の得票で当選。選挙後に本人も「SNSが一番大事なツールだった」と言っているとおりの、作戦大成功の結果となった。
今回改めて浮き彫りになった、「SNS」というツールの持つ特性=一方向の情報を正しいと信じるとそれに合った情報で「思い込み」は補強され更に拡散される危うさ=は、多くの人が指摘しているとおりで、「早急に解決すべき重要課題」だと思う。
それはそれとして、私が今回の兵庫県知事選で何より気になったのは、今回の選挙戦が少なからず暴力的、あるいは攻撃的な、殺伐とした雰囲気だったことだ。
斎藤氏の街頭演説の場では、斎藤氏の支援者から器物損壊や傷害の容疑で複数人の逮捕者が出た。
対立候補の稲村氏に対しては、SNSで偽情報が出回り火消しに追われたり、稲村陣営のXサイトが選挙期間中に、組織的通報が原因と思われる状態で度々凍結された。「県政の混乱に終止符を打つ」とし、「対話と信頼関係で連携できる兵庫にしたい」と訴え続けた稲村氏は、選挙後「何と向き合っているのか違和感があった」と当惑を語った。
そして、9月に斎藤知事の証人尋問を行い、斎藤氏自身から「不適切な行為」が事実だったと一定程度認める証言を得ていた百条委員会のメンバーは、選挙期間中に立花孝史氏の直接間接の誹謗中傷にあっていた。奥谷委員長は立花氏が自宅前で街頭演説を行い、「引きこもってないで出てこいよ」「自死しても困るので、これくらいにしておく」と脅迫され、「でたらめな情報が広がる恐怖が身に染みた」と語っている。また百条委メンバーの一人、竹内英明県議は、立花氏にデマ情報を流され、家族を守るため議員辞職を決断、退職願が許可されたという。
このように異常な雰囲気の中で行われた知事選で選ばれ再出発することになった斎藤知事は、就任会見で「県議会や県職員との関係をもう一度前に進める」と強調し、百条委などの調査にも真摯に対応するとしている。
しかしその一方で、「内部告発問題」への当時の対応については、「適切かつ法的にも問題ない」と今もなお主張している。そして、11月25日に予定されている百条委尋問は、「政府主催の全国知事会に出席するため欠席」するという。
今回の知事選で表面化した県民間の深い溝は簡単には埋まらないのではないか、そして、県民の選択の結果とは言え、兵庫県政はこれからも当分混乱し、前途多難な状況が続くのではないかと、少々気に掛かるところではある。
「護憲+コラム」より
笹井明子
斎藤氏は今年3月、「パワハラや物品受け取りなどの疑惑」に関する内部告発を受けると、「うそ八百」「公務員失格」と告発・告発者を非難。「疑惑」の調査を第三者に委ねることなく、副知事らに指示して告発者を探し出し、告発した県幹部職員を懲戒処分にした。処分を受けた職員はその後死亡、自殺とみられている。
不信任決議を受けた直後の斎藤氏は、一人街角に立ち、通りがかりの主婦らしき女性や幼い子供連れの母親などから励ましの声を掛けられている姿を、SNS上で数回見せていたが、「不当な扱いを受けたひとりぼっちの被害者」という絵作りには不自然さが滲み出ていて、正直、違和感を覚えずにはいられなかった。
しかし、10月31日の告示日を過ぎ本格的な選挙戦が始まると、斎藤氏は単身で街頭演説に立ち、パワハラ疑惑などに直接触れることなく「県の行財政改革を進めてきた実績」や「若者への投資や物価高対策の継続」を自信ありげに訴え、その姿を数十人規模の「SNS部隊」がネット上に拡散。
斎藤氏応援の目的で知事選に立候補したN国党の立花孝史党首がばらまく「パワハラ疑惑はでっち上げ」というアシスト・メッセージと相俟って、「既得権益の嘘に負けないで!」という斎藤氏応援の機運が急速に拡大し、街頭演説にも大勢の人が押し掛けるようになった。
こうして、斎藤氏は当初の予想に反し、2位の稲村氏等を大幅に上回る110万超の得票で当選。選挙後に本人も「SNSが一番大事なツールだった」と言っているとおりの、作戦大成功の結果となった。
今回改めて浮き彫りになった、「SNS」というツールの持つ特性=一方向の情報を正しいと信じるとそれに合った情報で「思い込み」は補強され更に拡散される危うさ=は、多くの人が指摘しているとおりで、「早急に解決すべき重要課題」だと思う。
それはそれとして、私が今回の兵庫県知事選で何より気になったのは、今回の選挙戦が少なからず暴力的、あるいは攻撃的な、殺伐とした雰囲気だったことだ。
斎藤氏の街頭演説の場では、斎藤氏の支援者から器物損壊や傷害の容疑で複数人の逮捕者が出た。
対立候補の稲村氏に対しては、SNSで偽情報が出回り火消しに追われたり、稲村陣営のXサイトが選挙期間中に、組織的通報が原因と思われる状態で度々凍結された。「県政の混乱に終止符を打つ」とし、「対話と信頼関係で連携できる兵庫にしたい」と訴え続けた稲村氏は、選挙後「何と向き合っているのか違和感があった」と当惑を語った。
そして、9月に斎藤知事の証人尋問を行い、斎藤氏自身から「不適切な行為」が事実だったと一定程度認める証言を得ていた百条委員会のメンバーは、選挙期間中に立花孝史氏の直接間接の誹謗中傷にあっていた。奥谷委員長は立花氏が自宅前で街頭演説を行い、「引きこもってないで出てこいよ」「自死しても困るので、これくらいにしておく」と脅迫され、「でたらめな情報が広がる恐怖が身に染みた」と語っている。また百条委メンバーの一人、竹内英明県議は、立花氏にデマ情報を流され、家族を守るため議員辞職を決断、退職願が許可されたという。
このように異常な雰囲気の中で行われた知事選で選ばれ再出発することになった斎藤知事は、就任会見で「県議会や県職員との関係をもう一度前に進める」と強調し、百条委などの調査にも真摯に対応するとしている。
しかしその一方で、「内部告発問題」への当時の対応については、「適切かつ法的にも問題ない」と今もなお主張している。そして、11月25日に予定されている百条委尋問は、「政府主催の全国知事会に出席するため欠席」するという。
今回の知事選で表面化した県民間の深い溝は簡単には埋まらないのではないか、そして、県民の選択の結果とは言え、兵庫県政はこれからも当分混乱し、前途多難な状況が続くのではないかと、少々気に掛かるところではある。
「護憲+コラム」より
笹井明子