本連載は2022年4月19日に開催された「東京デジタルイノベーション2022」の基調講演の内容を書き起こしたものであるが、時間の短い講演のため、細かいところまで言及できていなかった。そこで、補足という形で詳細を追記させていただく。
EVの電力消費
[1]電力消費試算の前提条件
販売台数:日本政府(以下、政府)は2035年に全てを電動車にすると表明したが、電気自動車(EV)の具体的な販売比率まで示していないため、筆者が予測する範囲+αで2030年に10%とした(メディアや欧州の自動車メーカーが叫ぶ値よりはかなり小さい)。この前提では、2030年におけるEVの保有台数は250万台となり、保有車全体(7800万台)では3.2%の占有率となる。
年間走行距離:平均で1万2000kmとした。EVはボリュームゾーンの乗用車に限定されるわけではなく、フリート車や小型トラックなどの商用車も含まれることを考慮した。
電費:ボリュームゾーンである乗用車で使用するEVの、米環境保護局(EPA)の測定法による電費の平均値は6km/kWhである。小型トラックや商用EVを含めるとこの値よりも悪化し、総消費電力は増加すると思われるが、これらの悪化分をここでは含めていない。
[2]総電力消費の算出
これらの前提条件で算出した総消費電力は50億kWhとなる。電費にトラックなども含めると、総消費電力はこれを上回ることになる。
この50億kWhは、2018年の総消費電力である1兆kWhの0.5%程度であるが、政府の最新のエネルギー基本計画によると、2030年の総電力は2019年比14%減の8640億kWhとし、再生可能電力の構成比率は、2018年の18%から2030年には36~38%(ドイツは現時点で既に40%)に拡大するとしている。
再生可能電力量でみると、2018年の1800億kWhを、2030年までに3197億kWhまで増加させることになり、拡大分は1397億kWhとなる。
再生可能電力の拡大量に占めるEVの総電力量(少なめの算出)は3.6%と決して小さい値ではない。エネルギー基本計画で、2030年までに総電力を14%減らし、再生可能電力を36~38%まで拡大するのはよいが、EV用の再生可能電力をどのように調達するのかという道筋を政府は示していないのである。
原子力発電の再稼働は進まず、石炭火力発電は廃止。にもかかわらず、再生可能電力の拡大が先進国の中でも遅れている日本。まさに今年の夏と冬に電力供給危機という形で政府および電力会社の無策ぶりが露呈している。
日本政府と省庁の電力行政が期待通りに進んでいないことを考えると、日々の電力供給に精いっぱいで、EVに回せる電力の余力が生まれるとは考えにくい。商用車の電費を考慮し、EV販売比率が10%よりもさらに拡大すれば、電力供給はさらに厳しくなる。再生可能電力が拡大しない今のままでは、「電力ショート時はEV走行は禁止、充電された電力は家庭用に使用」ということにもなりかねないのである。
日本における再生可能電力拡大の危うさ
今回、再生可能エネルギーは風力発電にフォーカスした。理由は、現時点で太陽光発電は平地面積当たりの設置比率は世界一で、40%近くはハザードマップ域にあり、ここ2~3年で15%が土砂崩れなどで破壊されて、残された場所が休耕地あるいは建造物の屋上などに限定されているからだ。そのため、規制緩和の進む風力を取り上げた。
ただ、情けないことに、経済産業省の2030年における洋上風力発電目標は10GWである。これは設備使用率を25%とすると、総電力である8640億kWhの2.5%、再生可能電力の必要拡大量である1397億kWhの16%程度だ。政府は再生可能電力比率を、2018年の18%から2030年までに36~38%に上げるという目標を立てているが、それを実現する個別目標との整合性が全くない(全く足りていない)ことが露呈しているのである。
燃料のグリーン化と電力のグリーン化はエネルギー政策の2本の柱であり、政府と経済産業省が最優先で取り組む課題であるにもかかわらず、作業は全く進んでいない。このままでは日本の産業界は10年以内に危機を迎えると言っても過言ではない。政府と経産省には早々に行動に移してほしい。
EV電力供給用の風力発電設置面積に関する算出の根拠
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の風力発電導入ガイドマップでは、卓越風向(常に風向きが一定)がはっきりしている場所に風車を複数基設置する場合は、風車の直径の3倍離して設置。卓越風向がはっきりしていない場合は、風車の直径の10倍離して設置するのがよいとされている(図)。メーカーや機種によって卓越風向を基準として、風車の直径の7倍、最低でも5倍などのガイドラインが設けられているものもある。
琵琶湖の卓越風向は一定ではないと考えられるため、図右のそれぞれ10D離す設置方法が妥当と考えられるが、それで計算すると非常に大きな面積となるため、隣り合う風車間を3D(D:直径)よりも少し大きい4D、風下方向は10Dとして1基当たりの設置面積を検討した。また、出力の大型化によって設備利用率は多少上がると思うが、大型風車の下限に相当する1MW(風車の直径60m前後)、設備使用率25%を計算の前提としている。1MW級の風力発電設備(設備使用率25%、年間発電量219万kWh)の2280基分(2.3GW)が50億kWhに相当する。
1つの発電機専有面積は240×600=0.144km2
2880基では414.7km2
琵琶湖の面積670.4km2
琵琶湖における風力発電占有面積=414.7/670.4=0.619
よって、約60%となる。
これらの計算結果は、設置する発電機出力や設備使用率により変わってくる可能性はあるが、規模感をつかんでもらうためだと捉えてもらえばよいと思う。よって、以下となる。