ヤマハが開発中の繊維状センサー「薄型ストレッチャブル変位センサー」の詳細が明らかになった。同センサーは2015年1月に東京で開催されたウエアラブル機器の展示会で、初めて一般に公開されたもの。同年3月24日に開催された講演会「ウエアラブル・ジャパン 2015 Spring」(主催:日経エレクトロニクス)で、同センサーの開発を主導する研究開発統括部第3研究開発部 素材素子グループ グループマネージャーの鈴木克典氏がその構造や特性を語った。
このセンサーの開発は、鈴木氏がヤマハから静岡大学に派遣されたとき、カーボンナノチューブ(CNT)の研究に携わったことがきっかけとなった。中でも鍵となったのが、多層のチューブ構造を持つ「MWCNT(multi wall CNT)」との出会いだ。通常のCNTの長さがμmオーダーの粉末状または分散液の状態であるのに対し、静岡大学で開発したMWCNTは長さmmオーダーで長尺の繊維状である。MWCNTは、基板上で成長させ、十分に成長した後に、これをピンセットのようなもので引っ張り出すとMWCNTをシートとして取り出せる性質がある。
さらに、MWCNTのシートは導電性があり、引っ張りを加えると大きく抵抗値が変化する特性を持つ(図1)。MWCNTシートには、MWCNT同士がうまく絡まっていない欠損部分(MWCNT同士の結合が弱い部分)があり、引っ張りによって、この空隙が広がることから、抵抗値が増えるためだ。
こうした特性に目を付け、MWCNTシートを変位センサーとして使うことを思いついた。一方でMWCNTシートは強い弾力を持たない。そこで弾力を持たせるため、伸縮するウレタン素材を開発。これとMWCNT素材を層状に重ねた構造とすることで、変位センサーとした(図2)。ウレタン素材も耐水性のあるものを選び、変位センサーも耐水樹脂でコーティングしてあるため、水中でも変位測定が可能である。