藻谷浩介『デフレの正体』に打ち止め 日本政策投資銀行 (20)
明けましておめでとうございます
次回更新は、1月10日以降になります。
<藻谷浩介『デフレの正体』に打ち止め>
引用:藻谷浩介『人口が減れば需要が減るのは当然』VOICE12月号 PHP
藻谷浩介氏、 検証してゆきましょう。
(2)私の主張するデフレは、マクロではなく、ミクロのデフレだ。
P76
「主として現役世代を対象とした内需対応の商品・サービスの供給過剰に伴う値崩れ」、貨幣現象としての「デフレ」ではなく、ミクロ経済学上の需給バランスの崩壊こそ、金融緩和が効かない物価下落の正体だ。
また、自説への「人口減少がデフレの原因であるとのトンでも説」という批判に対して、
P77
…「いま起きているのはマクロ経済学上のデフレではなくて、ミクロ経済学上の現象、すなわち車や家電、住宅など、主として現役世代にしか消費されない商品の、生産年齢人口=消費者の頭数の減少に伴う値崩れだ」と指摘しているのだから…まったく的外れだ。
と、批判をかわしています。そして、理論(経済学)を批判します。
P76
…いまとは前提条件の違う時代に確立された経済理論を、安易に演繹…思考過程を省力化しようとする態度…。現役世代が減り高齢者が激増している…という日本の現実…変数化して(筆者注:実態が変化しているのに)しまっているのに、そこに理論が対応できていないのだ。
そもそも、デフレーション(物価下落)とは「マクロ」経済学上の問題で、彼の主張する「ミクロ」の問題ではありません。ここからして、 「トンでも論」であることは間違いないのですが、とりあえず百歩(理論上は百万歩?)ゆずって、彼の主張に沿って、その論理を検証しましょう。
<マクロとミクロ(マイクロ)とは>
マクロとは、大きく、全体的に見ることです。
嶋村絋輝 横山将義 『ミクロ経済学』ナツメ社2006 図も
P18
経済全体の集計量、たとえば生産、所得、雇用、消費、投資、利子率、物価、国際収支、為替レートなどに注目して経済全体の活動はどんな水準に決まるのか…
一方、ミクロ(マイクロ)とは、詳細に見ることです。
p18
…個々の家計や企業は、どのような行動をとるのか、…財・サービスの価格や数量はいかに決定されるのか…
「デフレーション」は、マクロの「物価」問題ですが、ミクロでも「価格」は扱われています。藻谷さんは、 「デフレーション」を、後者の「価格」問題だと、定義しているようです。
<藻谷氏の理解の構図>
清水書院 新政治・経済 p93 平成21年 三版.
需給曲線です。需要・供給曲線は,経済学ではおなじみのモデルです。単純なようですが,奥が深い理論です。ミクロ経済学では,この図を使って,私たち一人ひとりの消費行動から,政府による規制や課税,市場の独占や寡占,果ては国際貿易まで,説明します。
N.グレゴリー.マンキュー『マンキュー経済学Ⅰミクロ編』東洋経済2004 で取り上げられている、アイスクリームの需要と供給について、考察します。
ある年、冷夏で、海に行く人も激減しました。アイスクリームは、需要が落ち込みました。
なんと、 「需要」が減って、価格が下落したではありませんか! 「デフレ?」です!
もっと長期、 「少子高齢化」でも結構です。高齢者が増え、子供の数が減ります。藻谷氏の言う、人口動態の変化です。おそらく、「アイスクリームの需要は減る」と考えられます。そうすると、おそらく、「アイスクリーム価格」は下がります。
別に、アイスクリームでなくとも結構です。藻谷氏の言う、「クルマ(デフレの正体p53)」でも「少年漫画(同p55)」でもいいです。「生産年齢人口」の減少・「少子化」により、「需要」が減るので、価格が下落します。
『デフレの正体』p184
…ベビーブーマーが高齢者になって退職する一方で、子供が少ないために生産年齢人口どんどん減っており、車は全自動ラインでロボットがどんどん製造できるのですが、肝心の車を買う消費者の頭数が減ってしまい…結果としてメーカーには大量の在庫が積みあがり、仕方ないので、折々に採算割れ価格で叩き売って処分され…国の主要産業である車産業の製品価格が低迷を続ける事態(筆者注:藻谷氏のいうデフレ?)には何ら変わりがありません。
…車だけではなく、住宅でも、電気製品でも、建設業でも、不動産業でも…需要の減少というミクロ要因に悩んでいる日本の状況…
<注>
このミクロの需給曲線は、ある一つの商品(アイス)を扱った、「部分均衡」論で説明してきました。実際には、世の中に、たくさんの商品があふれています。冷夏でアイスが売れなかったら、逆に「夏のおでん」が売れる可能性があります。食べ物だけではなく、アイスのカップや、衣服や、エアコンなどの電化製品、それらを構成するさまざまな素材に、たった一つの商品の値段が、波及します。
これら、全ての財・サービス(おそらく何万、何百万種)の均衡価格と均衡量を扱うのが、「一般均衡」論です。
ブログカテゴリー ワルラス 一般均衡理論 参照
一般均衡論でも、上図は成立します。
需要が減ると、「価格が下がる」、これが、藻谷氏のいうデフレです。
<ミクロのデフレ論は、成立しない>
さて、これが氏の頭の中にある「デフレの構図」です。ですが、この「価格下落」は、ある前提に立って構成されています。その前提が崩れると、崩壊します。その前提とは、「生産量の固定」すなわち、「生産(供給曲線)は動かない」というものです。
『人口が減れば需要が減るのは当然』VOICE12月号 PHP
p76
…九〇年代後半…生産年齢人口は減少に転じ…就業者数全体も減少することが避けられなかった。…現役世代の消費が減退する。
他方で企業側の供給力は…自動化・IT化の流れの中でいっこうに減っていかない。…クルマや家電、不動産など、主として現役世代を対象とした商品・サービスには供給過剰感が生まれ、価格は下がる。
p76
…生産年齢人口が供給ではなく需要を減らす…普遍的に見られている現象…担い手が激減している国内農業の分野でもコメの需給などにまったく同じことが起きている。
『経済大国ニッポン陽はまた昇る:緊急座談会』週刊文春2010.12.16号
P134
ところが、ロボット化やIT化のおかげで生産力は一向に減らない。…供給過剰が値崩れを呼び、内需の縮小は止めようがありません。
『デフレの正体』p184
…ベビーブーマーが高齢者になって退職する一方で、子供が少ないために生産年齢人口どんどん減っており、車は全自動ラインでロボットがどんどん製造できるのですが、肝心の車を買う消費者の頭数が減ってしまい…結果としてメーカーには大量の在庫が積みあがり、仕方ないので、折々に採算割れ価格で叩き売って処分され…国の主要産業である車産業の製品価格が低迷を続ける事態(筆者注:藻谷氏のいうデフレ?)には何ら変わりがありません。
このように、氏の説では、 「生産力=供給力」は動かないというのが大前提です。「需要は変化するが、供給は変わらない」という神話への固執に、変化はありません。
では、検証します。氏が例に挙げる、車業界です。
出典:時事ドットコム
http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_eco_car-newsales-japan2009
『2009年の国内新車販売、38年ぶり300万台割れ=軽含め500万台届かず』
この販売台数は、ピーク(90年=597万5089台)の半分にも満たない水準です。
クルマは、まだましな方です。オートバイ(全台数)は、なんとピークの1/3しか売れていません(93年125万4254台→09年38万777台)。
さて、この「需要減」に対し、生産者側:メーカーは、「供給量維持=価格下落」で対抗するのでしょうか。そんな馬鹿なことはしません。
トヨタの代表的なモデル、クラウン ロイヤルヤルサルーンの歴代新車価格です。
新車価格は、上がっています。定価を下げて、需要減に対抗しません。需要減には、供給減で対応するのです。要するに、生産台数を減らすのです。
藻谷モデル(需要減のみ)
↓
トヨタモデル(需要減に、生産減で対応)
メーカーは、毎年毎年、需要予測をもとに、「生産台数」を計画します。来年のトヨタの国内生産予定は310万台です。
日経H22.12.22 図も
トヨタ自動車は2011年の国内生産計画を310万台と、10年実績見込み(328万台)比で5%減に設定した。…11年の生産台数は、ピーク時(07年、422万台)から3割落ち込む。
供給能力はあるのですが、量を減らすのです。
日経H22.10.30『10月新車販売2割減 補助金切れ直撃』
エコカー補助金の終了による、需要激減で、新車販売に急ブレーキがかかりました。
ホンダは9月、系列販売店での総受注が約4割減った。トヨタも…4割強の受注減だったという。
これに対処する為に、メーカー側は、
…先行き悪化懸念から、ホンダは「年間の国内生産を100万台弱から97万5千台に引き下げる」…トヨタも国内で年内2~3割の減産を予定するなど、生産への影響も出始めている。
と、供給減で対応します。
藻谷さんの言う、
「他方で企業側の供給力は…自動化・IT化の流れの中でいっこうに減っていかない。…クルマや家電、不動産など、主として現役世代を対象とした商品・サービスには供給過剰感が生まれ、価格は下がる」
「国の主要産業である車産業の製品価格が低迷を続ける事態には何ら変わりがありません」
などということは、現実には「起きない」のです。
トヨタを見ても分かるように、供給力は、「台数を作ろうと思えばある」のですが、「供給量」を減らして、需要減に対応するのです。価格ダウンではなく、数量ダウンを選択するのです。
「いま起きているのはマクロ経済学上のデフレではなくて、ミクロ経済学上の現象、すなわち車や家電、住宅など、主として現役世代にしか消費されない商品の、生産年齢人口=消費者の頭数の減少に伴う値崩れだ」 など、新経済理論なるもので、説明すればするほど、自らの首を絞める結果になっています。
彼が「私は無精者で、経済書やビジネス書は本当に数冊しか読んだことがないのですがp125『デフレの正体』」と述べている通りです。
p168
「三面等価の呪縛」
「常に正しい」三面等価式を持ち出すとは、何やら神聖不可侵な雰囲気の議論でありますが…現実を、「常に正しい」三面等価式ではどう説明するのでしょうか。 などと、批判する前に、きちんと、「経済学」を勉強しましょう。
図を見たら、一目瞭然です。
生産なくして消費は無い、実体経済(国富)なくして、富は創れません。経済学は徹底して「総生産=総消費」=「供給量=消費量」です。 「供給量を固定して考える、新藻谷理論」など、現実に「ありえない」のです。
<追記>
『人口が減れば需要が減るのは当然』VOICE12月号 PHP
P76
取り立ててウォンツがない日本の高齢者の消費性向は米国などに比べて著しく低く、彼らの所得は消費に回らない。
『経済大国ニッポン陽はまた昇る:緊急座談会』週刊文春2010.12.16号
P135
日本の高齢者にはお金に不自由しない層が少なからずいます。でも使わない。モノに興味がなく…
「高齢者は消費しない」の間違いは、ブログ 2010-08-10 カテゴリ 藻谷浩介『デフレの正体』日本政策投資銀行で指摘したとおりです。
<追記2>
1月31日放送 0:15 - 2:05 NHK総合NHKスペシャル2011 ニッポンの生きる道
再放送ですか、藻谷氏が出演していました。
相変わらず、「中国や韓国には貿易黒字だから勝っている、でもフランス、イタリア、スイスには貿易赤字だから負けている」と言っていました。また、リーマンショック前までの輸出額のフィリップを出して説明し、「輸出額はこんなに伸びている」、「日本は勝てる」と持論を展開していました。さらに、「SY=数字読まない」現象についても、批判していました。
http://www.binet-owari.jp/topics/3kai/motani.htmに、藻谷氏のプロフィールが掲載されています。彼の信条も披露されています。
ものを考える際の信条
① 統計数字と実例から帰納した仮説を、経営理論からの演繹と照合しつつ論じる
② 常識は疑い、慣用句は用いず、先入観は排し、反証のある社会通念には従わない
③ 権力欲、他人/他国に対する優越感/劣等感、学歴/学術/技術信仰に左右されない
④ 議論・発言の中で臆さず自説を示し、指摘された誤りは悪びれずすぐ修正する
次回更新は、1月10日以降になります。
<藻谷浩介『デフレの正体』に打ち止め>
引用:藻谷浩介『人口が減れば需要が減るのは当然』VOICE12月号 PHP
藻谷浩介氏、 検証してゆきましょう。
(2)私の主張するデフレは、マクロではなく、ミクロのデフレだ。
P76
「主として現役世代を対象とした内需対応の商品・サービスの供給過剰に伴う値崩れ」、貨幣現象としての「デフレ」ではなく、ミクロ経済学上の需給バランスの崩壊こそ、金融緩和が効かない物価下落の正体だ。
また、自説への「人口減少がデフレの原因であるとのトンでも説」という批判に対して、
P77
…「いま起きているのはマクロ経済学上のデフレではなくて、ミクロ経済学上の現象、すなわち車や家電、住宅など、主として現役世代にしか消費されない商品の、生産年齢人口=消費者の頭数の減少に伴う値崩れだ」と指摘しているのだから…まったく的外れだ。
と、批判をかわしています。そして、理論(経済学)を批判します。
P76
…いまとは前提条件の違う時代に確立された経済理論を、安易に演繹…思考過程を省力化しようとする態度…。現役世代が減り高齢者が激増している…という日本の現実…変数化して(筆者注:実態が変化しているのに)しまっているのに、そこに理論が対応できていないのだ。
そもそも、デフレーション(物価下落)とは「マクロ」経済学上の問題で、彼の主張する「ミクロ」の問題ではありません。ここからして、 「トンでも論」であることは間違いないのですが、とりあえず百歩(理論上は百万歩?)ゆずって、彼の主張に沿って、その論理を検証しましょう。
<マクロとミクロ(マイクロ)とは>
マクロとは、大きく、全体的に見ることです。
嶋村絋輝 横山将義 『ミクロ経済学』ナツメ社2006 図も
P18
経済全体の集計量、たとえば生産、所得、雇用、消費、投資、利子率、物価、国際収支、為替レートなどに注目して経済全体の活動はどんな水準に決まるのか…
一方、ミクロ(マイクロ)とは、詳細に見ることです。
p18
…個々の家計や企業は、どのような行動をとるのか、…財・サービスの価格や数量はいかに決定されるのか…
「デフレーション」は、マクロの「物価」問題ですが、ミクロでも「価格」は扱われています。藻谷さんは、 「デフレーション」を、後者の「価格」問題だと、定義しているようです。
<藻谷氏の理解の構図>
清水書院 新政治・経済 p93 平成21年 三版.
需給曲線です。需要・供給曲線は,経済学ではおなじみのモデルです。単純なようですが,奥が深い理論です。ミクロ経済学では,この図を使って,私たち一人ひとりの消費行動から,政府による規制や課税,市場の独占や寡占,果ては国際貿易まで,説明します。
N.グレゴリー.マンキュー『マンキュー経済学Ⅰミクロ編』東洋経済2004 で取り上げられている、アイスクリームの需要と供給について、考察します。
ある年、冷夏で、海に行く人も激減しました。アイスクリームは、需要が落ち込みました。
なんと、 「需要」が減って、価格が下落したではありませんか! 「デフレ?」です!
もっと長期、 「少子高齢化」でも結構です。高齢者が増え、子供の数が減ります。藻谷氏の言う、人口動態の変化です。おそらく、「アイスクリームの需要は減る」と考えられます。そうすると、おそらく、「アイスクリーム価格」は下がります。
別に、アイスクリームでなくとも結構です。藻谷氏の言う、「クルマ(デフレの正体p53)」でも「少年漫画(同p55)」でもいいです。「生産年齢人口」の減少・「少子化」により、「需要」が減るので、価格が下落します。
『デフレの正体』p184
…ベビーブーマーが高齢者になって退職する一方で、子供が少ないために生産年齢人口どんどん減っており、車は全自動ラインでロボットがどんどん製造できるのですが、肝心の車を買う消費者の頭数が減ってしまい…結果としてメーカーには大量の在庫が積みあがり、仕方ないので、折々に採算割れ価格で叩き売って処分され…国の主要産業である車産業の製品価格が低迷を続ける事態(筆者注:藻谷氏のいうデフレ?)には何ら変わりがありません。
…車だけではなく、住宅でも、電気製品でも、建設業でも、不動産業でも…需要の減少というミクロ要因に悩んでいる日本の状況…
<注>
このミクロの需給曲線は、ある一つの商品(アイス)を扱った、「部分均衡」論で説明してきました。実際には、世の中に、たくさんの商品があふれています。冷夏でアイスが売れなかったら、逆に「夏のおでん」が売れる可能性があります。食べ物だけではなく、アイスのカップや、衣服や、エアコンなどの電化製品、それらを構成するさまざまな素材に、たった一つの商品の値段が、波及します。
これら、全ての財・サービス(おそらく何万、何百万種)の均衡価格と均衡量を扱うのが、「一般均衡」論です。
ブログカテゴリー ワルラス 一般均衡理論 参照
一般均衡論でも、上図は成立します。
需要が減ると、「価格が下がる」、これが、藻谷氏のいうデフレです。
<ミクロのデフレ論は、成立しない>
さて、これが氏の頭の中にある「デフレの構図」です。ですが、この「価格下落」は、ある前提に立って構成されています。その前提が崩れると、崩壊します。その前提とは、「生産量の固定」すなわち、「生産(供給曲線)は動かない」というものです。
『人口が減れば需要が減るのは当然』VOICE12月号 PHP
p76
…九〇年代後半…生産年齢人口は減少に転じ…就業者数全体も減少することが避けられなかった。…現役世代の消費が減退する。
他方で企業側の供給力は…自動化・IT化の流れの中でいっこうに減っていかない。…クルマや家電、不動産など、主として現役世代を対象とした商品・サービスには供給過剰感が生まれ、価格は下がる。
p76
…生産年齢人口が供給ではなく需要を減らす…普遍的に見られている現象…担い手が激減している国内農業の分野でもコメの需給などにまったく同じことが起きている。
『経済大国ニッポン陽はまた昇る:緊急座談会』週刊文春2010.12.16号
P134
ところが、ロボット化やIT化のおかげで生産力は一向に減らない。…供給過剰が値崩れを呼び、内需の縮小は止めようがありません。
『デフレの正体』p184
…ベビーブーマーが高齢者になって退職する一方で、子供が少ないために生産年齢人口どんどん減っており、車は全自動ラインでロボットがどんどん製造できるのですが、肝心の車を買う消費者の頭数が減ってしまい…結果としてメーカーには大量の在庫が積みあがり、仕方ないので、折々に採算割れ価格で叩き売って処分され…国の主要産業である車産業の製品価格が低迷を続ける事態(筆者注:藻谷氏のいうデフレ?)には何ら変わりがありません。
このように、氏の説では、 「生産力=供給力」は動かないというのが大前提です。「需要は変化するが、供給は変わらない」という神話への固執に、変化はありません。
では、検証します。氏が例に挙げる、車業界です。
出典:時事ドットコム
http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_eco_car-newsales-japan2009
『2009年の国内新車販売、38年ぶり300万台割れ=軽含め500万台届かず』
この販売台数は、ピーク(90年=597万5089台)の半分にも満たない水準です。
クルマは、まだましな方です。オートバイ(全台数)は、なんとピークの1/3しか売れていません(93年125万4254台→09年38万777台)。
さて、この「需要減」に対し、生産者側:メーカーは、「供給量維持=価格下落」で対抗するのでしょうか。そんな馬鹿なことはしません。
トヨタの代表的なモデル、クラウン ロイヤルヤルサルーンの歴代新車価格です。
新車価格は、上がっています。定価を下げて、需要減に対抗しません。需要減には、供給減で対応するのです。要するに、生産台数を減らすのです。
藻谷モデル(需要減のみ)
↓
トヨタモデル(需要減に、生産減で対応)
メーカーは、毎年毎年、需要予測をもとに、「生産台数」を計画します。来年のトヨタの国内生産予定は310万台です。
日経H22.12.22 図も
トヨタ自動車は2011年の国内生産計画を310万台と、10年実績見込み(328万台)比で5%減に設定した。…11年の生産台数は、ピーク時(07年、422万台)から3割落ち込む。
供給能力はあるのですが、量を減らすのです。
日経H22.10.30『10月新車販売2割減 補助金切れ直撃』
エコカー補助金の終了による、需要激減で、新車販売に急ブレーキがかかりました。
ホンダは9月、系列販売店での総受注が約4割減った。トヨタも…4割強の受注減だったという。
これに対処する為に、メーカー側は、
…先行き悪化懸念から、ホンダは「年間の国内生産を100万台弱から97万5千台に引き下げる」…トヨタも国内で年内2~3割の減産を予定するなど、生産への影響も出始めている。
と、供給減で対応します。
藻谷さんの言う、
「他方で企業側の供給力は…自動化・IT化の流れの中でいっこうに減っていかない。…クルマや家電、不動産など、主として現役世代を対象とした商品・サービスには供給過剰感が生まれ、価格は下がる」
「国の主要産業である車産業の製品価格が低迷を続ける事態には何ら変わりがありません」
などということは、現実には「起きない」のです。
トヨタを見ても分かるように、供給力は、「台数を作ろうと思えばある」のですが、「供給量」を減らして、需要減に対応するのです。価格ダウンではなく、数量ダウンを選択するのです。
「いま起きているのはマクロ経済学上のデフレではなくて、ミクロ経済学上の現象、すなわち車や家電、住宅など、主として現役世代にしか消費されない商品の、生産年齢人口=消費者の頭数の減少に伴う値崩れだ」 など、新経済理論なるもので、説明すればするほど、自らの首を絞める結果になっています。
彼が「私は無精者で、経済書やビジネス書は本当に数冊しか読んだことがないのですがp125『デフレの正体』」と述べている通りです。
p168
「三面等価の呪縛」
「常に正しい」三面等価式を持ち出すとは、何やら神聖不可侵な雰囲気の議論でありますが…現実を、「常に正しい」三面等価式ではどう説明するのでしょうか。 などと、批判する前に、きちんと、「経済学」を勉強しましょう。
図を見たら、一目瞭然です。
生産なくして消費は無い、実体経済(国富)なくして、富は創れません。経済学は徹底して「総生産=総消費」=「供給量=消費量」です。 「供給量を固定して考える、新藻谷理論」など、現実に「ありえない」のです。
<追記>
『人口が減れば需要が減るのは当然』VOICE12月号 PHP
P76
取り立ててウォンツがない日本の高齢者の消費性向は米国などに比べて著しく低く、彼らの所得は消費に回らない。
『経済大国ニッポン陽はまた昇る:緊急座談会』週刊文春2010.12.16号
P135
日本の高齢者にはお金に不自由しない層が少なからずいます。でも使わない。モノに興味がなく…
「高齢者は消費しない」の間違いは、ブログ 2010-08-10 カテゴリ 藻谷浩介『デフレの正体』日本政策投資銀行で指摘したとおりです。
<追記2>
1月31日放送 0:15 - 2:05 NHK総合NHKスペシャル2011 ニッポンの生きる道
再放送ですか、藻谷氏が出演していました。
相変わらず、「中国や韓国には貿易黒字だから勝っている、でもフランス、イタリア、スイスには貿易赤字だから負けている」と言っていました。また、リーマンショック前までの輸出額のフィリップを出して説明し、「輸出額はこんなに伸びている」、「日本は勝てる」と持論を展開していました。さらに、「SY=数字読まない」現象についても、批判していました。
http://www.binet-owari.jp/topics/3kai/motani.htmに、藻谷氏のプロフィールが掲載されています。彼の信条も披露されています。
ものを考える際の信条
① 統計数字と実例から帰納した仮説を、経営理論からの演繹と照合しつつ論じる
② 常識は疑い、慣用句は用いず、先入観は排し、反証のある社会通念には従わない
③ 権力欲、他人/他国に対する優越感/劣等感、学歴/学術/技術信仰に左右されない
④ 議論・発言の中で臆さず自説を示し、指摘された誤りは悪びれずすぐ修正する
theme : マクロ経済学 ミクロ経済学
genre : 政治・経済