「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
SOTC719
レッド・ラギッド・ロード 24
ラモンの話、第24話。
強豪たちとの会敵。
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24.
かつてはATモータースのクルマでモータースポーツに臨んでいた身であるため、ラモンもこのメーカーには浅からぬ因縁を感じている。
(キャバリエに限らず、ATのクルマって加速がいいんだよな。ターボの製造技術だけは長年の経験と実績ってやつで、コロモやミナトより断然性能がいい。後付けのターボキットだけ販売してるくらいだし。
後ろのクリスって奴、その利点をちゃんと理解してる走りしてる。コーナーの出口ではいくらか離せるけど、次のコーナーに入るまでにその貯金がほぼ崩される。立ち上がり重視のターボ走行だ)
9周目を終え、両者ともホームストレートを通過したところで、ついにラモンはすぐ後ろに張り付かれた。
(だけど)
10周目の第1コーナーに突っ込み、ラモンはもう一度クリスを引き離す。
(一方でATモータースは総じて燃費が悪い。他ならぬターボ技術偏重、ハイパワー至上主義のせいで、だ)
10周目の最初から最後まで離れては食らい付かれ、食らい付かれては離される展開が繰り返され、最後のロングストレートに入ったところで――クリスはくん、とコースの内側に進路を変え、ピットインした。
(こっちの1.6L無過給に対してそっちのハイパワー2Lターボは、先にガソリンが尽きる。わざと追いかけっこさせたこともあって、さらに早くガソリンを消耗させることに成功した。多分、想定よりも1周早く、ピットインせざるを得なくなっただろう。となると最終盤、タイヤがずるずるの状態で頑張らなきゃいけなくなる。あんたも今、勝負から引きずり下ろさせてもらった。
あんた、闘争心は流石にトップレーサーだけあって強いけど、それが仇になってるってところもあるな。名脇役止まりの原因か、それともそのせいで焦りグセが付いちゃったのか)
うっすら笑うくらいに、この時のラモンは冷静かつ狡猾にレースを運んでいた。
その後の11周目で悠々と一人旅をこなし、ラモンはピットインに入った。
「流石だな。キッチリ、タイヤが終わる直前に戻ってきてる」
「タイヤマネジメントできなきゃレースやるどころじゃないでしょ。他のクルマは?」
「ピットインしたりしなかったりだ。お前さんとの差をどうにか詰めようと悪戦苦闘してる感じだな」
短い会話の間に一聖がタイヤを交換し終え、ラモンはふたたびコースへと飛び出した。
「順位教えて下さい」
《今、7位まで下がった。6位との差は0.4秒。1位とは12秒ちょい離れてる》
「今上位にいるのは、まだピットインしてないのばっかりですよね?」
《ああ。だがソレを差し引いても3秒は差がある。絶対追い抜けよ》
一聖の要求にも、ラモンは冷静にこの後の展開を予測し、算出する。
(残りは9周。ピットインの間にちょっと抜かれたけど、ラスト1周でスパートかける余力は十分ある)
そして自信たっぷりに、その算出結果を一聖に伝えた。
「たった3秒差? 余裕ですよ、そんなの」
言っている間に、ヴォルペのフロントガラスに6位のクルマを捉える。
(あれは……クズリのエンフォだっけ。央北の……トラス王国のクルマだったっけか。あ、去年の王国の騒ぎで本社移転したんだっけ? まあいいや)
第2セクターのオーバルコーナーに入ったところで、ラモンは右前輪をコーナー内側の縁石に引っ掛け、すい、と6位のクルマを内側から抜く。
(敵らしい敵でもない。あと残ってる要注意選手は……)
そのまま2周、3周とこなす内に順位はするすると上がり、ほどなく2位のクルマと十数メートルの辺りにまで迫る。
(あれだ。あっちもコロモのクルマで、ライトウェイト2シーターセダンのヴェロチスタ)
ラモンと同様、向こうもコーナーをドリフト走行でクリアする。フロントガラス越しに車体の側面を目にし、ラモンは息を呑む。
(うえっ……僕がちょっと引くレベルの、ものすごいカニ走りだ)
一見、破れかぶれの自爆走法にも見えなくなかったが、ラモンはその真価を見抜く。
「カズちゃん、2位って誰です?」
《ワフィカ・ジブリルだな。同じコロモ社のクルマか》
「地元勢最速って話でしたっけ。後ろから見てますけど、ヤバい走りしてますよ」
《お前さんが言うほどか? オレの見た感じ、どっこいどっこいってトコだぞ》
「だから警戒してるってとこはあります。上手いです、かなり」
ワフィカはラモンに負けず劣らずの猛攻を見せ、16周目の最終コーナーで1位のクルマを大外から被せるようにして抜き去った。
(うっわ……豪快! 音からして、あっちもノンターボのメカチューンだ。しかも相当いじり倒してる。チューニングのコンセプトが似てるんだろうな、こっちのクルマと)
ラモンも――どうやらワフィカのオーバーテイクで虚を突かれ、呆然としているらしい――2位のクルマをコーナー出口の立ち上がりで抜き去り、順位を上げた。
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強豪たちとの会敵。
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かつてはATモータースのクルマでモータースポーツに臨んでいた身であるため、ラモンもこのメーカーには浅からぬ因縁を感じている。
(キャバリエに限らず、ATのクルマって加速がいいんだよな。ターボの製造技術だけは長年の経験と実績ってやつで、コロモやミナトより断然性能がいい。後付けのターボキットだけ販売してるくらいだし。
後ろのクリスって奴、その利点をちゃんと理解してる走りしてる。コーナーの出口ではいくらか離せるけど、次のコーナーに入るまでにその貯金がほぼ崩される。立ち上がり重視のターボ走行だ)
9周目を終え、両者ともホームストレートを通過したところで、ついにラモンはすぐ後ろに張り付かれた。
(だけど)
10周目の第1コーナーに突っ込み、ラモンはもう一度クリスを引き離す。
(一方でATモータースは総じて燃費が悪い。他ならぬターボ技術偏重、ハイパワー至上主義のせいで、だ)
10周目の最初から最後まで離れては食らい付かれ、食らい付かれては離される展開が繰り返され、最後のロングストレートに入ったところで――クリスはくん、とコースの内側に進路を変え、ピットインした。
(こっちの1.6L無過給に対してそっちのハイパワー2Lターボは、先にガソリンが尽きる。わざと追いかけっこさせたこともあって、さらに早くガソリンを消耗させることに成功した。多分、想定よりも1周早く、ピットインせざるを得なくなっただろう。となると最終盤、タイヤがずるずるの状態で頑張らなきゃいけなくなる。あんたも今、勝負から引きずり下ろさせてもらった。
あんた、闘争心は流石にトップレーサーだけあって強いけど、それが仇になってるってところもあるな。名脇役止まりの原因か、それともそのせいで焦りグセが付いちゃったのか)
うっすら笑うくらいに、この時のラモンは冷静かつ狡猾にレースを運んでいた。
その後の11周目で悠々と一人旅をこなし、ラモンはピットインに入った。
「流石だな。キッチリ、タイヤが終わる直前に戻ってきてる」
「タイヤマネジメントできなきゃレースやるどころじゃないでしょ。他のクルマは?」
「ピットインしたりしなかったりだ。お前さんとの差をどうにか詰めようと悪戦苦闘してる感じだな」
短い会話の間に一聖がタイヤを交換し終え、ラモンはふたたびコースへと飛び出した。
「順位教えて下さい」
《今、7位まで下がった。6位との差は0.4秒。1位とは12秒ちょい離れてる》
「今上位にいるのは、まだピットインしてないのばっかりですよね?」
《ああ。だがソレを差し引いても3秒は差がある。絶対追い抜けよ》
一聖の要求にも、ラモンは冷静にこの後の展開を予測し、算出する。
(残りは9周。ピットインの間にちょっと抜かれたけど、ラスト1周でスパートかける余力は十分ある)
そして自信たっぷりに、その算出結果を一聖に伝えた。
「たった3秒差? 余裕ですよ、そんなの」
言っている間に、ヴォルペのフロントガラスに6位のクルマを捉える。
(あれは……クズリのエンフォだっけ。央北の……トラス王国のクルマだったっけか。あ、去年の王国の騒ぎで本社移転したんだっけ? まあいいや)
第2セクターのオーバルコーナーに入ったところで、ラモンは右前輪をコーナー内側の縁石に引っ掛け、すい、と6位のクルマを内側から抜く。
(敵らしい敵でもない。あと残ってる要注意選手は……)
そのまま2周、3周とこなす内に順位はするすると上がり、ほどなく2位のクルマと十数メートルの辺りにまで迫る。
(あれだ。あっちもコロモのクルマで、ライトウェイト2シーターセダンのヴェロチスタ)
ラモンと同様、向こうもコーナーをドリフト走行でクリアする。フロントガラス越しに車体の側面を目にし、ラモンは息を呑む。
(うえっ……僕がちょっと引くレベルの、ものすごいカニ走りだ)
一見、破れかぶれの自爆走法にも見えなくなかったが、ラモンはその真価を見抜く。
「カズちゃん、2位って誰です?」
《ワフィカ・ジブリルだな。同じコロモ社のクルマか》
「地元勢最速って話でしたっけ。後ろから見てますけど、ヤバい走りしてますよ」
《お前さんが言うほどか? オレの見た感じ、どっこいどっこいってトコだぞ》
「だから警戒してるってとこはあります。上手いです、かなり」
ワフィカはラモンに負けず劣らずの猛攻を見せ、16周目の最終コーナーで1位のクルマを大外から被せるようにして抜き去った。
(うっわ……豪快! 音からして、あっちもノンターボのメカチューンだ。しかも相当いじり倒してる。チューニングのコンセプトが似てるんだろうな、こっちのクルマと)
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