12月6日に最高裁は、「放送法に規定するNHK受信料制度は合憲」との判決を下した。その後その意義と重要性から、学者・ジャーナリスト・コメンテイターからメディアを通して多くの賛否両論が発せられたように思う。判決から時間もたったが、遅まきながら所見を述べてみたい。
先ず今回の判決は最高裁判所長官及びその14人の裁判官の人事権が実質内閣にあり(下記、憲法第6条2項、第79条)、かつNHKの会長人事も多数を制する国会の同意を得て首相が任命するNHK経営委員会に任命権があると規定されており、最高裁の裁判官全員と当裁判の原告であるNHKの会長人事権は直間接的に内閣に握られていることを指摘したい。利益相反まがいではなかろうか。果たしてこれで公正な裁判審理が期待できるであろうか。既にここに今回の判決の限界が潜んでいるように思われる。
第6条2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
第79条 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
しかし被告主張の憲法が規定する「契約自由の原則」が認められなかったとは言え、原告であるNHKにも厳しい判決であった様に思う。
1つは、「受信料制度が国家機関などから独立した表現の自由を支えている」(12月7日朝日新聞1面トップ記事)と判決は述べていることである。裏を返せば、不偏不党に徹し、時の政権政党に対する忖度放送を厳に戒めたものと解釈できる。まして籾井前NHK会長の「政府が右と言うことを左というわけにはいかない」発言など言語道断であろう。このことは12月7日の朝日新聞社説(下記*)も詳しく指摘している。
2つ目は、受信契約の成立には双方の合意が必要と指摘し、一方的に成立すると訴えたNHKの主張を退け、合意が成立しない場合は、NHKが契約を求める裁判を起こし勝訴することを成立の要件とし、辛うじて憲法の規定する契約自由の原則を保持したことであろう。
そして今回の最高裁判決で今後の訴訟でもNHKが勝訴することは保障されたとは言え、多数の訴訟には時間と経費を要し、粘り強く視聴者との契約の合意を促したものと思われる。
一方視聴者が今後契約に応じるか、不払い、契約拒否を主張し勝訴するには、NHKの偏向忖度報道、放送法の規定する不偏不党、公正な報道が遵守されていないことを厳しく指摘し、確約させるか、争点とするしかないであろう。
いずれにしろ今回の判決で視聴料には番組の娯楽料のみならず、公正中立な報道料も包含されているとの見方ができるようになったことは意義深い判決と言えよう。
最後に指摘したいのは、日本の学校ではモンテスキューの法の精神、即ち立法・司法・行政の国家機関の三権分立の理想型を教えられているが、果たして日本がそうなっているか、上記のとおり憲法第6条2、第79条をよく読むと、内閣(行政)が最高裁判所の裁判官(司法)の人事権を握り、真の三権分立でないことは明らかである。
日本は真の三権分立国家のように教え込まれる教育方法も問題であるが、真の平和主義、国民主権、基本的人権の確立には司法人事の行政からの完全独立が憲法改正の優先事項の一つであるにもかかわらず、改憲政党の自民党は無視、護憲政党は護憲成るが故に踏み込めずノータッチという状態である。これではいつまでも今回の様な行政裁判では常に国民は不利で、国民主権、基本的人権はおぼつかないであろう。
何か期待したい新党、立憲民主党は小泉首相の郵政解散や今回の安倍首相の国難突破解散を念頭に、首相の衆議院解散権の乱用禁止を憲法改正の理由に挙げているが、これは選挙戦を通じて国民が賢く乱用解散を見抜くように訴えていくべきで、首相の解散権を縛ると野党が選挙に勝利するチャンスを逃す面も有り、また逆手に取られて解散しない方に利用されかねず賛同できない。
*(12月7日、朝日新聞社説)NHK判決 公共放送の使命を常に
http://www.asahi.com/articles/DA3S13262522.html?ref=editorial_backnumber
『家にテレビがある者はNHKと受信契約を結ばなければならない――。そう定める放送法の規定が「契約の自由」などを保障する憲法に反するかが争われた裁判で、最高裁大法廷は合憲とする判決を言い渡した。
判断の根底にあるのは、公共放送の重要性に対する認識だ。特定の個人や国の機関などの支配・影響が及ばないようにするため、放送を受信できる者すべてに、広く公平に負担を求める仕組みにしているのは合理的だと、大法廷は結論づけた。
問題は、判決が説く「公共放送のあるべき姿」と現実との、大きな隔たりである。
NHK幹部が政治家と面会して意見を聞いた後、戦時下の性暴力を扱った番組内容を改変した事件。「政府が右ということを左というわけにはいかない」に象徴される、権力との緊張感を欠いた籾井(もみい)勝人前会長の言動。過剰演出や経費の着服などの不祥事も一向に絶えない。
今回の裁判でNHK側は「時の政府や政権におもねることなく不偏不党を貫き、視聴率にとらわれない放送をするには、安定財源を確保する受信料制度が不可欠だ」と主張した。
近年強まる政治家によるメディアへの介入・攻撃に抗し、この言葉どおりの報道や番組制作を真に実践しているか。職員一人ひとりが自らを省み、足元を点検する必要がある。
メディアを取りまく環境が激変し、受信料制度に向けられる視線は厳しい。それでも多くの人が支払いに応じているのは、民間放送とは違った立場で、市民の知る権利にこたえ、民主主義の成熟と発展に貢献する放送に期待するからだ。
思いが裏切られたと人々が考えたとき、制度を支える基盤は崩れる。関係者はその認識を胸に刻まなければならない。
あわせて、NHKが道を踏み外していないか、政治の側が公共放送の意義をそこなう行いをしていないか、チェックの目を光らせ、おかしな動きにしっかり声をあげるのが、市民・視聴者の務めといえよう。
最近のNHKは、民放との二元体制で放送を支えてきた歴史を踏まえずに事業の拡大をめざすなど、自らの事情を優先する姿勢に批判が寄せられている。
今回の受信料裁判を機に、公共放送のあり方について、あらためて社会の関心が集まった。
これからの時代にNHKが担う役割は何か。組織の規模や業務の内容は適正といえるか。NHKが置き去りにしてきた、こうした根源的な問題について議論を深めていきたい。』
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
厚顔