藻谷浩介 その6 『デフレの正体』角川oneテーマ21
藻谷浩介 その6 『デフレの正体』角川oneテーマ21
この本は、平成22年7月4日『読売新聞』書評欄に、公認会計士の山田真哉氏によって「統計から真実を読み取れ」と題して、紹介されました。同欄では、「統計を読みとることで様々な思い込みを排除することに成功している」とされていたので、読んでみました。
結論ですが、著者が「私は無精者で、経済書やビジネス書は本当に数冊しか読んだことがないのですがp125」と述べている通りです。
経済学的バックボーンがないと、全体像が歪んでしまいます。
経済学と、同書で述べられるような経済現象は全く別物です。前者は、後者がなぜ生じるか(メカニズム)を述べます。経済現象だけに目を奪われると、本質をつかむことができません。
以下、解説します。
<小売額減少で、内需減?>
P53
日本国内での新車販売台数は、00年をピークに01年から下がり始め…国内景気が絶好調とされていた06-07年には減少ペースが大きく加速しました。
…長期的な数字を見ないまま犯人探しをすれば、なぜ車が売れないのかについても、間違った結論に走りがちです。
P54
…日本経済全体の変調の一段面に過ぎません。…百貨店だけでなく、全国チェーンの大手スーパー、全国の無数の食品スーパー、それに通販会社の売り上げも…08年度は減少が始まって…12年です。
…国内の書籍・雑誌の合計売上が96年をピークに…減っています。
『小売販売額はもちろん、国内輸送量や一人当たり水道使用量まで減少する日本』
P56
・・・国内貨物総輸送量…00年度をピークに減っています。
…自家用車による国内での旅客輸送量(人数×距離)も…02年度をピークに減少…。
これらの数字は日本経済のいわば基礎代謝を表す非常に基本的なものです。…こういう数字を無視して、あるいは日本人全員がお客である小売販売額を無視して…「景気」を論じるのって何だか倒錯していないでしょうか。
P58
…酒類販売量が、02年から落ち込み続けています。…以上、お互いに関係のない数字を挙げてきているようですが、実は皆同じ構造的な問題によって減少に転じたのです。
P78
『名古屋でも不振を極めるモノ消費』
P86『…日本中が内需不振』p87グラフも
として、個人消費の落ち込みと、小売販売の落ち込みとの相関関係を示します。
P90…日本中で経済が「衰退」している状況…「こいつは片隅の事実を誇張して自説を強引に正当化している」と決め付ける前に…同じ数字をネットで確認していただいて…じっくりお考えいただきたい…。
<数字を見ない暴論>
そして、「モノもサービスも売れていない」と自説を展開します。
P67
…では「モノは売れていないが、サービスの売上はどんどん伸びている」というような事態が起きているのでしょうか。旅行産業を見ても外食産業を見ても、残念ながらまったくそんなことはありません。それにそもそも「日本はモノづくりの国」でありまして、国内でモノが売れないところへ輸出(=外国へのモノの売上)まで急落して皆さんが困っているのです。
「モノは売れていないが、サービスの売上はどんどん伸びている」というような事態が起きているのでしょうか。旅行産業を見ても外食産業を見ても、残念ながらまったくそんなことはありません。」
というのは、事実を知らないのか、あるいは、知っていて掲載しないのか、いずれにしても、人を惑わすだけです。
<日本は、サービス業の国>
日本は、「サービス産業」の国です。
図47 東京法令出版 資料集『政治・経済資料』2008 p230
このグラフにあるように,日本国内では,第1次産業→第2次産業→第3次産業へ産業構造が変化してきました。日本では,石炭産業が衰退し,繊維を中心とする軽工業から重工業にシフトし,そして,「モノづくり」から「サービス産業」にシフトしてきたのです。
このような産業構造のシフトを、「産業構造の高度化」とか、「ペティー・クラークの法則」といい、どんな簡単な高等学校教科書でも扱っている内容です。
『「日本はモノづくりの国」でありまして』など、何十年前もの話です。
日本の家計の総消費額の推移です。下の、三面等価の<C>部分、われわれ一人ひとりの消費の総額です。
出典内閣府 国民経済計算確報 13.家計の目的別最終消費支出の構成
注)この消費額は、「家賃の帰属計算」を控除(引く)する前の数値です。三面等価の数値より、見かけ上大きくなっています。
日本の、家計消費額は、伸びています。そもそも、「小売」は減っているのですが、あるいは「モノ」消費は減っているのですが、家計はそのほかにカネを回し消費していることがわかります。
著者の言うように「モノ」が売れていないとしたら、「サービス」が売れているはずです。
出典内閣府 国民経済計算確報 13.家計の目的別最終消費支出の構成
一目瞭然です。筆者の言う「食料」や「アルコール」は確かに微減です。ですが、その分、他に消費が回っています。
「娯楽・レジャー・文化」が倍増に近い伸び、「住居・電気・ガス・水道」が約10兆円も伸びています。これらこそ、「サービス」業なのです。「外食・宿泊」も伸びています。これももちろん「サービス業」です。「通信」も1.55倍になっています。
これは、われわれの生活スタイルが変わったことを示します。車より、娯楽・レジャー、電気代(パソコンや、冷房や、 携帯充電、TVなどの機器の充実による待機電力増)、そして携帯やPCの通信代、それらによるゲームなどの娯楽、保険、医療に、カネが回っているのです。
筆者のスタンスは、
P90…日本中で経済が「衰退」している状況…「こいつは片隅の事実を誇張して自説を強引に正当化している」と決め付ける前に…同じ数字をネットで確認していただいて…じっくりお考えいただきたい…。
というものですが、どうも、筆者自身がそのようなことをしています。
<追記>
コメントを頂きました。回答いたします。
掲載の図13・家計の目的別最終消費支出の構成 は 全て、物価の変動を加味した実質値です。
再度、回答です。
藻谷浩介さんの「小売販売額」が名目値ならば、筆者の「最終消費支出」も名目を使うべきではないかということです。
前者が名目値かどうか、『デフレの正体』からは分かりません。
参考に、名目値を使うと、「家計の目的別最終消費支出」は、次のようになります。
サービス支出が伸びていることが分かります。
この本は、平成22年7月4日『読売新聞』書評欄に、公認会計士の山田真哉氏によって「統計から真実を読み取れ」と題して、紹介されました。同欄では、「統計を読みとることで様々な思い込みを排除することに成功している」とされていたので、読んでみました。
結論ですが、著者が「私は無精者で、経済書やビジネス書は本当に数冊しか読んだことがないのですがp125」と述べている通りです。
経済学的バックボーンがないと、全体像が歪んでしまいます。
経済学と、同書で述べられるような経済現象は全く別物です。前者は、後者がなぜ生じるか(メカニズム)を述べます。経済現象だけに目を奪われると、本質をつかむことができません。
以下、解説します。
<小売額減少で、内需減?>
P53
日本国内での新車販売台数は、00年をピークに01年から下がり始め…国内景気が絶好調とされていた06-07年には減少ペースが大きく加速しました。
…長期的な数字を見ないまま犯人探しをすれば、なぜ車が売れないのかについても、間違った結論に走りがちです。
P54
…日本経済全体の変調の一段面に過ぎません。…百貨店だけでなく、全国チェーンの大手スーパー、全国の無数の食品スーパー、それに通販会社の売り上げも…08年度は減少が始まって…12年です。
…国内の書籍・雑誌の合計売上が96年をピークに…減っています。
『小売販売額はもちろん、国内輸送量や一人当たり水道使用量まで減少する日本』
P56
・・・国内貨物総輸送量…00年度をピークに減っています。
…自家用車による国内での旅客輸送量(人数×距離)も…02年度をピークに減少…。
これらの数字は日本経済のいわば基礎代謝を表す非常に基本的なものです。…こういう数字を無視して、あるいは日本人全員がお客である小売販売額を無視して…「景気」を論じるのって何だか倒錯していないでしょうか。
P58
…酒類販売量が、02年から落ち込み続けています。…以上、お互いに関係のない数字を挙げてきているようですが、実は皆同じ構造的な問題によって減少に転じたのです。
P78
『名古屋でも不振を極めるモノ消費』
P86『…日本中が内需不振』p87グラフも
として、個人消費の落ち込みと、小売販売の落ち込みとの相関関係を示します。
P90…日本中で経済が「衰退」している状況…「こいつは片隅の事実を誇張して自説を強引に正当化している」と決め付ける前に…同じ数字をネットで確認していただいて…じっくりお考えいただきたい…。
<数字を見ない暴論>
そして、「モノもサービスも売れていない」と自説を展開します。
P67
…では「モノは売れていないが、サービスの売上はどんどん伸びている」というような事態が起きているのでしょうか。旅行産業を見ても外食産業を見ても、残念ながらまったくそんなことはありません。それにそもそも「日本はモノづくりの国」でありまして、国内でモノが売れないところへ輸出(=外国へのモノの売上)まで急落して皆さんが困っているのです。
「モノは売れていないが、サービスの売上はどんどん伸びている」というような事態が起きているのでしょうか。旅行産業を見ても外食産業を見ても、残念ながらまったくそんなことはありません。」
というのは、事実を知らないのか、あるいは、知っていて掲載しないのか、いずれにしても、人を惑わすだけです。
<日本は、サービス業の国>
日本は、「サービス産業」の国です。
図47 東京法令出版 資料集『政治・経済資料』2008 p230
このグラフにあるように,日本国内では,第1次産業→第2次産業→第3次産業へ産業構造が変化してきました。日本では,石炭産業が衰退し,繊維を中心とする軽工業から重工業にシフトし,そして,「モノづくり」から「サービス産業」にシフトしてきたのです。
このような産業構造のシフトを、「産業構造の高度化」とか、「ペティー・クラークの法則」といい、どんな簡単な高等学校教科書でも扱っている内容です。
『「日本はモノづくりの国」でありまして』など、何十年前もの話です。
日本の家計の総消費額の推移です。下の、三面等価の<C>部分、われわれ一人ひとりの消費の総額です。
出典内閣府 国民経済計算確報 13.家計の目的別最終消費支出の構成
注)この消費額は、「家賃の帰属計算」を控除(引く)する前の数値です。三面等価の数値より、見かけ上大きくなっています。
日本の、家計消費額は、伸びています。そもそも、「小売」は減っているのですが、あるいは「モノ」消費は減っているのですが、家計はそのほかにカネを回し消費していることがわかります。
著者の言うように「モノ」が売れていないとしたら、「サービス」が売れているはずです。
出典内閣府 国民経済計算確報 13.家計の目的別最終消費支出の構成
一目瞭然です。筆者の言う「食料」や「アルコール」は確かに微減です。ですが、その分、他に消費が回っています。
「娯楽・レジャー・文化」が倍増に近い伸び、「住居・電気・ガス・水道」が約10兆円も伸びています。これらこそ、「サービス」業なのです。「外食・宿泊」も伸びています。これももちろん「サービス業」です。「通信」も1.55倍になっています。
これは、われわれの生活スタイルが変わったことを示します。車より、娯楽・レジャー、電気代(パソコンや、冷房や、 携帯充電、TVなどの機器の充実による待機電力増)、そして携帯やPCの通信代、それらによるゲームなどの娯楽、保険、医療に、カネが回っているのです。
筆者のスタンスは、
P90…日本中で経済が「衰退」している状況…「こいつは片隅の事実を誇張して自説を強引に正当化している」と決め付ける前に…同じ数字をネットで確認していただいて…じっくりお考えいただきたい…。
というものですが、どうも、筆者自身がそのようなことをしています。
<追記>
コメントを頂きました。回答いたします。
掲載の図13・家計の目的別最終消費支出の構成 は 全て、物価の変動を加味した実質値です。
再度、回答です。
藻谷浩介さんの「小売販売額」が名目値ならば、筆者の「最終消費支出」も名目を使うべきではないかということです。
前者が名目値かどうか、『デフレの正体』からは分かりません。
参考に、名目値を使うと、「家計の目的別最終消費支出」は、次のようになります。
サービス支出が伸びていることが分かります。
theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育