機内で観た映画 その8 「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」1920年代、強制移住させられたアメリカ・オクラホマで、居住地で突然石油が湧いたことで掘れて莫大な富を掴んだオセージ族に対する白人による実話の連続殺人事件。3時間強の長尺だが、まるで記録映画のようで、集中できた。 監督がさすがのスコセッシ、ヒーローがさすがのデ・ニーロ、好みではないディカプリオが中年になっていい味を出しているのもさすが、と、納得の「さすが」尽くし。 20世紀だからか、そもそも、移住してきた先住民に石油採掘権が与えられて富を蓄積できていたことにまず驚いた。 そして、公民権運動までは異人種間の婚姻が禁止されているはずだが、(金のためには)平気で先住民の女と結婚してハーフの子供を設けていたという事実もはじめて知った。先住民の家で女中や子守が白人であることも不思議でないのはまさに、人種差別より「金の多寡」が社会の基準なのだとあらためて思った。 ヒーローのカップルの上の男の子が金髪で、長女が髪も肌も暗い色なのを眺めて人々があれこれコメントするのだが、露骨な人種差別というより「好奇心」だし、ヒーローが妻や子供たちを本気で愛しているらしいのは伝わってくる。でも、ヒーローは、一帯を支配しているキングと呼ばれる伯父の振り回すイタリア・マフィアっぽい家族の論理にも自然に洗脳されている。 イタリア系移民が多いせいなのか、カトリック教会があって、先住民も出入りしていて、そこで結婚もできる。プロテスタント系教会が黒人と白人を完全に分けていたのとは大違いだ。 スコセッシはシシリア系のイタリア・カトリック家庭の出身、デ・ニーロも父がイタリア系でカトリック、ディカプリオも父がカトリック、母方にもカトリックのアイルランド系もいる。 つまり、アメリカではマイナーグループだったカトリック社会の話で、『ゴッド・ファーザー』だとか『ウエストサイドストーリー』などにも通じる。 先住民がカトリック化していったのはカナダのケベックの歴史でも見てきた。 そして、「人種差別」的観点から言うと、カトリックは緩くて、カトリックの原点をそれなりに守ってきたことが分かる。 この映画は、DNAだの指紋照合や司法解剖などもないか確立していない時代だから、金を渡しての「殺人依頼」などいとも簡単にできてしまう。まさに無法のウェスタン映画と同根だ。でも最後にFBIが登場して、連邦警察の誕生がアメリカの「文明化」にいかに必要だったかがよく分かる。 デ・ニーロ演じる「キング」は、文化施設や学校、バレエ教室まで提供して、オセージ族の中枢からもしっかりとリスペクトされている。「偽善」の塊なのだが、実に周到で、説得力がある。これもサバイバル能力の一種なのだろう。 でも、なんだか、今に至るまでのアメリカの「大口寄付文化」「目立つ大盤振る舞いが社会的地位やアリバイをつくる」という伝統の根の深さを思わせる。 ディカプリオは、戦争でトラウマを受けて戻ってきた「ベテラン」という設定で、「フランス軍」との衝突のことがちらりと言及されていたのだが、1920年ころにそんなシーンはあったっけ? 第一次世界大戦のベテランだとしたらドイツ軍と言うならわかるけれど…私の聞き間違えかも。 妻モリ―の糖尿病、はじめてのインスリン治療など、緊張の高まるシーンも繰り返される。 ディカプリオが終身刑(途中釈放される)になった後で同族と再婚したらしいことにも、結局そこに行きつくのか、そしてハーフの子供たちはどのような生涯を送ったのだろうか、など、いろいろな思いが尽きない。 アメリカの先住民居留地にまつわる歴史の一例を知ることができたことを含めて実に興味深い映画だった。機内に閉じ込められていてこそ視聴できたことに感謝。
by mariastella
| 2024-05-11 00:05
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