中国CATL(寧徳時代新能源科技)は2023年4月19日、上海で開催中のクルマ関連の展示会「上海国際自動車ショー 2023」(4月18~27日)の場で、「凝聚態電池(Condensed Battery)を開発した」と発表した 発表資料 。同展示会に、おおよそA4サイズとみられる寸法の試作品(もしくはモックアップ)も出展した(図1)。
重量エネルギー密度が最大500Wh/kgと非常に高い点が特徴だ。2次電池のエネルギー密度は1991年のソニーによる最初のリチウムイオン2次電池(LIB)の実用化から30年間超、平均で年間2%増程度の非常にゆっくりした改善しかしてこなかった。この凝聚態電池が量産されれば、一気に2倍近い重量エネルギー密度の電池が実現する。
同程度の性能のセルの研究開発例は少なくないが、実用化にこぎつけた例はまだなかった。ところが今回、CATLは電気自動車(EV)向けに、2023年内に量産を開始するという。電池の世界で文字通りのゲームチェンジになる可能性がありそうだ。
正体を巡る議論では「量子電池」説も
この凝聚態電池についてCATLが最初に公開の場で触れたのは2022年6月下旬に中国・重慶で開催されたクルマの展示会「2022(第24回)重慶国際自動車展覧会」だった。ただし、名前以外の詳細が一切明かされなかったため、中国メディアはその謎を巡って喧々囂々(けんけんごうごう)の議論を繰り広げた。中には、CATLの特許を詳細に検討して、該当する技術がないかを調べる報道や、CATL社長のZeng Yuqun(曽Yu群)氏が約17年前に博士論文を執筆した際の所属が中国科学院物理研究所凝縮態物理学科だったことを指摘する報道もあった注1)。
凝縮態物理学、または凝縮系物理学(Condensed Matter Physics)は、主に極低温での物理、例えば、量子力学的な現象である超電導やボーズ・アインシュタイン凝縮、さらには、トポロジカル絶縁体、スピン液体、ベリー位相などの物性物理学の最先端のテーマ群を指す。このため、宇宙などでの特殊な条件下での使用を想定した電池か、といった臆測が飛び交った。
その議論が出尽くしてメディアが忘れかけた矢先の2023年4月16日、CATLは凝聚態電池について同19日に発表するとツイッターで予告(図2)。短期間だが、正体を巡る議論が再燃した。