2030年を想定し、自動車のライフサイクルで二酸化炭素(CO2)排出量を評価する「LCA(Life Cycle Assessment)」の議論が欧州で始まった。実現すれば、現行規制で圧倒的に優位な電気自動車(EV)の位置付けが下がる。一方で、ガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車(HEV)は、EVと互角で競える立場に昇格する。「逆風EV」。まずはLCA時代を見据えた"EV対HEV”の行方を見通す。
トヨタ自動車と日産自動車、ホンダの日系大手3社は、2030年以降を見据えてガソリンエンジンの開発に力を注ぐ。2030年時点で、エンジン車と簡易式を含むハイブリッド車(HEV)が世界の主流であるからだ(図1)。世界生産のうち約9割がエンジン搭載車になる。
加えて大きいのが、2030年にかけてCO2排出量の測定方法が自動車のライフサイクルで評価するLCAに変わる可能性があることだ。HEVのCO2排出量はEVと同等か、技術の進展次第ではEVを下回るかもしれない。2030年以降、HEVとEVが“真”の環境対応車(エコカー)の地位を巡り、互角の技術競争を繰り広げることになる。
2019年3月、欧州議会と欧州委員会は、自動車の生産やエネルギー生成、走行、廃棄、再利用などのCO2排出量の総和を評価するLCAについて検討することを当局に要請した。2023年までに結論を出す予定である。2025年以降になるだろう「ポストユーロ7」と呼べる環境規制から、LCAでCO2排出量を評価する可能性がある。
走行中だけのCO2排出量を対象にする現行規制から「大転換」(日系自動車メーカー幹部)と言えて、2030年以降のパワートレーン開発に大きく影響する。特に、現行規制ではCO2排出量をゼロとみなせて圧倒的に優位なEVの位置付けが下がる。EVは、発電時や電池生産時などのCO2排出量が多い。国や地域によるが、現時点でEVのCO2排出量はHEVを上回る場合が多い。
欧州自動車メーカーは、LCAによる規制強化に備え始めた。例えばEVに注力するドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen)は2019年5月、パワートレーン国際会議「第40回ウィーン・モーター・シンポジウム(40th International Vienna Motor Symposium)」で、発電時や電池生産時に対策し、LCAでEVのCO2排出量を大幅に下げる構想を発表した注1)。
「計算方法によるが、最悪のシナリオでEVのCO2排出量はディーゼルエンジン車を上回りかねない。VWとしては2050年までに全車両で(CO2の排出と吸収を同じにする)カーボンニュートラルに近づけることを目指す」(VW生産担当役員のアンドレアス・トストマン(Andreas Tostmann)氏)。
HEVの役割が高まると見る日系大手3社は、EVの開発と並行して、HEVのCO2排出量を減らす開発に挑む。とりわけ重視するのが、中核技術であるガソリン機の最高熱効率を50%近くまで高めて、有害な排出ガスをほとんどゼロの水準に下げることである(図2)。ここまですれば、2030年以降の“真”のエコカーとしてHEVが活躍できると考える。