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藻谷浩介『デフレの正体』に打ち止め 日本政策投資銀行 (20)

 明けましておめでとうございます
次回更新は、1月10日以降になります。

<藻谷浩介『デフレの正体』に打ち止め>


引用:藻谷浩介『人口が減れば需要が減るのは当然』VOICE12月号 PHP


藻谷浩介氏、 検証してゆきましょう。

(2)私の主張するデフレは、マクロではなく、ミクロのデフレだ。

P76
「主として現役世代を対象とした内需対応の商品・サービスの供給過剰に伴う値崩れ」、貨幣現象としての「デフレ」ではなく、ミクロ経済学上の需給バランスの崩壊こそ、金融緩和が効かない物価下落の正体だ。
 


 また、自説への「人口減少がデフレの原因であるとのトンでも説」という批判に対して、

P77
…「いま起きているのはマクロ経済学上のデフレではなくて、ミクロ経済学上の現象、すなわちや家電、住宅など、主として現役世代にしか消費されない商品の、生産年齢人口=消費者の頭数の減少に伴う値崩れだ」と指摘しているのだから…まったく的外れだ。
 

 と、批判をかわしています。そして、理論(経済学)を批判します。

P76
…いまとは前提条件の違う時代に確立された経済理論を、安易に演繹…思考過程を省力化しようとする態度…。現役世代が減り高齢者が激増している…という日本の現実…変数化して(筆者注:実態が変化しているのに)しまっているのに、そこに理論が対応できていないのだ。


 そもそも、デフレーション(物価下落)とは「マクロ」経済学上の問題で、彼の主張する「ミクロ」の問題ではありません。ここからして、 「トンでも論」であることは間違いないのですが、とりあえず百歩(理論上は百万歩?)ゆずって、彼の主張に沿って、その論理を検証しましょう。


<マクロとミクロ(マイクロ)とは>

 マクロとは、大きく、全体的に見ることです。

嶋村絋輝 横山将義 『ミクロ経済学』ナツメ社2006 図も

マクロとミクロ.jpg

P18
 経済全体の集計量、たとえば生産、所得、雇用、消費、投資、利子率、物価、国際収支、為替レートなどに注目して経済全体の活動はどんな水準に決まるのか…


一方、ミクロ(マイクロ)とは、詳細に見ることです。

p18
 …個々の家計や企業は、どのような行動をとるのか、…財・サービスの価格や数量はいかに決定されるのか…
 


 「デフレーション」は、マクロの「物価」問題ですが、ミクロでも「価格」は扱われています。藻谷さんは、 「デフレーション」を、後者の「価格」問題だと、定義しているようです。

<藻谷氏の理解の構図>

 清水書院 新政治・経済 p93 平成21年 三版.
需給曲線 清水書院 新政治・経済 p93 平成21年 三版.jpg

 需給曲線です。需要・供給曲線は,経済学ではおなじみのモデルです。単純なようですが,奥が深い理論です。ミクロ経済学では,この図を使って,私たち一人ひとりの消費行動から,政府による規制や課税,市場の独占や寡占,果ては国際貿易まで,説明します。

需給曲線.jpg

 N.グレゴリー.マンキュー『マンキュー経済学Ⅰミクロ編』東洋経済2004 で取り上げられている、アイスクリームの需要と供給について、考察します。

 ある年、冷夏で、海に行く人も激減しました。アイスクリームは、需要が落ち込みました。

需給曲線 需要減.jpg

 なんと、 「需要」が減って、価格が下落したではありませんか! 「デフレ?」です!

 もっと長期、 「少子高齢化」でも結構です。高齢者が増え、子供の数が減ります。藻谷氏の言う、人口動態の変化です。おそらく、「アイスクリームの需要は減る」と考えられます。そうすると、おそらく、「アイスクリーム価格」は下がります

 別に、アイスクリームでなくとも結構です。藻谷氏の言う、「クルマ(デフレの正体p53)」でも「少年漫画(同p55)」でもいいです。「生産年齢人口」の減少・「少子化」により、「需要」が減るので、価格が下落します。

 『デフレの正体』p184
…ベビーブーマーが高齢者になって退職する一方で、子供が少ないために生産年齢人口どんどん減っており、車は全自動ラインでロボットがどんどん製造できるのですが、肝心の車を買う消費者の頭数が減ってしまい…結果としてメーカーには大量の在庫が積みあがり、仕方ないので、折々に採算割れ価格で叩き売って処分され…国の主要産業である車産業の製品価格が低迷を続ける事態(筆者注:藻谷氏のいうデフレ?)には何ら変わりがありません。

 …車だけではなく、住宅でも、電気製品でも、建設業でも、不動産業でも…需要の減少というミクロ要因に悩んでいる日本の状況


<注>
 このミクロの需給曲線は、ある一つの商品(アイス)を扱った、「部分均衡」論で説明してきました。実際には、世の中に、たくさんの商品があふれています。冷夏でアイスが売れなかったら、逆に「夏のおでん」が売れる可能性があります。食べ物だけではなく、アイスのカップや、衣服や、エアコンなどの電化製品、それらを構成するさまざまな素材に、たった一つの商品の値段が、波及します。

 これら、全ての財・サービス(おそらく何万、何百万種)の均衡価格と均衡量を扱うのが、「一般均衡」論です。
ブログカテゴリー ワルラス 一般均衡理論 参照


需給曲線.jpg

 一般均衡論でも、上図は成立します。


 需要が減ると、「価格が下がる」、これが、藻谷氏のいうデフレです。

<ミクロのデフレ論は、成立しない>

 さて、これが氏の頭の中にある「デフレの構図」です。ですが、この「価格下落」は、ある前提に立って構成されています。その前提が崩れると、崩壊します。その前提とは、「生産量の固定」すなわち、「生産(供給曲線)は動かない」というものです。
 
『人口が減れば需要が減るのは当然』VOICE12月号 PHP

p76
…九〇年代後半…生産年齢人口は減少に転じ…就業者数全体も減少することが避けられなかった。…現役世代の消費が減退する。
 他方で企業側の供給力は…自動化・IT化の流れの中でいっこうに減っていかない。…クルマや家電、不動産など、主として現役世代を対象とした商品・サービスには供給過剰感が生まれ、価格は下がる

p76
…生産年齢人口が供給ではなく需要を減らす普遍的に見られている現象…担い手が激減している国内農業の分野でもコメの需給などにまったく同じことが起きている。

『経済大国ニッポン陽はまた昇る:緊急座談会』週刊文春2010.12.16号
P134
 ところが、ロボット化やIT化のおかげで生産力は一向に減らない。…供給過剰が値崩れを呼び、内需の縮小は止めようがありません。

 『デフレの正体』p184
…ベビーブーマーが高齢者になって退職する一方で、子供が少ないために生産年齢人口どんどん減っており、車は全自動ラインでロボットがどんどん製造できるのですが、肝心の車を買う消費者の頭数が減ってしまい…結果としてメーカーには大量の在庫が積みあがり、仕方ないので、折々に採算割れ価格で叩き売って処分され…国の主要産業である車産業の製品価格が低迷を続ける事態(筆者注:藻谷氏のいうデフレ?)には何ら変わりがありません。

 このように、氏の説では、 「生産力=供給力」は動かないというのが大前提です。「需要は変化するが、供給は変わらない」という神話への固執に、変化はありません。

 では、検証します。氏が例に挙げる、車業界です。

出典:時事ドットコム
http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_eco_car-newsales-japan2009
『2009年の国内新車販売、38年ぶり300万台割れ=軽含め500万台届かず』

新車販売台数の推移.jpg

 この販売台数は、ピーク(90年=597万5089台)の半分にも満たない水準です。

 クルマは、まだましな方です。オートバイ(全台数)は、なんとピークの1/3しか売れていません(93年125万4254台→09年38万777台)。
二輪車 販売台数.jpg

さて、この「需要減」に対し、生産者側:メーカーは、「供給量維持=価格下落」で対抗するのでしょうか。そんな馬鹿なことはしません

 トヨタの代表的なモデル、クラウン ロイヤルヤルサルーンの歴代新車価格です。

クラウン 価格 推移.jpg

 新車価格は、上がっています。定価を下げて、需要減に対抗しません需要減には、供給減で対応するのです。要するに、生産台数を減らすのです。

藻谷モデル(需要減のみ)
需給曲線 需要減.jpg
    ↓
トヨタモデル(需要減に、生産減で対応)

需給曲線 供給減.jpg

 メーカーは、毎年毎年、需要予測をもとに、「生産台数」を計画します。来年のトヨタの国内生産予定は310万台です。

 日経H22.12.22 図も
トヨタ生産台数.jpg

 トヨタ自動車は2011年の国内生産計画を310万台と、10年実績見込み(328万台)比で5%減に設定した。…11年の生産台数は、ピーク時(07年、422万台)から3割落ち込む。

 供給能力はあるのですが、量を減らすのです。

日経H22.10.30『10月新車販売2割減 補助金切れ直撃』
 

 エコカー補助金の終了による、需要激減で、新車販売に急ブレーキがかかりました。

 ホンダは9月、系列販売店での総受注が約4割減った。トヨタも…4割強の受注減だったという。 

 これに対処する為に、メーカー側は、

先行き悪化懸念から、ホンダは「年間の国内生産を100万台弱から97万5千台に引き下げる」…トヨタも国内で年内2~3割の減産を予定するなど、生産への影響も出始めている。

 と、供給減で対応します。

 藻谷さんの言う、

「他方で企業側の供給力は…自動化・IT化の流れの中でいっこうに減っていかない。…クルマや家電、不動産など、主として現役世代を対象とした商品・サービスには供給過剰感が生まれ、価格は下がる
「国の主要産業である車産業の製品価格が低迷を続ける事態には何ら変わりがありません」
 

 などということは、現実には「起きない」のです。
 トヨタを見ても分かるように、供給力は、「台数を作ろうと思えばある」のですが、「供給量」を減らして、需要減に対応するのです。価格ダウンではなく、数量ダウンを選択するのです。


 「いま起きているのはマクロ経済学上のデフレではなくて、ミクロ経済学上の現象、すなわち車や家電、住宅など、主として現役世代にしか消費されない商品の、生産年齢人口=消費者の頭数の減少に伴う値崩れだ」 など、新経済理論なるもので、説明すればするほど、自らの首を絞める結果になっています。

 彼が「私は無精者で、経済書やビジネス書は本当に数冊しか読んだことがないのですがp125『デフレの正体』」と述べている通りです。

 p168
「三面等価の呪縛」
 「常に正しい」三面等価式を持ち出すとは、何やら神聖不可侵な雰囲気の議論でありますが…現実を、「常に正しい」三面等価式ではどう説明するのでしょうか。
 などと、批判する前に、きちんと、「経済学」を勉強しましょう。

三面等価 2008

 図を見たら、一目瞭然です。

 生産なくして消費は無い、実体経済(国富)なくして、富は創れません。経済学は徹底して「総生産=総消費」=「供給量=消費量」です。 「供給量を固定して考える、新藻谷理論」など、現実に「ありえない」のです。


<追記>

『人口が減れば需要が減るのは当然』VOICE12月号 PHP
P76
 取り立ててウォンツがない日本の高齢者の消費性向は米国などに比べて著しく低く、彼らの所得は消費に回らない。

『経済大国ニッポン陽はまた昇る:緊急座談会』週刊文春2010.12.16号
P135
 日本の高齢者にはお金に不自由しない層が少なからずいます。でも使わない。モノに興味がなく…


 「高齢者は消費しない」の間違いは、ブログ 2010-08-10 カテゴリ 藻谷浩介『デフレの正体』日本政策投資銀行で指摘したとおりです。

<追記2>

1月31日放送 0:15 - 2:05 NHK総合NHKスペシャル2011 ニッポンの生きる道
 再放送ですか、藻谷氏が出演していました。

 相変わらず、「中国や韓国には貿易黒字だから勝っている、でもフランス、イタリア、スイスには貿易赤字だから負けている」と言っていました。また、リーマンショック前までの輸出額のフィリップを出して説明し、「輸出額はこんなに伸びている」、「日本は勝てる」と持論を展開していました。さらに、「SY=数字読まない」現象についても、批判していました。

http://www.binet-owari.jp/topics/3kai/motani.htmに、藻谷氏のプロフィールが掲載されています。彼の信条も披露されています。

ものを考える際の信条

① 統計数字と実例から帰納した仮説を、経営理論からの演繹と照合しつつ論じる
② 常識は疑い、慣用句は用いず、先入観は排し、反証のある社会通念には従わない
③ 権力欲、他人/他国に対する優越感/劣等感、学歴/学術/技術信仰に左右されない
④ 議論・発言の中で臆さず自説を示し、指摘された誤りは悪びれずすぐ修正する



theme : マクロ経済学 ミクロ経済学
genre : 政治・経済

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新年のあいさつ

ずっとブログの更新ができないまま、年が明けてしまいました。 あれから、北朝鮮の韓国・延坪(ヨンピョン)島への攻撃、東京都の青少年育成条例によるマンガ規制問題、財務省による増税キャンペーンなど、気になる問題は色々あったのですが、ゆっくり考えをまとめてブログ

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デフレの正体

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comment

Secret

今年もよろしくお願いします。

菅原さま

明けましておめでとうございます。
今年ものっけから秀逸なエントリーでスタートですね。

最近、藻谷氏は我々の批判が相当応えたらしく主張を微調整しながら自説を曲げまくっています。そういうことをやればやるほど、実は経済学を全く理解していないことが露呈してますが、本人はそういったことに無自覚なのか相変わらずトンデモ論を垂れ流しています。
こういうウソでも、テレビなどで何回も強弁されると、事情を知らない人は本当かと思ってしまうので、こちらとしては3万回ぐらい本当のことを言い続けないといけないと思っています。

これからも頑張ってください。
今後ともよろしくお願いします。

上念

原材料価格の高騰は?

ロイヤルサルーンの歴代新車価格のグラフですが、90年代はともかく2000年代は原材料価格が高騰しており、単に原材料価格の値上がり分を反映しただけの値上げではありませんか?
それどころか、原材料価格上昇分すら充分に吸収しきれず、実質的に値下げ同然となった可能性すらあるのでは?

No title

 一般論でいうと、新車は、モデルチェンジのたびごとに、価格を値上げします。軽自動車も同じです。

 クラウンの価格が03→08年で、21万円上がったのは「原材料費値上げ」で、実質的には「値下げ」かどうか。

 こちらについては、わかりません。
 ただ、ディーラーへの卸価格は定価の7割とされ、23.3万円の値上げは、320.6万円の7.26%を占めます。

 また、製造原価は、一般的に定価の4割とされ、08年価格は183.2万円、23.3万円は、約12.7%を占めます。

 企業物価指数(卸売物価指数):日銀を見ると、04年1月対前年比100%、05年101.4%、06年102%、07年101.5%、08年103%となっているので、03年→08年、8%アップになります。

 注)企業物価指数は全ての財の平均なので、普通自動車の物価を示すものではありません。

No title

需要がシフトしたとしても各企業が生産量を落として価格を維持するという論旨には賛同しますがああいったグラフにはならないと思います。
というのも完全競争の均衡下では企業はプライステイカーとして行動します。ですから、企業が財の生産量を調整して価格を決定できると考えるのは独占ないしは寡占の時です。
でグラフを見るとなぜか企業は限界費用である供給曲線をいきなり左方シフトさせています。このようなことにはならないんじゃないかと思います。独占であれば生産量をしぼるとして供給曲線をシフトさせないほうが利潤が大きくなりますし。
ですからグラフはちょっとおかしいんじゃないかと思います。

No title

・トヨタで販売量が多いのはプリウスとカローラですが、これらの車種の価格の推移はどうですか?

・固定費との関係から稼働率は重要な指標です。実際のビジネスでは、稼働率の低下を嫌って減産が不十分なことが多いと思いますが、いかがでしょうか。

・価格が維持できるほど供給量を下げるのは、大衆車のような代替性の高い商品では、カルテルがなければ難しいと思います。どう思いますか?

No title

>トヨタで販売量が多いのはプリウスとカローラですが、これらの車種の価格の推移はどうですか?

 上昇しています。但し、現行プリウスは、対ホンダ:インサイトのため、ベースグレードでは価格を下げました。

>固定費との関係から稼働率は重要な指標です。実際のビジネスでは、稼働率の低下を嫌って減産が不十分なことが多いと思いますが、いかがでしょうか。

 日本のGDPの8割はサービス業です。サービス業は、「生産即消費」というところにその特徴があります。「消費量」しか「生産」しません。サービスそのものに、在庫は無いのです。

 また、2009年のGDP(名目)は、前年より、35兆円も減ってしまいました。「総生産=総消費」なので、生産も35兆円減産したことになります。

>価格が維持できるほど供給量を下げるのは、大衆車のような代替性の高い商品では、カルテルがなければ難しいと思います。どう思いますか?

 短期の世界では、価格を下げるのではなく、量を減らします。ケインズモデルでは、供給曲線は、横に水平になります。
 長期の世界では、価格は十分に伸縮すると考えます。古典派の考え方では、供給曲線は、縦に垂直になります。

 リーマンショックの際、企業が派遣切りをしたのは、在庫調整をしたからです。つまり、ケインズモデルの世界が、現出しました。
 車業界で言えば、日産は、21年度上半期の純利益が、前年度1263億→90億に減少しました。

 売れる量が減ったのです。価格が下落して、量を確保したのではないのです。もちろん、他メーカーとカルテルを結んだわけではありません。

 よろしくお願いいたします。

 

No title

・設備投資もその多くはサービス業によるものです。固定資産の取得も在庫を持つのも、ストックを持つという意味では同じです。売り上げが下がれば店舗閉鎖ということも起こってきます。「サービス業は生産即消費」というのは一面的な見方のように思います。

No title

・設備投資もその多くはサービス業によるものです。固定資産の取得も在庫を持つのも、ストックを持つという意味では同じです。売り上げが下がれば店舗閉鎖ということも起こってきます。「サービス業は生産即消費」というのは一面的な見方のように思います。

 ストックは、フロー(GDP)を産むためにあります。サービス業のフローレベルでは、「生産=即消費」になっています。お客さんの需要にあわせて生産が生じます。お客さんがいないのに、生産は出来ません。サービスに「在庫」はありません。

 ストックとフローは、別です。「売上が下がれば店舗閉鎖」というのは、「フロー」がないと、「ストック」過剰で倒産すると言う話です。
 服をたくさん仕入れた→売れない→倒産。サービスの「フロー」は、「服」→「お客さん」の→部分です。これが「手数料」としてサービス業の付加価値になります。

 とにかく、フロー(損益計算書)と、ストック(貸借対照表)をごっちゃにしてはダメです。もちろん、国レベルでも同じです。フロー(GDP)とストック(国富)を分けて考えないと、1400兆円の家計資産の1%14兆円を「フロー」に回し消費しろ!というトンデモ論になってしまいます。

No title

・近年、小型車から軽自動車へのシフトが起こっています。小型車と軽自動車との間の代替性が高まっているということかと思いますが、このカテゴリーで実際に売れている車の価格が下がっているということではないですか?

・小売業や飲食業でいわゆる価格破壊が起こっていることについて、原因はどのようなものだとお考えですか?

・サービス業にも設備はあって、稼働率が重要なのは同じです。それは、減価償却費など固定費をまかなったり、設備投資のための借入金の利払い・返済が必要だからです。ストックとフローは別物ですが、どちらも同時に経済システムに存在します。ストックを無視してフローのみを考えるだけでは、一面的という他ないと思います。
また、設備投資は景気の重要な指標とされています。設備投資ないし投資一般に対する先生のお考えはどのようなものでしょうか?

No title

[・近年、小型車から軽自動車へのシフトが起こっています。小型車と軽自動車との間の代替性が高まっているということかと思いますが、このカテゴリーで実際に売れている車の価格が下がっているということではないですか?

 相対価格の変化と、絶対価格の変化は別です。デフレは後者です。どこかの市場で、安いものにシフトしても、どこかの市場で、別にお金を使います。ですから、クルマが売れなくても、携帯/PCは右肩上がりの市場になります。

・小売業や飲食業でいわゆる価格破壊が起こっていることについて、原因はどのようなものだとお考えですか?

 供給側の論理です。

・サービス業にも設備はあって、稼働率が重要なのは同じです。それは、減価償却費など固定費をまかなったり、設備投資のための借入金の利払い・返済が必要だからです。ストックとフローは別物ですが、どちらも同時に経済システムに存在します。ストックを無視してフローのみを考えるだけでは、一面的という他ないと思います。
また、設備投資は景気の重要な指標とされています。設備投資ないし投資一般に対する先生のお考えはどのようなものでしょうか?

 企業は、可変費用をまかなえる範囲で、操業を続けます。ストックを無視しているわけではありません。
 ですが、サービス業の本質は、極端な話、「ストック=固定費用・可変費用」が「ゼロ」でも、操業できます。これが第2次産業と決定的に違う点です。
 投資は、景気にとって、一番重要な指標です。投資額が伸びる=成長で、投資額が原理上ゼロになる=不況です。

No title

 質問を頂きました。

「・国内で国産車を買ったことしかありませんが、新車は受注生産だったかと思います。在庫を持たないのであれば、サービス業と同じ論理があてはまりますか?」

 企業は生産をします。それこそ、操業停止点にならない限り、生産をしたいのです。ですが、リーマンショックで、派遣切りが行われたように、短期(ケインズ)の世界では、価格は下がらず、生産量を調整します(在庫調整)。
 企業は人々が買う前に作るのです。実際の需要ではなく、予測した需要の下に生産します。生産した後で、事後的に生産は需要に合うように調整されます。
 生産調整をする状態になると、これを「不況」といいます。

「・価格破壊に向かう供給側の論理を詳しく教えていただけますか?単なる値下げ競争ということですか?」

 短期では、上述のように「量」で対応します。長期には「価格」で対応します。両方共に成立しています。

「・「企業は、可変費用をまかなえる範囲で、操業を続けます。」の「可変費用」は「固定費」の間違いでしょうか?可変費用は売値>原価であれば常にまかなえるのではないですか?」

 可変費用をまかなえる範囲では、企業は生産を続けます。操業停止点は、価格下落により、固定費用の全てが支払い不能になり、可変費用の一部も支払い不能になる点です。この場合、生産を止め、固定費用のみを負担することが最上の策となります。

「・「サービス業の本質は、極端な話、「ストック=固定費用・可変費用」が「ゼロ」でも、操業できます。」ということですが、現実には設備投資の多くはサービス業のもので、多くのサービス業が固定費を背負って営業しています。売り上げが固定費をまかなえないほど下がってくると、値下げをして利幅を小さくしてでも売り上げを維持しようとするのが普通の企業の判断だと思うのですが、先生はどのようにお考えですか?」

 固定費をまかなえないほど売上が下がると、操業停止点を下回ることになりますので、操業を停止した方が合理的です。値下げしてでも売上維持は結構ですが、実際には、倒産に向かっているだけです。

 注)
損益分岐点=利潤ゼロ点

↓(この間は、可変費用を全額支払い可+固定費用の一部も支払  い可)

操業停止点=固定費用の支払い不可能+可変費用の一部も支払         い不可能

ニュース見て来ました。

藻谷氏という方の理論も眉唾ですが、このエントリーの内容も間違っています。

企業の需要の減少を見越して生産を減少させるという行動は、供給曲線をシフトさせるでしょうか。いいえさせません。どなたかが既に指摘されているとおり、この行動は需要の減少に対する反応として供給曲線上で起こります。

供給曲線は限界費用曲線とも言い換えることができますが、それがシフトする条件は、あくまでも、技術に何らかの変化があった場合、企業の費用構造に変化があった場合のみです。

すなわち、カローラをもう一台追加的に生産させる費用に変化がないかぎり、供給を減らすという企業行動は同じ供給曲線上の別の点を選ぶことでしかないわけです。

ですから、この件に関してだけ言えば、藻谷氏の言うこともあながち嘘ではないわけです。

ただし私も藻谷氏という方が、経済学についてしっかりとしたトレーニングを受けているとは思いませんし(MBAごときでエコノミスト名乗るなよ!)、内需内需と言って騒いでいるだけの行動は褒められたものではないと思っています。このような方が、日本政策投資銀行参事役とかやってるのが、そもそも日本が景気の悪い根本の原因なのかもしれません。

No title

 供給曲線のシフトは次の場合に起こります。

投入価格が変化(原材料の価格変化など)
技術が変化(革新技術の導入)
予想(将来動向)
売り手の数(市場参入など)

 これは基本的にはよいのですが、何しろ、クルマ市場は「寡占」なもので、プライス・テイカーが成り立たなく、皆さんがおっしゃるように、この需給曲線は本来的には?なものです。

 ただ、高校生に、「寡占(独占)市場の需給を」というのは、少し難しいのと、世間一般の人の頭の中にある構図で、説明しようとしたものです。ジレンマを感じています。

 追伸 このブログに対し、「ミクロの基礎づけのある、マクロ」の視点がないというお話もありますが、「高校生」には、大混乱になってしまいますので、あえて触れておりません。ご了承願います。

No title

そもそもからして、価格(物価)は、需要(消費)と供給(生産)の
出会う場所です。

価格ありきではなく、需要と供給ありきなのです。
クラウンの価格が変化していないのは
様々な要因があると思いますが、
需要が減り、供給も減っている(減らしている)からだと思います。

労働者一人当たりの供給力(生産力)はこの10年でも
ITや産業マシンの活用、物流の効率化等で大きく伸びているのに
クラウンの生産は減らさなくてはいけない。

これは労働者の削減や、賃金の切り下げ圧力が続くことになります。
現役労働者の収入が減るので、購買力(消費・内需)もおちる。
その一方で経営者や株主など一部の人に富が集中する。
この格差がある程度大きくなると、経済循環は止まってしまいます。
かつて、蒸気機関車や、トラクターの出現で、
肉体労働市場は世代をまたぎ大きく変化しましたが、
現代はコンピュータの出現で頭脳労働市場が急激に
変化していると思います。
私はこれを、脱人間化社会と呼んでいます。

藻谷さんのおっしゃられている、高付加価値な内需産業の育成、
一部先進国におけるカバンや時計などの手工業もその典型だと思いますが、日本も人手の必要な産業の育成を戦略として
所得増、デフレスパイラル脱却を訴えておられるのだと思います。
これを育むのに必要な戦略は、経済学に精通した人材を探すことではなく、
経営戦略をたて行動に移し、リスクにチャレンジし、
可能性に投資できる実務家、起業家が求められていると
仰せられているのだと思います。

No title

クラウンは、「ブランド差別化」に成功した例(ヨーロッパ車と同じ)で、台数を減らしてはいません。

>そもそもからして、価格(物価)は、需要(消費)と供給(生産)の
出会う場所です。 価格ありきではなく、需要と供給ありきなのです。


車のような寡占市場では、まず始めに「価格ありき」になります。

No title

>車のような寡占市場では、まず始めに「価格ありき」になります。

寡占を崩せば変わるわけですね。
中小零細企業が、自社工場で自動車のオーダーメイドをする時代になれば。
高級車は既にオーダーメイド市場が成り立ってますが、数が出ないと国民経済全体のトレンドに影響しませんもんね。

誰もがトヨタに見向きもせず、オラが町の工場の車を愛するような社会・・・。はぁ。

No title

 全ての生産者の究極の目標は、「独占」です。

 そうなればプライス・テイカー(価格需要者)ではなく、プライス・メイカー(価格先導者)になれます。

 自由に価格設定でき、利潤を最大限にできます。

 「ブランド」化は、その一例です。シャネルが好きな人は、その他のブランドには見向きもしません。

 欧州車(ドイツ車)、大成功ですね。レクサスも、そこを目指してますよね。

 ただ、車生産は、「巨大資本」が必要で、おいそれと町工場レベルで参入できるものでは・・・電気自動車が普及すれば、チャンスが訪れる?

三面等価について教えて下さい

初めまして。
三面等価の原則について教えて下さい。
「デフレ」 という状態は、三面等価の原則では、どのように説明されるのでしょうか?

No title

三面等価については、ブログ:カテゴリ(左側にならんでいます)の「DGP GNIとは」を参照ください。

 デフレと三面等価は関係ないのではないでしょうか?
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