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    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    SOTC719

    レッド・ラギッド・ロード 25

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    ラモンの話、第25話。
    ラスト1周の駆け引き。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    25.
    《今、2位まで来たぞ。だが前にいるヤツもピットイン済だから、順調に行けばもうペースダウンするコトはないだろう。1秒差だ》
     一聖からの無線を受け、ラモンは冷静に応答する。
    「残り4周でしょう? このままペースを維持して、ラストで抜きます」
    《大丈夫か?》
    「無理に今抜いてもタイヤがタレますし、相手もムキになります。余裕持って抜いてやりゃいいんですよ」
    《分かった、その作戦で行こう。頼んだぞ、ラモン》
    「任せて下さい」
     通信を終え、ラモンは目の前のヴェロチスタを観察する。

    (ま、カズちゃんに説明した通りだ。あの走りを無理やり崩すのは僕がキツくなる。走りからしても負けん気が強そうだし、抜いて抜かれてのドッグファイトになったら泥沼だ。それで揃って後続に抜かれたりしちゃ、何の意味も無いし。
     それより今はこの位置をキープする。ぴったり1秒差で付かず離れず、相手のバックミラーに映り続ける。勝気なタイプなら、これで焦(じ)れてくる。スパートかけて引き離そうとするはずだ)
     18周目、19周目と、まるで縄でつながれているかのように、コロモ車同士が先頭を突き進んでいく。
    (思った通りだ。19周目に入ってから、走りが一段とキレてきた。猛スパートかけて離そうとしてる。でも、離させない。絶対に逃さない。どんな走り方しようと、絶対にちぎらせないぜ)
     ワフィカのスパートは第2セクター、第3セクターに移ってもなお続いたが、その第3セクターの終盤から、挙動が乱れ始めた。
    《前のヤツ、最終コーナー抜ける時ずいぶん外に膨らんだな》
    「タイヤが終わってますね、明らかに。ラストの半ばくらい、シケインで抜きます」
    《了解。頼んだぜ》
     変わらず1秒差のまま、両者は最終、20周目に突入する。第1コーナーをアウトギリギリの、這々(ほうほう)の体で抜けたワフィカを観察しながら、ラモンもコーナーを抜ける。
    (勝負自体はほぼ決まった。何事も無ければ、僕が勝てる。……だけど何も起きないなんてこと、絶対無い。
     あのクソジジイの無茶苦茶さは、僕が一番良く知ってる。マフィアだらけのビルだろうと最高警備の防衛基地だろうと、そしてきっとサーキットのド真ん中だろうと、アルトじいさんは絶対に標的を仕留める)
    《ラモン!》
     と、一聖からの無線がふたたび入る。
    《1台すげースピードで迫ってきてる!》
    「誰です? クルマは?」
     そう返したものの、それが誰であるか、ラモンは何となく察していた。
    《あー……と、多分同姓の他人だとは思うが、アルエット・トッドレールってヤツだ》
    「マジで……」
     が、応じかけて、ラモンは首をかしげた。
    「……んん? 他人って?」
    《顔があのジジイと全然違う。おそらく無関係だ。車種はビアンクールのエクセレンス・インテンスだ》
     想定していなかった情報に面食らいつつも、ラモンはどうにか思考を切り替える。
    「ビアンクール? 西方のクルマですか? うーん……西方のはピンと来ないですが、ここで使うってことは速いんでしょうね、まあ」
    《普通に速いんだろう。だがソレを踏まえても、タイムが異常だ。第1セクターのコースレコードを4秒も更新してる》
    「は!?」
     とんでもない情報が耳に入り、百戦錬磨のラモンも流石にうろたえる。
    「4秒ですって!? 絶対なんかやってんでしょそれ!?」
    《だろーな。もうお前さんのすぐ後ろまで来てるだろう。もしかしたら白猫党の手先かもな。抜かれんなよ》
     と――バックミラーに突如、赤いクルマが映った。
    (なんだあれ……!?)
     確かに、その赤いエクセレンスは異様な走りを見せていた。ぐらんぐらんとリアを振りながらも、直線に入った途端に猛烈な加速を見せ、追い上げてくる。
    (ニトロでも積んでんのか!? いや、流石にニトロでも、あんな加速するはすが……ん?)
     が、コーナー入口ではがくんがくんと無様なブレーキングを晒し、途端にラモンとの差が開く。
    (……冗談だろ? マンガみたいな動きだな)
     第1セクターの終わりに差し掛かる頃には、ラモンの戸惑いも落ち着いた。
    「コーナリングはぶっちゃけ下手クソです。ただ、立ち上がりが異常に速いですね。典型的な直線番長です。……まあ、あの、……多分大丈夫です、あれ」
    《そうなのか?》
    「どんな手を使って加速してるのか知りませんけど、あんなアホみたいな急加速と急減速繰り返したら、一瞬でタイヤ終わりますよ」
     やがてエクセレンスはコーナーに入った直後に大きく外へと膨らんで勢いを失い、あっけなくヴォルペのバックミラーから消えてしまった。
    「ダメなスパイラルに入っちゃってますね。あれで遅れを取り戻そうとムキになったらさらにタイヤが消耗するでしょうし、もうこれ以上上がって来られないでしょう。入賞圏外と見ていいと思います」
    《……一安心ってところだ、……んっ!?》
     安堵しかけたらしい一聖が、しかし再び息を呑む。そしてその理由が、ラモンにも見えた。
    「……っ!?」
     コーナー出口で大きく外へふくらみ、コースアウトしかけていたエクセレンスを、ボロボロの茶色いセダンがコース外へ弾き飛ばした。
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