ノートルダム・ド・パリの再開の政治的背景
昨日の記事の「追記」に続いて、12/8はノートルダム・ド・パリの修復後最初のミサの中継を見た。
それについての各種の解説も視聴した。 2019年4/15の火災のすぐ後に「5年後」に再開、というマクロンの「計算」は、絶対にはパリ五輪を意識した計算だと私は思ったけれど、それは聞いたことがない。 なんだか、マクロンの「5年」は聖霊に鼓舞されたかのようなニュアンスで、その「期限」があったからこそ、フランスの中世から伝わるあらゆる技術が結集されて、駆使されて、「奇跡」が成し遂げられたかのようだ。 でも私は、パリ五輪に合わせて修復したノートルダムの再開を狙ったのだと思っているし、それが無理だと分かったけれど、12月の「無原罪受胎」(聖母の祝日のひとつ)がたまたま日曜日に当たる12/8に合わせたセレモニーでまるでパリのオリパラの閉会セレモニーのように演出したのだと思う。 それを裏付けるのが、火災以前からノートルダムの周りの発掘に関わっていた考古学者の意見だ。火災の後、周りすべてが立ち入り禁止になったのは分かるとして、ひとたび、焼け残った部分の韜晦のリスクがなくなった時点で、発掘調査を再開していれば、貴重な成果が上がったはずだという。 6ヶ月あれば、それが達成できた。言い換えれば、考古学者の眼から見れば、5年が5年半になったのだから、後半年くらい、中世よりもさせに遡る研究の重要性に比べれば「遅れ」とすら言えない。 でも、今は、「修復」「再生」のために、すべての発掘がもう不可能になったという。考古学者の悔しさは伝わるし、確かに、歴史学的、考古学的な貴重な手掛かりが見つかりかけていたのに、「5年」と言うリミットを政治的に利用するために2024年の再開を政治的に押しつけたのは、学問的には取り返しのつかないことだった。 たとえば、ランスのカテドラルでは発掘調査が続いていて、なんと、クロービスが「洗礼」を受けた洗礼盤「?」が最近発掘されている。まさに「ヨーロッパ」誕生の歴史的な場所だ。 もう一つ、マクロンがローマ教皇を招待したのに断られた?(しかも1週間後にフランス一小さなコルシカのカテドラルには赴く)ことで、フランシスコ教皇の「辺境好き」だとか、ピウス七世を辱めたナポレオンへの面当てだとかいろいろ言われていたけれど、パリ大司教の祭壇の聖別やらミサ(彼はノートルダム閉鎖中に就任しているから、これがはじめてのカテドラルでのミサとなる)を見ていて、なるほどと思った。 マクロンは国の首長としてバチカン市国の首長を招くことで、ある意味で、パリの大司教の頭ごしにバチカンと直接並ぶイメージを見せたかったのかもしれない。 でも、もし、フランシスコ教皇が招待を受けていたとしたら、教皇を一オブサーバーとして扱うことができただろうか。火災でやけた木材を使って新しく創られた司教杖でパリ大司教がカテドラルの扉を3度ずつ3回叩くことで扉が開き、大オルガンと「対話」して促したり、新しい司教座や説教壇を祝別したり祭壇に五人の聖人の聖遺物を入れて聖油を塗ったりというシンボリックなことを、パリ大司教が、パリの104の小教区司祭やフランスの150人の司教らの前で同じような権威を持って遂行できただろうか。 動きが不自由になっているフランシスコ教皇が大司教に変わって司式したとは思えないけれど、カトリック教会のヒエラルキーと、ガリア教会の歴史との関係も含めて、「政治的」思惑が飛び交ったに違いない。 その意味では、「開会」のセレモニーに欠席したことは、フランシスコ教皇の、すぐれて政治的、外交的な選択だったと言えるだろう。(枢機卿任命とかローマでの「無原罪受胎」のミサなど、フランシスコ教皇が辞退するもっともらしい理由も挙げられる。) もちろんバチカン大使は教皇のメッセージを読み上げた。 マクロンのそばにはトランプ次期メリカ大統領が座った。 マクロンにとって、教皇欠席を補ってあまりある効果だ。(カトリックのバイデン夫人と娘さんの様子は印象的だった) 開会セレモニーでは、スキャンダラスな夫婦関係を公的にさらしてきたサルコジ夫妻やオランド夫妻の姿も久しぶりに映された。 イーロン・マスクまで出席していた。 ゼレンスキーが入って来た時には拍手が沸き起こった。 ノートルダムの鐘が「ファ」のシャープでなり渡った。 シリアではアサド大統領政権が崩壊した。 (余談 : ノートルダムの「建物」の所有者は国だ。だから本来は修復も国が担当するのが筋だ。けれども、累積赤字で政治危機にある政府の金はまったく使われていない。つまり税金は投入されていない。すべてが世界中からの寄付金で賄われた。フランス国内での寄付金に伴う減税処置も適用されない。パリ五輪のスポンサー企業などはもちろん多くの寄付金を出してカテドラル内の銘版に刻まれている。) 新しい祭壇などの用品はもともと教会が賄うもので、デザインは大司教の一存で決まったという。寄付金の大口はアメリカが「ノートルダムの友」として組織したところからの6500万€だった。まだ寄付金は余っていて、それは、火災前から補修中だった外壁補修にまわされるそうで、2028年に終了予定だという。)
by mariastella
| 2024-12-09 00:10
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