「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
SOTC719
レッド・ラギッド・ロード 23
ラモンの話、第23話。
ロケットスタート。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
23.
《さあスタートしまし……ああっと!? ナンバー4、ミリアン選手! いきなり前に出た!?》
実況が叫んだ通り――まだ様子見半分で半開走行気味だった他の車輌を尻目に、ラモンは勢い良く前に飛び出し、いち早く第1コーナーに飛び込んだ。
《攻めますね! ですが茫然自失の逸走ではありません。第1コーナーへの進入に迷いが見られないです。抜けた後の挙動も乱れていません》
《信じられない! これは完全に場の状況を把握した走りですよ!? いや、向こう見ずな走りにも思えますが……》
《おそらく他の選手が様子見している間に出し抜く戦略だったんでしょう。してやったりと言った気分でしょうね》
アナウンスの声は聞こえてはいないが、この時ラモンが考えていたことは、まさしく解説が考察した通りのものだった。
(案の定だな。新設サーキットでの様子見は定石ではあるけど、それを見抜いてこそレース戦略ってもんだろ? ついでにペースも作らせてもらう。ハイペースな展開になれば消耗も早いけど、軽いヴォルペなら比較的有利だ)
と、インカムから一聖の慌てた声が飛んでくる。
《ラモン!? お前、何やってんだ!? いきなりドリフトかましてんじゃねーよ!》
ラモンは笑いをこらえつつ、余裕を持って答える。
「スタートダッシュってやつですよ。問題なしです」
《20周しなきゃならねーってコトを忘れんなよ。タイヤ交換は1回で押さえたい》
「分かってます。このペースだとタイヤがヘタるのは13~14周くらいなので、その1周前、12周でピットインします。後ろとのタイム差、教えて下さい」
《今は1.6秒リードだ。頼むぜ》
「了解。半周ごとにタイム差教えて下さい」
《分かった》
まもなくその半周を越え、一聖からタイム差が伝えられる。
《1.6秒。あんまり離せてねーぞ》
「2位は何です?」
《ハッサン・ナジム、去年の3位だな。車種はミナトのシビルスターだ》
伝えられた情報を、ラモンはオーバルコーナーを軽めに流しながら分析する。
「ヴォルペと同郷、同カテゴリーのハッチバックですね。典型的なライバル車で、性能もほぼ一緒のはず……」
そして第3セクターに入る辺りで、処理した情報を一聖に出力する。
「じゃあ多分、僕がヴォルペで突っ込んだから向こうも行けると思って、僕のすぐ後ろで真似る作戦なんでしょう。あと2周もすれば振り切れます」
《マジかよ》
最後に控えたコース最長のストレートに差し掛かる直前、ラモンはバックミラー越しにその2位、ハッサンの様子を確認する。
(肩がガチガチにこわばってるのが丸分かりだ。懸命にコピーしてるってとこか。
さっき解説が言ってたのチラッと聞いてた通り、あんたのドライビングセンス、確かにすごいのはすごいよ。1周目の第1コーナーで出し抜き戦術にすぐ対応して追いかけてきたのは、考えてどうこうってスピードじゃない。完全に反射神経のそれだ。走りをトレースする能力もズバ抜けてる。
だけどそれがあんたの長所でもあり、短所でもある。そりゃあんたのそのセンスなら1周、2周くらいは完コピできるだろう。でもこのレースは20周だ。初っ端からそんな神経とタイヤの使い方してたら、後が続かないぜ)
ラモンがにらんだ通り、レースが4周目に入った辺りから、次第にハッサンとの差が開き始める。
(悪いけどあんたは敵じゃない。……今は、だけど)
4周目の後半には、ハッサンは後続のクルマにすいすいと抜かれ、沈んでいった。
(もし敵になるとしたら、次くらいかな。次は去年のレースやってたところって話だし、流石にコースの理解度じゃ、僕の分が悪いだろう)
そして沈んでいくハッサンのミナト・シビルスターの代わりにラモンの背後に現れたのは、ATモータースのキャバリエだった。
「後ろのキャバリエは誰です? ポールポジション(予選1位)の奴ですか?」
尋ねたラモンに、一聖が応答する。
《ああ。クリス・フォッシュ、央中のレースで鳴らしたヤツらしい。知ってるか?》
「小耳に挟んだくらいです。強いのは強いはずなんですけど、何年もくすぶりっぱなしの善戦マンだって話ですね」
《南海に来たのは負けグセ解消のためか、ソレとも河岸(かし)を変えるつもりか……。そっちは手強そうか?》
「そりゃ中央のトップレーサーなんですから、手強いでしょう。実際、予選1位なんですし。ちょっと気を付けます」
じわじわと迫ってくるクリスにそれとなく注意を向けつつも、ラモンは5度目の第1コーナーに攻め込んだ。
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ロケットスタート。
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23.
《さあスタートしまし……ああっと!? ナンバー4、ミリアン選手! いきなり前に出た!?》
実況が叫んだ通り――まだ様子見半分で半開走行気味だった他の車輌を尻目に、ラモンは勢い良く前に飛び出し、いち早く第1コーナーに飛び込んだ。
《攻めますね! ですが茫然自失の逸走ではありません。第1コーナーへの進入に迷いが見られないです。抜けた後の挙動も乱れていません》
《信じられない! これは完全に場の状況を把握した走りですよ!? いや、向こう見ずな走りにも思えますが……》
《おそらく他の選手が様子見している間に出し抜く戦略だったんでしょう。してやったりと言った気分でしょうね》
アナウンスの声は聞こえてはいないが、この時ラモンが考えていたことは、まさしく解説が考察した通りのものだった。
(案の定だな。新設サーキットでの様子見は定石ではあるけど、それを見抜いてこそレース戦略ってもんだろ? ついでにペースも作らせてもらう。ハイペースな展開になれば消耗も早いけど、軽いヴォルペなら比較的有利だ)
と、インカムから一聖の慌てた声が飛んでくる。
《ラモン!? お前、何やってんだ!? いきなりドリフトかましてんじゃねーよ!》
ラモンは笑いをこらえつつ、余裕を持って答える。
「スタートダッシュってやつですよ。問題なしです」
《20周しなきゃならねーってコトを忘れんなよ。タイヤ交換は1回で押さえたい》
「分かってます。このペースだとタイヤがヘタるのは13~14周くらいなので、その1周前、12周でピットインします。後ろとのタイム差、教えて下さい」
《今は1.6秒リードだ。頼むぜ》
「了解。半周ごとにタイム差教えて下さい」
《分かった》
まもなくその半周を越え、一聖からタイム差が伝えられる。
《1.6秒。あんまり離せてねーぞ》
「2位は何です?」
《ハッサン・ナジム、去年の3位だな。車種はミナトのシビルスターだ》
伝えられた情報を、ラモンはオーバルコーナーを軽めに流しながら分析する。
「ヴォルペと同郷、同カテゴリーのハッチバックですね。典型的なライバル車で、性能もほぼ一緒のはず……」
そして第3セクターに入る辺りで、処理した情報を一聖に出力する。
「じゃあ多分、僕がヴォルペで突っ込んだから向こうも行けると思って、僕のすぐ後ろで真似る作戦なんでしょう。あと2周もすれば振り切れます」
《マジかよ》
最後に控えたコース最長のストレートに差し掛かる直前、ラモンはバックミラー越しにその2位、ハッサンの様子を確認する。
(肩がガチガチにこわばってるのが丸分かりだ。懸命にコピーしてるってとこか。
さっき解説が言ってたのチラッと聞いてた通り、あんたのドライビングセンス、確かにすごいのはすごいよ。1周目の第1コーナーで出し抜き戦術にすぐ対応して追いかけてきたのは、考えてどうこうってスピードじゃない。完全に反射神経のそれだ。走りをトレースする能力もズバ抜けてる。
だけどそれがあんたの長所でもあり、短所でもある。そりゃあんたのそのセンスなら1周、2周くらいは完コピできるだろう。でもこのレースは20周だ。初っ端からそんな神経とタイヤの使い方してたら、後が続かないぜ)
ラモンがにらんだ通り、レースが4周目に入った辺りから、次第にハッサンとの差が開き始める。
(悪いけどあんたは敵じゃない。……今は、だけど)
4周目の後半には、ハッサンは後続のクルマにすいすいと抜かれ、沈んでいった。
(もし敵になるとしたら、次くらいかな。次は去年のレースやってたところって話だし、流石にコースの理解度じゃ、僕の分が悪いだろう)
そして沈んでいくハッサンのミナト・シビルスターの代わりにラモンの背後に現れたのは、ATモータースのキャバリエだった。
「後ろのキャバリエは誰です? ポールポジション(予選1位)の奴ですか?」
尋ねたラモンに、一聖が応答する。
《ああ。クリス・フォッシュ、央中のレースで鳴らしたヤツらしい。知ってるか?》
「小耳に挟んだくらいです。強いのは強いはずなんですけど、何年もくすぶりっぱなしの善戦マンだって話ですね」
《南海に来たのは負けグセ解消のためか、ソレとも河岸(かし)を変えるつもりか……。そっちは手強そうか?》
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