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L'art de croire             竹下節子ブログ

広重の青

日本を発つ前日、今回初めて、自分だけのための行動をした。
歩いて数分で行ける太田記念美術館の「広重の青」展を観に行ったのだ。

仲間のHはすでに観ていて、「広重のプルシアン・ブルーの秘密がすべてわかった」と興奮したように言っていた。

広重の青_c0175451_01531839.jpg
なるほど、浮世絵で使われてきた、植物系の「つゆ草」や渋い「本藍」は、鮮やかな青の濃淡を表現できず、時と共に色落ち、変色するので、海の色や空の色を描きたい風景画よりも人物画が主流だった。それが、18世紀初頭にベルリンの染料業者が偶然発見した化学合成染料の「ベロ藍」が1747年に輸入されてから、浮世絵を変えた。
青の濃淡が可能で、「ぼかし」も可能で、色落ちもしない。空の青、水の青の表現が可能になったのだ。カトリックの典礼色に「青」がなく、青という色概念もなかった。青は「空色」「水色」などと個別に呼ばれていたのだ。そんな青が「聖母マリア」のシンボルカラーになったのは不思議なくらいだ。
「青は藍より出でて藍より青し」というけれど浮世絵で色あせてしまうのなら意味がない。
18世紀半ばまで色彩風景画が発展しなかったとは…。
中国や日本は文字が毛筆だから絵もそのまま墨絵が発展した。文字が硬筆で「画家」は別のジャンルだった「西洋」とは「色」の使い方も違ったとは理解できるけれど、「青」がそこまでハンディになっていたとは。

で、あらためて、風景画の空と水の青の使い方を見てみると…。
ぼかし方などもうまいけれど、そもそも広重って「構図」の天才だなあ、と感心する。カタログの表紙の絵もそうだけれど、橋と橋桁、船、遠景の山、街並み、月、配置の凝縮力がすごい。 

下の絵も「すべて」を配した形と色、白抜きにした部分の妙、赤の使い方、ベロ藍の陰影あってこそのものとはいえ、「すべてを描く」技量に戦慄せざるを得ない。
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縦長の「屏風絵」のような構図でも、橋桁から見事にすべてが見えている。それを可能にしたのも「ベロ藍」プルシアン・ブルーを駆使できたからなのだ。
広重の青_c0175451_01562369.jpg
ぎりぎりに足を運んだ展示会だが、刺激的だった。
(同じく徒歩圏内の根津美術館は今や入館に予約が必要なのだそうだ。)

この日は土曜日。
相変わらずどこもすごい人出だが、比較的空いているレストランで食事した。
今回は焼き肉を食べる機会がなかったから。穴場というのはあるものだ。
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そういえば、このブログには載せなかったけれど、春にオープンした「ハラカド」のフードコートの台湾料理は二度食べた。仲間たちとは上の階で飲み物を飲んでテラスにも出てみた。23時までやっているので便利だ。下はテラスから撮った夜景。
広重の青_c0175451_06112614.jpeg
これから先、もし彼らが観光で日本に来る時があるなら途中で合流することはあるかもしれないけれど、もう今回のような旅は共有しないだろう。
Mがクレタ島に持っているアパルトマンにはHもバカンスで滞在しているし、ふたりはドイツ旅行もしているけれど、「旅のための旅」をこれから先彼らと体験するとは思えない。
ともあれ、2003年以来、彼らと5回も日本に来ることになった。
私たちの友情を音楽の形で日本の同胞に伝えることが出来たのは奇跡のような幸運だった。

(11/15、日本から戻った後はじめての練習をした。2月のコンサートに入れるラモーを4曲くらいさらった。ラモーは本当に、異次元から語りかけてくるようなアクロバティックな繊細さを繰り出してくる。異世界の得体のしれない生き物のように形を変えながら蠢いているのが同時に緻密で完全に整合性のある動きだというのが驚きだ。私たちの旅と冒険は続く。)


by mariastella | 2024-12-02 00:05 | アート
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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