2023年5月、フランス北東部のグラン・テスト地域圏の地下に大規模な天然水素(ホワイト水素)鉱床が発見された。実は、こうした天然水素は世界各地に存在するとされる。しかし、その埋蔵量や商業的な利用可能性については、いまだにはっきりしない注1)。果たして、天然水素はエネルギー転換に大変革をもたらすのか。2024年12月4日、グラン・テストにおける水素ビジネスをPRするために来日した、同鉱床発見者でロレーヌ大学リサーチディレクターのJacques Pironon氏に聞いた。
埋蔵量、意外と少ない?
最新の調査結果によれば、グラン・テスト水素鉱床の推定埋蔵量は3400万トン。特定の鉱床において、天然水素の埋蔵量を具体的に推定できたのは、今回が世界で初めてだ。
現在、世界の水素需要は年間1億トンに達しようとしている。これと比較すると、3400万トンはすぐに使い切ってしまいそうだ。だが、驚くべきことに、「天然水素は今なお地下で発生し続けており、採掘速度を生成速度に合わせれば再生可能なエネルギーとなり得る」(Pironon氏)という。ただし、その生成速度は明らかになっていない。
採掘技術の開発が商業化への鍵
資源化できれば価格競争力も十分あるという。採掘と精製による水素製造コストは1kg当たり1~2ユーロと試算する。これは、メタンガス由来の水素(グレー水素)よりも2倍ほど高いが、再生可能エネルギー由来の水素(グリーン水素)と比べると3分の1~4分の1程度である。
Pironon氏は、水素を発電利用した際のコスト優位性について強調する。「仮に1kg当たりの製造コストを2ユーロとした場合、電気代は1kWh当たり0.08ユーロとなる。これは現在のフランスにおける1kWh当たりの電気代0.27ユーロよりも安い」
ただし、実際の生産は、今後の採掘技術の進展が鍵を握る。グラン・テストでは、地下3kmに存在する地下水に、30mg/L(ppm)という高濃度の水素が溶け込んでいることが明らかになった。推定埋蔵量3400万トンの中には、この溶存水素の量も含まれている。「水中から効率的に水素ガスを抽出する技術は開発されていない。今後2~3年以内に技術を確立し、5~6年後をめどに生産を開始したい」(Pironon氏)と意気込む。