シリアの「新政権」? と政治におけるルッキズムの雑談フランスでノートルダム・ド・パリの再開式が行われているうちに、シリアではアサド政権が崩壊するという大事件が起こった。
今のところ、首謀者のアルジャウラニは、キリスト教徒の信仰の自由も守るといって安心させている。(以前は人口の10%42歳ともいたキリスト教徒はISによる迫害などで3%に減っている。でも中東はもともとキリスト教の揺籃地で最も歴史が古いところなのだ。) 42歳というアルジャウラニのジハディスト遍歴は長いので、いろいろなことを学んできたらしい。革命政権が長続きするには、一方的な弾圧ではだめで、歴史建造物の保護も含めて、西洋スタンダードに刺激を与えない政策が必要だ。(それでも女性ジャーナリストのインタビューに答えるためにイスラムスカーフ着用を条件にした。といっても、この辺りは、キリスト教徒でもスカーフを着用している。もともと「既婚の女性」の徴しだった。) 彼が本当に民主路線を進めるのか、イスラム過激派としての「本性」を見せるのか、などとメディアは警戒を忘れない。といっても、シリアからの難民が「帰還」してくれるのは「朗報」だ。
10年以上も大量の難民がシリアから去り、EUは彼らをトルコ内でせき止めるための政略を続けてきた。メルケルが打ち出したドイツの政策の功罪も含め、フランスに住んでいると、シリア難民の問題は手に届くところにある。(比喩ではなく、メトロでも通りでも、「シリア難民家族」と称する人々が日常的に近くにいる。) フランスにいると、ウクライナ戦争も、ガザやレバノンの戦争も、生活実感的にも政治的にも、身近にある。 今回のシリアの「革命」では、それらがばらばらではなくて有機的につながっていることを意識させられることになった。ガザやレバノンでヒズボラが衰退し、イランも攻撃され、ウクライナでロシアの兵力が消耗し、その結果、ロシアとヒズボラに守られていたアサド政権が見捨てられた状態になり、アルジュラニのHTSにいわば「無血革命」を可能にさせたということだ。 その結果、イラクやリビアでのような独裁者を倒す「暴力シーン」が回避されて、まるで無血の「平和の解放軍」のようなイメージを打ち出している。アフガニスタンの「タリバン」との差異化が見られる。
アルジャウラニは「ビジュアル」としても、世間の抱く「英雄」のイメージに合致している。アサド大統領は高身長でヨーロッパナイズされた紳士という外見だったが、彼と対峙してその座を奪うために充分有利な外見だ。今のようにあらゆるところで映像が氾濫する時代では見逃せないアドヴァンテージだといえる。(プーチン、ゼレンスキー、ネタニヤフらと比べても分かる。) ノートルダムの再開式に出席したトランプとマクロンとゼレンスキーがそろった公式写真は、マクロンが中央だったが、「見た目」がゼレンスキーからトランプへと背が高くなっていくバランスが気になった。 前にも政治におけるルッキズムについて書いたが、ノートルダムの再開式に出席したイーロン・マスクが他の出席者といるのを見て感じたことがある。 イーロン・マスクとフランスの(極右)国民連合のトップであるジョルダン・バルデラの「見た目」の共通点だ。2人とも、背が高く肩幅が広く自然な威圧を発しているが、目鼻立ちは整っているけれどこれという特徴がなく、あっさりしている。髭も伸ばしていない。清潔そうで無害な感じ。 トランプも大柄だがすっきりという感じではないし、目鼻立ちやヘアスタイルに癖がありすぎる。トルコのエルドアンも、高身長だが、「顔」のインパクトが目立つ。習近平の体格とプーさん風の表情のミスマッチは有利に働いている。20年以上獄中にあるクルドのオジャランは「信頼できる強い父」のイメージだった。
表立っては誰も口にしない政治家のルッキズムだが、「食べるための狩りをしなくても、大きくて強くて、同種のライバルを倒せれば君臨できる雄ライオン」と同じで、原始的な生存競争のベースにそれが刷り込まれているというのは想像に難くない。
もちろん、「母」が君臨する母系社会も少数だが存在する。すべての人間にとって、生まれて生きること、自分を最初に養ってくれるのは「母」のイメージだから、大地母神や、世界や他の神や人間などを産む「母神」というのは「雄ライオン」とは別の絶対権威になる。 その系譜にあるのが「聖母子」「聖母子像」で、ノートルダムへの根強い崇敬でもある。(それをいうなら、磔刑像やピエタ像のイエスを神の子とするキリスト教は、あらゆる独裁者と対極にある存在だ) ルッキズムの話は別として、シリアの事件の後、私が真っ先に訪れたのはもちろん藤永茂さんのブログだ。 ここにリンクしておく。
by mariastella
| 2024-12-11 00:05
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