「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
SOTC719
レッド・ラギッド・ロード 22
ラモンの話、第22話。
不安と緊張の開幕戦。
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22.
意気揚々とセコンドブースに戻ってきたラモンを、一聖とメカニックの一人、ジャンニが出迎える。
「どうだった?」
一聖にそれだけ聞かれ、ラモンは小さくうなずく。
「いいクルマです。クセのない、素直な乗り心地って感じでしたね。ちょっと足回りが柔らかいですけど、その分コーナリングには強い印象があります。このコースにはかなり向いてると思いますよ」
「勝てるか?」
続けて尋ねられ、これにもラモンはうなずいて返した。
「当日トラブルがなければ楽勝です」
「なければな。……オレもそう願いたいが、あるに決まってる」
一聖は肩をすくめ、スマホを掲げた。
「コレが現在の予選順位だが、14位んトコ見てくれ」
言われてラモンとジャンニはスマホに目を向け――同時に声を上げた。
「……A・トッドレール!?」
そこに表示されていたのは、あの最低最悪の犯罪者と同じ名前だった。
「十中八九、いや、ほぼ間違いなくコイツはあのクソジジイ、『パスポーター』アルト・トッドレールだ。そして白猫党が陰で仕切るこのレースにこのジジイが出場してるとなれば、一枚噛んでると見て間違いないだろう、な」
「つまり本戦でアルトじいさんがズルして1着、白猫党の指示でじいさんに賭けた裏組織のヤツらは丸儲けっちゅうことか」
ジャンニが息巻く一方、一聖は冷静な様子で分析を重ねる。
「ココ一番でジジイが何か仕掛けると見て間違いねーだろう。例えば本戦でラモンが見事首位に立ち、最後の直線を抜けようってところにジジイが後ろから迫ってきて、……って状況もありうる」
「ちょっ……勘弁してくださいよ!」
ラモンは顔を真っ青にし、不安を表した。
「そりゃ僕も人一倍クルマ好きだって自覚はありますけど、サーキットのど真ん中でクルマと心中したくなんかないですよ!? どうにかできないんですか!?」
「オレがどーにかできないヤツだと思うのか?」
そう返し、一聖はウインクした。
「色々――コロモ社との約束を破らないラインで――対策は施してる。安全面だけで言えば、どんな高級車にも引けを取らねーぜ。とは言え」
一聖はちょっと背伸びして、ポンとラモンの肩を叩く。
「サーキットで走るのはお前さん自身だ。もしかしたら最後の最後、頼れるのは自分だけってコトもありうる。ソレは忘れんなよ」
「まあ……ですよね、はい」
そして日は進み、ついにレース決勝日を迎えた。
《本日は気温33℃、湿度22%の乾いた晴天。年間の晴れ日が300日を超えるここ、アフダル・ベール・サーキットですが、今日はより一層のドライコンディションとなっております》
《これだけ暑いとタイヤが温まるのも早いですが、熱ダレしてくるのも同様に早くなります。加えて今回の舞台はABサーキット全3コース中、最もコーナーが多く小回りなサバーフコースですから、頻繁な急加速・急減速を必要とします。各チームとも、シビアなタイヤコントロールを求められるでしょう》
コースに流れる実況と解説のアナウンスをヴォルペのコクピット内で聞きながら、ラモンはバックミラーに映る、ヘルメットを被った自分の姿を見つめていた。
(こうして勝負の場に出るの、何年ぶりになるっけ。タクシーが2年で、運び屋が3年だから、5年前か)
緊張感を覚えてはいるが、その上で冷静な自分がいることも、ラモンははっきり自覚していた。
(あの3年間はマジで地獄だった。その9割がじいさんのせいで、残り1割はエヴァさんのせい。……ま、その二人のおかげで、こんな命のやり取りの無い緊張感なんて、笑ってられるくらい余裕だ)
《出場選手の紹介です。1番、予選にてコースレコードを樹立した狐獣人のクリス・フォッシュ選手、31歳》
《南海地域では初出場ですが、中央大陸においては既にCCMT、央中ツーリングカー選手権で総合優勝2回の優秀な成績を残しています。中央の実力者がどこまで猛威を振るうか、見物(みもの)ですね》
《2番、第1セクターでレコードを樹立した短耳のハッサン・ナジム選手、22歳》
《彼は昨年、SOTCの前身であるSOSS、南海ストリートシリーズで総合3位の成績を収めています。荒削りではありますが、ここ一番におけるセンスは目を見張るものがあります》
《3番、第2セクターレコード樹立の猫獣人、ワフィカ・ジブリル選手、25歳》
《昨年のSOSSでは堂々優勝を果たした、ストリートの女王です。地元勢では文句無しの実力1位、最も南海のレースを知り尽くした一人と言えます》
ぼんやりとアナウンスを聞き流してはいたが、自分の番が来るとやはり、ラモンの猫耳はぴくんと反応した。
《4番、猫獣人のラモン・ミリアン選手、28歳。レーサーとしての経験はなしとのことですが、予選での走りは素晴らしいものでした》
《ブレーキングと荷重移動の技術が見事でしたね。走り方を見るにドリフト走行を多用する傾向がありましたから、過去にはラリー競技に参加していた経験があるのではないでしょうか》
(分かっちゃうか。そりゃそうか、解説だってレースのプロなんだろうし。……でも今は、ラリーストのライアンじゃない。
今の僕はレーサーの、ラモンだ)
バックミラーから視線を外し、ラモンは正面を見据える。そうこうする内に選手紹介も終わったらしく、実況のアナウンサーが咳払いした。
《予定の時刻を迎えました。まもなく、レース開始です》
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不安と緊張の開幕戦。
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22.
意気揚々とセコンドブースに戻ってきたラモンを、一聖とメカニックの一人、ジャンニが出迎える。
「どうだった?」
一聖にそれだけ聞かれ、ラモンは小さくうなずく。
「いいクルマです。クセのない、素直な乗り心地って感じでしたね。ちょっと足回りが柔らかいですけど、その分コーナリングには強い印象があります。このコースにはかなり向いてると思いますよ」
「勝てるか?」
続けて尋ねられ、これにもラモンはうなずいて返した。
「当日トラブルがなければ楽勝です」
「なければな。……オレもそう願いたいが、あるに決まってる」
一聖は肩をすくめ、スマホを掲げた。
「コレが現在の予選順位だが、14位んトコ見てくれ」
言われてラモンとジャンニはスマホに目を向け――同時に声を上げた。
「……A・トッドレール!?」
そこに表示されていたのは、あの最低最悪の犯罪者と同じ名前だった。
「十中八九、いや、ほぼ間違いなくコイツはあのクソジジイ、『パスポーター』アルト・トッドレールだ。そして白猫党が陰で仕切るこのレースにこのジジイが出場してるとなれば、一枚噛んでると見て間違いないだろう、な」
「つまり本戦でアルトじいさんがズルして1着、白猫党の指示でじいさんに賭けた裏組織のヤツらは丸儲けっちゅうことか」
ジャンニが息巻く一方、一聖は冷静な様子で分析を重ねる。
「ココ一番でジジイが何か仕掛けると見て間違いねーだろう。例えば本戦でラモンが見事首位に立ち、最後の直線を抜けようってところにジジイが後ろから迫ってきて、……って状況もありうる」
「ちょっ……勘弁してくださいよ!」
ラモンは顔を真っ青にし、不安を表した。
「そりゃ僕も人一倍クルマ好きだって自覚はありますけど、サーキットのど真ん中でクルマと心中したくなんかないですよ!? どうにかできないんですか!?」
「オレがどーにかできないヤツだと思うのか?」
そう返し、一聖はウインクした。
「色々――コロモ社との約束を破らないラインで――対策は施してる。安全面だけで言えば、どんな高級車にも引けを取らねーぜ。とは言え」
一聖はちょっと背伸びして、ポンとラモンの肩を叩く。
「サーキットで走るのはお前さん自身だ。もしかしたら最後の最後、頼れるのは自分だけってコトもありうる。ソレは忘れんなよ」
「まあ……ですよね、はい」
そして日は進み、ついにレース決勝日を迎えた。
《本日は気温33℃、湿度22%の乾いた晴天。年間の晴れ日が300日を超えるここ、アフダル・ベール・サーキットですが、今日はより一層のドライコンディションとなっております》
《これだけ暑いとタイヤが温まるのも早いですが、熱ダレしてくるのも同様に早くなります。加えて今回の舞台はABサーキット全3コース中、最もコーナーが多く小回りなサバーフコースですから、頻繁な急加速・急減速を必要とします。各チームとも、シビアなタイヤコントロールを求められるでしょう》
コースに流れる実況と解説のアナウンスをヴォルペのコクピット内で聞きながら、ラモンはバックミラーに映る、ヘルメットを被った自分の姿を見つめていた。
(こうして勝負の場に出るの、何年ぶりになるっけ。タクシーが2年で、運び屋が3年だから、5年前か)
緊張感を覚えてはいるが、その上で冷静な自分がいることも、ラモンははっきり自覚していた。
(あの3年間はマジで地獄だった。その9割がじいさんのせいで、残り1割はエヴァさんのせい。……ま、その二人のおかげで、こんな命のやり取りの無い緊張感なんて、笑ってられるくらい余裕だ)
《出場選手の紹介です。1番、予選にてコースレコードを樹立した狐獣人のクリス・フォッシュ選手、31歳》
《南海地域では初出場ですが、中央大陸においては既にCCMT、央中ツーリングカー選手権で総合優勝2回の優秀な成績を残しています。中央の実力者がどこまで猛威を振るうか、見物(みもの)ですね》
《2番、第1セクターでレコードを樹立した短耳のハッサン・ナジム選手、22歳》
《彼は昨年、SOTCの前身であるSOSS、南海ストリートシリーズで総合3位の成績を収めています。荒削りではありますが、ここ一番におけるセンスは目を見張るものがあります》
《3番、第2セクターレコード樹立の猫獣人、ワフィカ・ジブリル選手、25歳》
《昨年のSOSSでは堂々優勝を果たした、ストリートの女王です。地元勢では文句無しの実力1位、最も南海のレースを知り尽くした一人と言えます》
ぼんやりとアナウンスを聞き流してはいたが、自分の番が来るとやはり、ラモンの猫耳はぴくんと反応した。
《4番、猫獣人のラモン・ミリアン選手、28歳。レーサーとしての経験はなしとのことですが、予選での走りは素晴らしいものでした》
《ブレーキングと荷重移動の技術が見事でしたね。走り方を見るにドリフト走行を多用する傾向がありましたから、過去にはラリー競技に参加していた経験があるのではないでしょうか》
(分かっちゃうか。そりゃそうか、解説だってレースのプロなんだろうし。……でも今は、ラリーストのライアンじゃない。
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