恐竜・古生物の表象についての本から
筆者は、古生物の表象(例えば博物館の展示やSF映画とか)についての在野研究者らしい。本業としては、環境化学者だったらしいけど、古生物学の学位も持っているっぽい。歴史学や文化論などについてはたぶん専門教育は受けていなくて、古生物の表象研究はファンジンなどで発表していたようだが、このテーマの著作が多い。南谷奉良「洞窟のなかの幻想の怪物―初期恐竜・古生物文学の形式と諸特徴」東雅夫・下楠昌哉編『幻想と怪奇の英文学4』 - logical cypher scape2でも、この人の著作が参考文献に挙げられていた。
で、まあちょっと買ったまま積んでいたのだけど、最近目次を眺めていたら、第8章がRex Battlesという気になるタイトルだったので、とりあえず8章だけ読んでみようかなと思って読み始めた。
今年の上半期に、20世紀初頭の欧米文化史みたいなものを追いかけていたけれど、ティラノサウルス・レックスはまさに20世紀初めに発見された恐竜であり、また、明らかに文化的にも重要なポジションを占めるようになった存在なので、とりあえずこの章だけ読んでみることにした。
ティラノサウルス・レックスの復元(博物館での展示など)や、小説・映画など大衆文化での描かれかたを追っていく。
20世紀を、「獰猛なレックス(Savage Rex)の時代」「王者たるレックス(Loadly Rex)の時代」「ルネサンス・レックス(Renaissance Rex)の時代」の3つの時代に分けて紹介している。
また、タイトルにあるレックス・バトルだが、ティラノサウルスは何か他の恐竜と戦っているところを描かれることが多く、特に、その相手はトリケラトプスが多い(というか、本書の見立てでは、レックスvsトリケラトプスの表象がまずあって、それがエピゴーネンを産み、他の恐竜に置き換わったバリエーションも出てきた、という整理になっている)。
というわけで、本章では、トリケラトプスについてもある程度ページが割かれている。
- t-rex発見史・初期の展示など
コープによるマノスポンディルスの発見*1から始まり、ブラウンの発見とオズボーンによるティラノサウルス命名など
オズボーンは、博物館での展示にあたり3つのテーマを提案していて、そのうちの一つに、レックスvsトリケラトプスがある。
1909年、2体のティラノサウルスがトラコドンの死体をめぐって睨みあう復元
これは、パレオアーティストのアーウィン・クリストマンErwin S. Christmanによる。
1915年、オズボーンやマシューが、トリケラトプスとティラノサウルス類が戦っていたのでは、と結びつける
1915年、オズボーンがサイエンティフィック・アメリカン誌の記事を書き、カバーを、Vincent Lynchによる、ティノサウルスがカモノハシ竜の死体の上で争うイラストが飾る
- チャールズ・ナイト
1866年にコープが発見した獣脚類ライラプス(今はドリプトサウルスとされている)を、チャールズ・ナイトが描く
1906年、ナイトは、ティラノサウルスがトリケラトプスの前に立っているところを描く
ティラノサウルスは、ナイトにとってお気に入りでよく描く主題の一つで、いろいろなポーズで描いた
ライラプスのように、ティラノサウルス同士が取っ組み合うものもあるが、最も有名で影響を与えたのは、1920年代後半にシカゴのフィールド自然史博物館のために描かれた生命の歴史の壁画で、ティラノサウルスとトリケラトプスが戦っているところ
- レックスイメージの3つの時代
Savage Rex(1902~1942)
Loadly Rex(1947~1975)
Renaissance Rex
- 獰猛なレックス(Savage Rex)の時代
1920年代・1930年代は、ナイトにインスパイアされたティラノサウルス像が席巻し、ティラノサウルスvsトリケラトプスがポピュラーな語彙となる。特に、1933年のシカゴ万博によって
シカゴ万博では、シンクレアが出した恐竜ブックレットに、ジェームズ・アレンのアートワークが、
百万年前の世界という展示では、H.G.アルボのイラストによるブックレットが、それぞれあった。
いずれも、ナイト・インスパイアのティラノサウルスvsトリケラトプスが載っている。
シンクレア恐竜館では、ブラウンが援助し、P.G.アレンによってデザインされた恐竜の像があり、その中にティラノサウルスvsトリケラトプスがあった。サイズもさることながら、モーターで頭部が動く仕掛けがあった。
これはテキサス博でも再度展示されたらしい
Messmore & Damon社の「百万年前の世界」では、恐竜のおもちゃも。アンドリュース監修
1936年、公共事業促進局 no.960において、Emmett A.Sullivanによる恐竜像
1930年代、John Kanervaらによるカルガリー動物園のための古生物像
1941年”Animals of Yesterday”
1940年代、ティラノサウルスvsトリケラトプスはクリシェとなり、ほかの種と置き換えられたりする。
シカゴ万博とシンクレア石油については、全然知らなかったのでいくつかググったりしたのだが、それについては世紀転換期・戦間期読書まとめ - logical cypher scape2の終盤にメモっておいた。
- 映画
“The Ghost of Slumber Mountain”(1919)
15分のサイレント映画、ウィリス・オブライエンによるストップモーションアニメーションで、トリケラトプスとアロサウルス
ティラノサウルスが初めて出てくるのは1923年の以下の2つの作品
“Monsters of the Past”
Virginia Mayによるクレイ・ティラノサウルス
”Evolution”
こちらはイグアノドンが誤ってティラノサウルとされている、らしい
コナン・ドイルの『ロストワールド』(1912)にはティラノサウルスは出てこないが、1925年の映画版では、オブライエンとMarcel Delgadoによるアニメーションで、ティラノサウルスとアガダウマスが戦っている。
キングコング(1933)
ハリーハウゼン "Evolution"
ディズニーのファンタジア
紀元前百万年 スーツ特撮
- 小説
例として3作品あげられている
Edgar Rice Burrough “Out of Time’s Abyss”(1918)
Kenneth Robeson “The Land of Terror”(1933)
Delos W, Lovelace “King Kong”(1933)
19世紀に恐竜をカンガルーのようにイメージするポピュラーなパラダイムがあって、飛び跳ねるところが描かれている
『キングコング』の挿絵が掲載されているのだが、キングコングに対して、飛びかかって襲いかかるティラノサウルスが描かれている(ナイトの描いたドリプトサウルスっぽい)
- トリケラトプスについて
オズボーンは定向進化の考えから、ティラノサウルスとトリケラトプスを恐竜の進化の頂点と考えていた
1889年に記載され、1892年に、ジョセフ・スミットが初めて生体復元を描いているが、骨格の組立はなされていなかった
初期の骨格の組み立ては、1898年のパリ万博
その後、1901年のパンアメリカン万博、1904年のセントルイス万博、1910年代には、ハンブルグのハーゲンベック動物公園のトリケラトプス像、アメリカ自然史博物館の頭部を復元した彫像など
角竜ではアガタウマス、プロトケラトプスも人気だったけれど、トリケラトプスにはかなわなかった
映画『ロストワールド』では、アガタウマスとトリケラトプスがともに出てきている。アガタウマスは、ナイトによるイラストもあったけど、化石が少なくて、メインストリームからフェードアウトしていく(現在は疑問名となっている)
トリケラトプスは、『ロストワールド』のほか”The Ghost of Slumber Mountain”など初期の恐竜映画にもよく出ている
また、映像化されなかったが『キングコング』の原作小説にも登場し、コングと戦っている
Edgar Rice Burrough『恐怖王ターザン』にも登場
1950年代から60年代にかけて、世界的に見てもティラノサウルスはその地位を確立
1947年には、ザリンガーの「爬虫類の時代」完成
ゴルゴサウルスとタルボサウルス
スカベンジャー説
→前屈みのゴルゴサウルス復元
→1970年、Newmanによる前屈みしっぽを伸ばしたティラノサウルスの復元
2本の映画
”The Land Unknown”(1957)
“The Last Dinosaur”(1977)
後者は、円谷プロが製作した日米合作映画でスーツ特撮による(ために、70年代とすでに恐竜ルネサンス期だけれど、直立のティラノサウルスだ、という話をしているっぽいんだけど、ちゃんと読めてないかも)
1970年代、恐竜温血説
リチャード・ラッシュスタジオによるティラノサウルスは水平姿勢
さらにEly Kishとグレゴリー・ポールによる復元がポピュラーな古生物学の本や雑誌で広まる
温血で俊敏なティラノサウルスのイメージは小説家たちの想像をかきたてる
1984年のホラー小説”Carnosaur”
そして、1990年の『ジュラシック・パーク』
やはり、このあたりはバッカーとポールの名前が頻出
そして、ジュラシック・パーク三部作の重要性