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税や社会保険料に加えて、私たちは、物価上昇でお金の価値が下がり増税のような効果が表れる「インフレ税」を負担している――。そんな議論が注目される。国家財政の収支改善は、こうした負担増が関係するのか。どんな弊害があるのか。(大内悟史)
■今回の論考 中園善行「消費減税の裏にある『インフレ増税』の罠(わな)」(世界3月号)/推薦した論壇委員 吉弘憲介・桃山学院大教授=経済・財政
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「金利のない」経済から「金利のある」経済へ――。失われた数十年を経て日本経済は大きな転換期を迎えている。
インフレ下での低金利政策で、国の債務は目減りし、利払いの負担は抑えられる。ただ、通貨の価値が下がり、円安による物価上昇で労働者や年金生活者の暮らしは悪化する。政府は物価上昇で税収が増え、増税せずに増税効果が得られる。こうした国と家計の関係を「インフレ税」と呼ぶ議論がある。現に近年、日本の税収は増えている。
マクロ経済学が専門の中園善行・横浜市立大教授は「政治的に不人気な増税や歳出削減を避け、専門家以外に目に見えにくい形で広く薄く国民に負担を課す。政治家にとって都合がいい経済政策が家計を圧迫し、経済状況の本格的な改善は遠のくばかり」と懸念する。
中園さんいわく、1970年代の2度の石油危機(オイルショック)に伴う「狂乱物価」以降、「インフレ局面が何度かあったが、そのつど円高や原油高による物価上昇を企業が吸収し、コスト削減を含む生産性向上や利幅縮小により価格転嫁を抑えてきた」。だが今回は、原油高・資源高と並行して異例の円安が進行している。「輸出企業の業績は好調でも賃金の上昇が物価上昇に追いつかず、この数十年つらい状況が続いた家計はさらに厳しい。いわば往復びんたを何度もくらっている状態だ」という。
確かに、株価や不動産価格が上がっても暮らしが豊かになった実感がない人は多い。中園さんは「高所得で資産を保有する『持つ者』と、給与や年金に頼る『持たざる者』の分断が広がっている」と指摘し、「こうした『経済のK字構造』の拡大は超低金利政策が一因だ」と批判する。
インフレを抑えようと利上げを目指す日本銀行は「政治の論理」の制約を受ける。低金利のまま巨額の公的債務の利払い費を抑えたい。国債の金利を上回るインフレにより、巨額の公的債務を実質目減りさせたい――。こうした政治の意図が作用し、「目に見えにくい負担が円で稼ぎ、円で消費・貯蓄する私たちに課されている」。
戦後の米英仏は80年代にかけて、インフレにより世界大戦で抱えた債務削減を進めた。だが、こうした「金融抑圧」的な手法に頼れば「資本家は恩恵を得ても、労働者の所得は削られる」。
フォード米大統領は74年、インフレを「公共の最大の敵」と呼んだ。人々の生活水準が下がり、将来を悲観して支出を控えるようになるからだ。「こうした状況から抜け出すには、将来的に日銀の追加利上げが欠かせない」と中園さんは見る。
「超低金利の麻酔が切れた後にさらに麻酔を追加するのか。増税や金利正常化により財政を再建し、通貨の価値を取り戻すのか」。減税や「インフレ税」に頼らない経済政策が求められる。
◆オピニオン面で毎月掲載する「論壇時評」のため、論壇委員会が開かれています。委員が推薦する論考を1本選んで、詳しく紹介します。
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