疋田 智さん著 「自転車の安全鉄則」
自転車ツーキニスト(会社まで自転車で通勤する人)として有名な疋田智さん著の「自転車の安全鉄則」のご紹介。
このところ、自転車に関してマスコミ等で取り上げられることが多くなりました。勿論、自転車の効能について語られることもありますが、残念ながらその多くは“マナーの悪さ”に関してのように感じます。
歩道を暴走して人に衝突してケガをさせたとか、ヘッドホンで音楽を聞きながら走っているとかといった類の話がよく目に入って来ます。
これもマナーの悪い例として「右側通行」の話を耳にしますが、これに関しては取り上げてもらって大歓迎です。
「そうか、自転車って左側通行が“決まり”なんだ」って、自転車に乗る多くの人に認識してもらえるようになったのは、本当に良かったなって思います(それでもまだ反対方向から走ってくる人がいますけどね)。
うちの奥さんは、車に乗って走りながら車道を走っている自転車を見ると、必ずこう言います。
「危ないから、歩道を走ればいいのにねえ」
そうなんですよね。普通の人の感覚でいうと、自転車は車道よりも歩道を走った方が安全に感じるんです。
多くの(自転車には乗らない)クルマの運転手は、最近増えてきた「車道の自転車」を見るにつけ、「邪魔だな、チャリンコは歩道を走れよ」なんてことを考えているのではないでしょうか。
疋田さんによると、自転車の歩道通行を認めているのは、世界で唯一日本だけであり、歩道を通ることがスタンダードだとされている日本は、世界的に見ると大変異常なことなのだそうです。
そしてこれが、日本の自転車事故率が諸外国に比べて異常なほどに高いという理由の一つになっていると言います。
そもそも自転車は、「他を傷つける可能性」をもっているので、本来的に「交通弱者の聖域」であるべき歩道を走る資格がないのです。
「自転車が歩道を走ると、車との衝突事故が増える」という、現実があるのです。
本書の中で様々な国の「自転車マニュアル」が紹介されていますが、これ見て驚きました。こういうことをキチンと伝えている国々があるんだということに。
いくつか抜粋して紹介すると、
「歩道はクルマが通らないので、自転車にとっては安全だと思っている人が多くいます。しかし、残念ながら、歩道は(自転車にとって)安全ではありません。仕方がない時以外は、歩道を通らないようにしましょう」(ペンシルバニア交通省)
「一般的には自転車は歩道を走行してはいけません。多くの自転車とクルマの衝突は自転車が歩道を走ることで起きています。(自転車で)歩道を走行している人の方が、車道を走行している人より、クルマにぶつけられる可能性は高いのです」(フロリダ州の自転車マニュアル)
「歩道は歩行者のものです。歩道では自転車を押して歩きなさい。歩道を走行すると、クルマとの衝突や、クルマにはねられる可能性が高いのです」(カナダ)
歩道走行は安全のように思えて、実は自転車にとって非常に危険なんです。なぜならクルマとの衝突事故が増えるからです。これこそが真実なのです。
このクルマとの衝突事故が増える一番の理由は、自転車の歩道走行は、ドライバーの目から自転車を覆い隠し、交差点での「出合い頭」の元凶となってしまうからです。
歩道沿いには、樹木や生け垣、駐車車両、建物、電柱、郵便ポストなどがあり、それらが盲点を作ることで、歩道を通行する自転車はクルマの側から非常に視認しにくいものになってしまうのです。
そして、交差点での「出合い頭」の事故が、自転車事故の大半を占めています。自転車は、どんなに歩道の上だけを走ろうとしても、こと交差点にかかった場合、その「見えない歩道」から外に出なくてはなりません。そこに自転車事故の最大の危険性が隠れています。
以前紹介したふじい のりあきさんの「ロードバイクの科学」によれば、平成10~15年の国内自転車事故146,631件の内、実に71%が「出会い頭」による事故なのです
だから、自転車はむしろクルマから容易に視認できる場所、すなわち車道の方が安全だという逆説的事実が厳然としてあるのです。
疋田さんは、「左側通行の徹底」こそが、日本における自転車の「安全鉄則」において、「生命に関わる重篤な状態で一刻も早い処置が必要で救命の可能性があるもの」として、最も重要なものとして挙げています。
「自転車の右側通行は、どうしてそこまでダメなのか」という理由は、大きく分けて三つあります。
唯一、(車道、歩道共に)左方向から来る「右側通行」の自転車だけが、交差点に出てくる直前になるまで、まったく見えない状況となってしまいます。
先日、私の場合は、私も自転車、相手も自転車でしたが、出合い頭の衝突事故に巻き込まれてしまいました。
こちらは歩道のない道路の左側を走っていたのですが、横の道から急に一台の自転車が飛び出してきました。
ブレーキを握る間もなく、相手の側面に衝突し、私は一回転して転びました。病院には行きませんでしたが、感じからして左手首にヒビが入ったみたいで、完全に痛みが引くまで3カ月以上かかりました。
クルマの場合と微妙に違うかもしれませんが、この場合も相手が左側通行をしていたら、相手の認識から衝突まで少なくとも3メートルくらいの差が生まれるので、もしかしたら衝突を避けられたのかもしれません。
ところが、そうしたイメージに反して、現実には背後からクルマが来るよりも、正面からクルマが来る方が、はるかに事故の起きる確率は高いのです。
自転車対クルマでの「正面衝突事故」は「追突事故」の実に5倍近く起きているのです。
これは、人間というものは「差の相対速度」は避けられる場合でも「和の相対速度」は避けられないということを示していると言えるでしょう。
例えば自転車のスピードを時速25キロ、クルマのスピードを時速60キロと想定してみると、追突の場合は相対速度が時速35キロになりますが、正面衝突の場合、時速85キロにもなり、ほとんど高速道路のクルマのスピードになってしまいます。
今度は住宅地を走るママチャリのイメージで、自転車時速20キロ、クルマ時速40キロで考えてみましょう。
この場合、追突が相対速度時速20キロに対して、正面衝突では相対速度時速60キロとなります。
これだけでも正面衝突の衝撃は激しそうですが、衝突エネルギーとして考えると、「質量×速度の二乗」に比例するので、この正面衝突のエネルギーは、追突事故のエネルギーのなんと9倍にもなるのです。
つまり、同じスピードで走っていても、追突では死なないですんだはずの人が、正面衝突では確実に死んでしまうという事実です。
私自身、「左側通行」の重要性を、この本を読んで再認識した次第です。自転車に乗られる方は、是非一読されることをおススメします。
「自転車は左側通行」が“決まり”なんだって、少しずつ認識されてきたかな?
本書は、題名の通り自転車の「安全」に関して、様々テーマで語られていますが、メインとなるのはなんといっても「自転車乗りがクルマから身を守るために」ということでしょう。このところ、自転車に関してマスコミ等で取り上げられることが多くなりました。勿論、自転車の効能について語られることもありますが、残念ながらその多くは“マナーの悪さ”に関してのように感じます。
歩道を暴走して人に衝突してケガをさせたとか、ヘッドホンで音楽を聞きながら走っているとかといった類の話がよく目に入って来ます。
これもマナーの悪い例として「右側通行」の話を耳にしますが、これに関しては取り上げてもらって大歓迎です。
「そうか、自転車って左側通行が“決まり”なんだ」って、自転車に乗る多くの人に認識してもらえるようになったのは、本当に良かったなって思います(それでもまだ反対方向から走ってくる人がいますけどね)。
日本は30年かけて「自転車は歩道」としてきたんです
疋田さんは、自転車乗りが自分の身を自分自身で守るために絶対必要なこととして二つの事を上げています。その一つが「左側通行」なのですが、もう一つは「車道を走る」ことです。うちの奥さんは、車に乗って走りながら車道を走っている自転車を見ると、必ずこう言います。
「危ないから、歩道を走ればいいのにねえ」
そうなんですよね。普通の人の感覚でいうと、自転車は車道よりも歩道を走った方が安全に感じるんです。
多くの(自転車には乗らない)クルマの運転手は、最近増えてきた「車道の自転車」を見るにつけ、「邪魔だな、チャリンコは歩道を走れよ」なんてことを考えているのではないでしょうか。
疋田さんによると、自転車の歩道通行を認めているのは、世界で唯一日本だけであり、歩道を通ることがスタンダードだとされている日本は、世界的に見ると大変異常なことなのだそうです。
そしてこれが、日本の自転車事故率が諸外国に比べて異常なほどに高いという理由の一つになっていると言います。
そもそも自転車は、「他を傷つける可能性」をもっているので、本来的に「交通弱者の聖域」であるべき歩道を走る資格がないのです。
自転車で歩道を走ることは、実は自転車にとって本当に危険なんです
上で書いた「そうか、自転車って左側通行が“決まり”なんだ」って知った人たちの多くが、未だに「歩道の自転車は、車道の自転車よりはるかに危険」という事実を知らないと思います。「歩行者にとって」ではなく、「自転車にとって」ですよ。「自転車が歩道を走ると、車との衝突事故が増える」という、現実があるのです。
本書の中で様々な国の「自転車マニュアル」が紹介されていますが、これ見て驚きました。こういうことをキチンと伝えている国々があるんだということに。
いくつか抜粋して紹介すると、
「自転車の歩道通行は、自転車とクルマの衝突事故の重要な要因です。歩道通行は(自転車にとって)危険であるということです」(米国連邦交通省)
「歩道はクルマが通らないので、自転車にとっては安全だと思っている人が多くいます。しかし、残念ながら、歩道は(自転車にとって)安全ではありません。仕方がない時以外は、歩道を通らないようにしましょう」(ペンシルバニア交通省)
「一般的には自転車は歩道を走行してはいけません。多くの自転車とクルマの衝突は自転車が歩道を走ることで起きています。(自転車で)歩道を走行している人の方が、車道を走行している人より、クルマにぶつけられる可能性は高いのです」(フロリダ州の自転車マニュアル)
「歩道は歩行者のものです。歩道では自転車を押して歩きなさい。歩道を走行すると、クルマとの衝突や、クルマにはねられる可能性が高いのです」(カナダ)
歩道走行は安全のように思えて、実は自転車にとって非常に危険なんです。なぜならクルマとの衝突事故が増えるからです。これこそが真実なのです。
このクルマとの衝突事故が増える一番の理由は、自転車の歩道走行は、ドライバーの目から自転車を覆い隠し、交差点での「出合い頭」の元凶となってしまうからです。
歩道沿いには、樹木や生け垣、駐車車両、建物、電柱、郵便ポストなどがあり、それらが盲点を作ることで、歩道を通行する自転車はクルマの側から非常に視認しにくいものになってしまうのです。
そして、交差点での「出合い頭」の事故が、自転車事故の大半を占めています。自転車は、どんなに歩道の上だけを走ろうとしても、こと交差点にかかった場合、その「見えない歩道」から外に出なくてはなりません。そこに自転車事故の最大の危険性が隠れています。
以前紹介したふじい のりあきさんの「ロードバイクの科学」によれば、平成10~15年の国内自転車事故146,631件の内、実に71%が「出会い頭」による事故なのです
だから、自転車はむしろクルマから容易に視認できる場所、すなわち車道の方が安全だという逆説的事実が厳然としてあるのです。
「左側通行の徹底」は、一刻も早い処置が必要で救命の可能性がある最重要事項
自転車乗りがクルマから身を守るために「自転車は車道」、そして「自転車は左側通行」という2つの基本事項を守ることが本当に重要なのですが、最低限「左側通行」を守って欲しいと書かれています。疋田さんは、「左側通行の徹底」こそが、日本における自転車の「安全鉄則」において、「生命に関わる重篤な状態で一刻も早い処置が必要で救命の可能性があるもの」として、最も重要なものとして挙げています。
「自転車の走行空間は、とりあえず車道・歩道を問わない。
但し、どちらを通る場合であっても、左側通行を厳守すること」
但し、どちらを通る場合であっても、左側通行を厳守すること」
「自転車の右側通行は、どうしてそこまでダメなのか」という理由は、大きく分けて三つあります。
なぜ右側通行はダメなのか--[その1]出合い頭事故の元凶となっている
図で説明できないので表現が難しいのですが、交差点に差し掛かったクルマにとって、左側通行する自転車は、同じ方向に走っていようが、対面から来ようが、右からのも、左からのも視認が可能です。唯一、(車道、歩道共に)左方向から来る「右側通行」の自転車だけが、交差点に出てくる直前になるまで、まったく見えない状況となってしまいます。
先日、私の場合は、私も自転車、相手も自転車でしたが、出合い頭の衝突事故に巻き込まれてしまいました。
こちらは歩道のない道路の左側を走っていたのですが、横の道から急に一台の自転車が飛び出してきました。
ブレーキを握る間もなく、相手の側面に衝突し、私は一回転して転びました。病院には行きませんでしたが、感じからして左手首にヒビが入ったみたいで、完全に痛みが引くまで3カ月以上かかりました。
クルマの場合と微妙に違うかもしれませんが、この場合も相手が左側通行をしていたら、相手の認識から衝突まで少なくとも3メートルくらいの差が生まれるので、もしかしたら衝突を避けられたのかもしれません。
なぜ右側通行はダメなのか--[その2]正面衝突を避けることができない
右側通行をするということは、当然ながら反対方向に向かうクルマと対面通行になるわけですが、これをもって「目の前からクルマが来るのが見えるから安心」という人がいたりします。ところが、そうしたイメージに反して、現実には背後からクルマが来るよりも、正面からクルマが来る方が、はるかに事故の起きる確率は高いのです。
自転車対クルマでの「正面衝突事故」は「追突事故」の実に5倍近く起きているのです。
これは、人間というものは「差の相対速度」は避けられる場合でも「和の相対速度」は避けられないということを示していると言えるでしょう。
例えば自転車のスピードを時速25キロ、クルマのスピードを時速60キロと想定してみると、追突の場合は相対速度が時速35キロになりますが、正面衝突の場合、時速85キロにもなり、ほとんど高速道路のクルマのスピードになってしまいます。
なぜ右側通行はダメなのか--[その3]死亡事故となる確率が格段に上がる
そして、その正面衝突が重大な結果を生むことになります。今度は住宅地を走るママチャリのイメージで、自転車時速20キロ、クルマ時速40キロで考えてみましょう。
この場合、追突が相対速度時速20キロに対して、正面衝突では相対速度時速60キロとなります。
これだけでも正面衝突の衝撃は激しそうですが、衝突エネルギーとして考えると、「質量×速度の二乗」に比例するので、この正面衝突のエネルギーは、追突事故のエネルギーのなんと9倍にもなるのです。
つまり、同じスピードで走っていても、追突では死なないですんだはずの人が、正面衝突では確実に死んでしまうという事実です。
私自身、「左側通行」の重要性を、この本を読んで再認識した次第です。自転車に乗られる方は、是非一読されることをおススメします。
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