fc2ブログ
| Login |
2018/06/02
1週前にパリで起こったこと。フランス人たちの目を釘づけにした動画がありました。

マンションの外壁をよじ登るという画面は、映画では見たことがあるような気がします。でも、本当にやった人がいたのです。

ベランダの手すりに釣り下がっていた4歳の男の子を助けるため、22歳の青年がよじ登ったのでした。


Paris hero climbs four-storey building to rescue dangling child

始めに入れた動画は消されてしまったので、別のを入れました。

念のために、この出来事を報道するテレビのニュース番組も:
☆ YouTube: Mamadou Gassama : l'incroyable scène du sauvetage d'un enfant

動画が著作権の問題で消されても、スパイダーマンとして有名になった彼の名前(Mamoudou Gassama)で検索すれば動画が出てくるはずです。


ヒーローになったのは、不法滞在のアフリカ難民だった

この「事件」が起きたのは、5月26日午後8時ごろ。マンション5階のバルコニーの外側、男の子が手すりに必死にしがみついていました。

消防隊はまだ来ない。勇敢にも、一人の男性がよじ登っていったのでした。道路には、それを見上げている人たちがいたので、このビデオ撮影ができたわけです。

上の階に飛びついたりして、人間とは思えないほどのスピードでした。子どもが釣る下がっていた5階まで、30秒くらいで行きついてしまったのです!

このスパイダーマンは、西アフリカ・マリ出身のマムドゥ・ガサマさん(22歳)。今までロッククライミングなどはしたことがなかったそうです。背が高いし、頑丈そうな体格なので出来てしまったのでしょうね。

彼は、数年もかけてフランスにやって来た難民でした。到着してから、まだ数カ月。粗末な難民収容センターで暮らしていましたが、滞在許可証をもらっていませんでした。

でも、フランスのヒーローとして騒がれたので、事情は急変。マクロン大統領はエリゼ宮に彼を招き、フランス国籍を与え、パリの消防署に就職できる便宜をはかると約束しました。すでに消防局のインターンシップを開始しているようです。


信じられない話しも...

パリのスパイダーマンの話題がテレビを賑わしている間に、驚くニュースも出てきました。

5階の手すりにぶら下がっていた子どもは、7階のアパルとマンにパパと住んでいたらしいのです。つまり、この男の子は7階の自宅から落ちて、5階の手すりにしがみついて命拾いしていたというわけ?!

救出されたときには、足の指を怪我していて、爪も剥けていたそうので、ただ5階のベランダで手すりによじ登って向こう側に出てしまった、というわけではなさそう。

救出劇に映っていた隣人がインタビューに応じています。救出した子どもに「どこに住んでいるの?」と聞いたら、上を指さしたので、どの部屋かは分からないけれど、上の階に住んでいるのだろうと思ったそうです。


Enfant suspendu à un balcon : comment cela a-t-il pu se produire ?

もしも、子どもが7階から転落して5階に留まったところをビデオに撮った人がいたら、この出来事はもっと大きく騒がれたでしょうね。ありえへんことが2つもあったわけですから!


ポケモンGOで遊んでいた?!

もう1つは、疑いのない事実のようです。

男の子の両親はフランスの海外県レユニオン島出身でした。息子が危うく命を落とそうとしたとき、母親はレユニオン島にいて不在でした。子どもの面倒をみていた父親は37歳。

当日の父親は、買い物に出ていたのですが、その帰り道でポケモンGOをしていたので少し帰りが遅くなったのだそう。

Pokémon Go 

子どもが手すりにぶら下がっているのが発見されたのは、午後8時頃。今頃のフランスではまだ暗くなってはいませんが、そんな時間に幼児を家に一人で残して外出しただけでも問題だったでしょうに、さっさとは帰宅せず、ポケモンGOなんかで遊んでいるのは不謹慎ですよ~。

そうなると、父親としては失格で、罪を問われるかもしれないな...。

父親が取り調べを受けていた間、一人になってしまった男の子は、施設で保護されていましたが、月曜日(28日)に親子は自宅に戻りました。その日には、母親の方もレユニオン島から駆けつけています。

でも、父親は9月に裁判にかけらえるようです。子どもの監督義務を怠ったとされると、2年以下の禁錮、3万ユーロ以下の罰金を科せられる可能性があるのとのこと。

フランスの法律で、子どもからは何歳までは親が目を離してはいけないかという決まりはないそうですが、常識的には思春期くらいまでのようです。4歳半の子だったら、何の異論もなく、親が監督しているべき年齢でしょうね。


怖いことをしたと実感するのは、事が済んでから

ガサマさんは、子どもを助けようと必死になっていて、マンションをよじ登ったら自分が死んでしまうかもしれないなどとは全く考えなかったそうです。無事に子どもを救いだしてから、足がわなわな震えてベランダにしゃがみこみ、口もろくに聞けなかったようでした。

動画を見ていると、隣の部屋から身を乗り出している男性が見えます。「なぜ助けなかったのか」と言いたくなりますよね。記者から聞かれて、手を出して子どもが転落してしまうのを恐れたし、下から猛烈な速さで上がってくる男性を待った、と答えていました。

私も、こんな風に小さな子がぶら下がっているのに出会ったことがありました。助けそこなったら責任重大だ、と私もビビりました。

駅ビルだったかな。スーパーがある1階から、エスカレーターで2階に行こうとしていた時、周囲に何か不穏な空気を感じたので振り返りました。すると、少し下のところで、遊稚園児くらいの女の子が泣いている。しかも、エスカレーターの外側から手すりにつかまって、引きずられるように上がってきている!

エスカレーターを逆に歩いて下り、その子がいるところまで行きました。でも、どうしよう?! 一瞬でしたが、迷いました。もうエスカレーターは中ほどまで来ているので、下を見下ろすとかなりの高さ。そこから落ちたら大けがをします。

私は痩せているし、腕の力もないので、女の子を引っ張り上げることができないかもしれない...。女の子が怖がって暴れたら、抑えていられないかもしれない。責任重大ですよ~!

エスカレーターの登り口には、一人の女性が立っていて、こちらを眺めています。母親なのかな?... エスカレーターを駆け上がって来て、一緒に女の子を引っ張ってくれたって良いのに! ぼ~っと見ていないで、誰か助けを呼んで来てくれたって良いのに!...

2階まで登りきったところには壁があるので、このまま行ったら、女の子はそこで引っかかって落ちてしまいそう。引き上げてみるしかない! 女の子が怖がらないように「大丈夫だからね~」とすかして、何とか引き上げました。

無事、成功! 女の子を抱いたまま、エスカレーターに座りこんでしまいました。2階についてからも、足の震えが止まりませんでぃた。

火がついたように泣いている女の子を抱きながら、私も大泣きしたい気分。気をとりなおしてから、彼女の母親を探しました。1階から来たのだから、母親は1階にいるはず。エスカレーターの登り口で待つこと、しばし。ようやく、女の子の母親が、お姉ちゃんらしい子どもを連れてスーパーから出てきました。

あそこを外側から登ってしまったのだ、と、まだ興奮がさめていない状態で説明しました。母親は、驚いた様子は全くないし、私に感謝するでもない。

スーパーなので、この親子はまた来るでしょうから、危険な場所に幼い子を一人にしたりしないで欲しい、と言いたかったのですが、母緒は平気な顔をしているので拍子抜けしてしまいました。

女の子に「よく頑張ったね。偉かったね~」と繰り返して、彼らと別れました。

外側に転落してしまうような作りのエスカレーターは、問題だと思います。あの子のような事故は他にもあるのではないかと探したら、私が救った女の子と全く同じ状態になった事故の動画が出てきました。


中国で相次ぐエスカレーター事故 また幼い命が……

こんな低い位置から落ちたのに、命を落としてしまったのですか。あの時は引っ張りきれない可能性はあったけれど、助けようして正解だったのだ...。


日本の無責任パパ

7歳の少年が、熊も出没する森の中に両親が放置した事件のときも、腹が立ちました。2年前の、偶然にも同じような時期でしたね。

森の中に置き去りに……子育てに悩む日本 | 大和君はどうやって生き延びたのか 行方不明の7日間 2016年06月3日

ポケモンGOなんかで遊んでいた父親は、まさか自分の子どもが、ベランダから向こう側に出てしまうなどとは思っていなかったでしょうから、親の義務を怠ったし、軽率だったと非難する程度。でも、この日本の親の場合は、危険があると分かっていながら置き去りにしたのだから、完全な犯罪行為だったと私は思います。

大和君は、運よく鍵があいていた自衛隊の小屋に入って、布団にくるまって水だけ飲んで6日間も生き延びてしまったのですから、すごい生命力。

それにしても、不可解な事件でした。どこまで本当で、どこまで嘘なのか分からない。大和君は手に負えない子だったかもしれません。でも、森の中に放置してしまうような荒療治をしたら、ますます心がすさんでしまうはず。大和君はどうなったのかな?...


フランス国籍を取得するには、人命救助をする?

マリから難民として逃げ延び、フランスに来ていたガサマ青年は、大統領と会い、勇敢な行為のご褒美として、消防署への就職を斡旋され、とりあえず滞在許可証をもらいました。秋にはフランス国籍が与えられることになっています。

フランスの友人は、こういうことで国籍を与える国だとは、フランスもそれほど捨てた国ではないということだ、などと肯定していました。

アメリカで外国人が国籍を取得したかったら、軍隊に入って、つまり命をかけたらもらえるという手段があるそうです。あからさまに命を懸けろと言うというシステムには恐ろしささえ感じますが、フランスの場合は、命をかけたなら、それなりの配慮はするというわけですから、まだマシだとは思う。

不法滞在なら、警察に捕まるのを恐れながら生活しなければならないので、難民にとって、国籍をもらえるのは嬉しいでしょうね。そうなると、今回のことで、今後はフランス国籍を獲得したい難民たちが、自分の命も顧みずに人助けをするようになってしまうのでは?

そう思ったのですが、すでに、フランスで人名を救助した難民たちはたくさんいたのでした。それも、1年に5人を超えているらしい。でも、お手柄を評価されて国籍をくれると言われても、長期滞在許可証さえもらえていない人もいるのでした。

今回の出来事で、マスコミはそんな人たちにインタビューしていました。人名救助で有名になった人たちを挙げてみます。

① マリからの難民 Lassana Bathily

2015年におきたシャルリー・エブド襲撃事件と関連があるとされたユダヤ食品店人質事件で、24歳の青年が人質を助け出しています。

パリのポルト・ド・ヴァンセンヌにある、ユダヤ教の食事規定に従った食品を専門に扱うスーパーが舞台。そこに勤めていた青年が、騒ぎがおきて逃げてきた人々を冷蔵室に隠し(従業員なので、ただちに電源は切った)、脱出に成功しています。

内務大臣に呼ばれ、事件から2週間もたたないうちにフランス国籍を取得していました。


② チュニジアからの難民 Nizar Hasnaoui

2015年、フランス南部でおこった洪水の時に、車の中に閉じ込められていた4人を救った青年(26歳)です。彼は自分が泳げないのに飛び込んで助け出しました。

今のところ、彼は1年の滞在許可証を毎年更新して暮らしていますが、不法滞在者では無くなったので、警察を恐れることもなく外出でき、堂々と働くことができるので満足している様子。


③ チュニジアからの難民 Mohssen Oukassi

2014年、パリ郊外のオーベルヴィリエ市。住んでいた集合住宅で火事があったとき、近所を回って火事を知らせた26歳の青年です。

2名の死者と4名の重傷者を出た火災だったのですが、12歳の男の子の放火だったようです。

県庁に呼ばれて、更新可能な1年の滞在許可証を与えられました。ところが、その後は順調にはいかない。彼も消防隊員になるようにと言われたのですが、滞在許可証に問題があって訓練を受けることさえできませんでした。

始めの3年間は1年の滞在許可証、4年目には10年の長期滞在許可証。そして、5年目にはフランス国籍が与えられるようにしよう、と行政機関から言われたのだそう。

ところが、未だに彼は3カ月毎に更新する滞在許可証しか持っていません。役所が、彼に関する書類を紛失してしまったらしいく、長期滞在許可証を取ろうとしても無駄。書類がどっかにいっちゃった、というのは不真面目ですが、フランスではありそうなことです!

この時の集合住宅には、幸いなことに工事中の足組ができていたので、火事だと知った人々は足組をつたって逃れることができました。ところが、この青年は近所に火事だと知らせ回っていたために、火傷をおい、両足の火傷で身体障碍者になってしまいました。

現在は、劣悪な環境のセンターで暮らしながら、生活費を稼ぐために2つの職業を持っているとのこと。命がけで頑張ったのに、お気の毒...。



Mamadou Gassama, le héros qui a sauvé un enfant suspendu à un balcon va être naturalisé français


スペクタクルの社会

命がけで人助けをした不法滞在の難民たちは、これで滞在許可証がもらえるのでは? などという後ろ心は無かっただろうと私は思います。今まで自分の命の危険にさらされるのを経験していたので、平穏な生活をしている人たちとは違った感覚を持っているはずだと思うのです。

昔の人間も、サプリメントなどを飲んで、少しでも長生きしようとなどはしなかったはず。ここで自分が行動すれば人助けができると自然に思えるのではないかと思います。

ここで上げた3人の行為に、誰にフランス国籍を与える価値があって、誰にその価値はないという判断はできないはずです。みんな、自分の命をかけて人命救助をしたのですから。

宙づりになった子どもを救ったガサマ青年は、大統領官邸にも呼ばれるという異例の待遇を受けたと言わざるを得ないと思います。同じように早期にフランス国籍を与えられたのは、ニュースで大騒ぎされたテロ事件で人質を助けた青年でした。

その二人に何の共通点があるかと言えば、世間で大騒ぎされたことではないでしょうか?

集合住宅の外壁をよじ登った動画はソーシャル・ネットワークで流され、世界中で有名になった。わぁ、すごい! と思わせる物的証拠です。もう一人、ただちにフランス国籍を与えられたのは、フランス中を震えあがらせたテロ事件で大騒ぎされた人質事件で人命救助をした青年でした。それ以外のヒーローは、一時的に騒がれるものの、熱が覚めれば忘れられてしまいます。

つまり、世間の注目を集めて、ヒーローだと騒ぐ大衆が大勢いると、政治家も動く、という図式ではないでしょうか?

ギー・ドゥボール(Guy Debord)の著書に『スペクタクルの社会(La société du spectacle)』があります。題名だけで何を言いたいのか想像できるので、とても良い命名だと思っています。

  

内容(「BOOK」データベースより)
「フィルムはない。映画は死んだ」と言ってのけるドゥボールにかかっては、あのゴダールさえ小市民的に見えてしまう。芸術に限らず、思想も政治も経済も、「専門家」に任せきりで、鷹揚にお手並拝見と構えているうちに、いやおうなく「観客」であるしかないどころか、大仕掛けな茶番劇のエキストラに動員されてしまいかねない。こんな世界のありようと疎外感の大元を、本書は徹底的に腑分けしてくれる。ほんとうに「何一つ欠けるところのない本」だ。マルクスの転用から始まるこの本は今日、依然として一個のスキャンダル、飽くなき異義申立てと「状況の構築」のための道具であり、武器であることをやめていない。


現代は見世物の社会だという表現が気に入っているくせに、私はその本を読んでいません。どんなストーリーなのか知りたいとは思っていました。

書籍が出版されたのは1967年でしたが、1973年には映画化されています。その映画の全編らしきものがYouTubeに入っていました。1時間半もの長さがあるので、後で眺めることにして、リンクを入れておきます:
La Société du spectacle (1973) - Guy Debord [MultiSub]
画面で操作すると、英語などの字幕を出すことができます。

外部リンク:
「スパイダーマン」に幼児の家族が感謝、まずは滞在許可証付与 仏
パリで子供を救出した「スパイダーマン」はアフリカ移民だった(動画)
パリの「スパイダーマン」が救助した少年の父、ポケモンGOで帰宅が遅れていた
Mamoudou Gassama: l'enfant était en fait tombé du 6e étage
Mamoudou Gassama : l'enfant qu'il a sauvé était déjà tombé d'un étage
Le conte de fées de Mamoudou Gassama cache mal la répression des migrants en France
Que sont devenus ces autres «héros» sans-papiers que la France a récompensés ? 30/05/2018
Lassana Bathily, héros de la prise d'otages porte de Vincennes, a été naturalisé français 20/01/2015
VIDEO. Un sans-papiers tunisien héros de l'incendie d'Aubervilliers 12/06/2014
Ma vie a carrément changé, témoigne Nizar Hasnaoui, autre héros sans-papiers 29/05/2018
フランス国籍はどんな場合取得できるか?子供を救った不法滞在の男性マリ人の場合などまとめました
スペクタクルの社会
☆ 現代美術用語辞典: 『スペクタクルの社会』ギー・ドゥボール



にほんブログ村


コメント
この記事へのコメント
日本でも、ニュース見ましたよ!

早送りのように、あっという間でしたね!

スポーツクライミングで、オリンピックに出場したら金メダル??と思いました。(笑)

ガサマさんに、幸運を!
2018/06/04 | URL | フィルナリーナ  [ 編集 ]
Re:
v-22 フィルナリーナさんへ

本当に。早送りの感じでしたよね。

フランスには、素手でビルなどをよじ登っていく達人がいました。日本でも挑戦したけれど、途中で不法だとして逮捕されたと記憶しています。ガサマさんは、そういう特技はない人なのでした。

調べたら、泳げないくせに飛び込んで、人命救助した人もでてきました。「火事場の馬鹿力」というのなのでしょうね。純粋な気持ちから行動をおこした人に恩恵を与えるのは良いことだと思います。
2018/06/06 | URL | Otium  [ 編集 ]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する