第1回 そもそも「宇宙生物学」って何ですか?
最近、宇宙生物学(アストロバイオロジー)という研究ジャンルをよく耳にするようになった。
字面を素直に解釈するならば、「宇宙の生物を研究する」学問ということになる。
とすると、「宇宙人の研究?」という連想も成り立つだろうし、実はNASAは極秘裏に宇宙生命体との接触に成功しているが秘密にしている、というような謀略論、陰謀論にもつながりうる。
そこまでいかずとも、どこかSFめいた、浮世離れした研究であると思われがちだ。
しかし、現実にはすでに20年以上の歴史がある研究分野だ。1995年、当時のNASA長官ダニエル・ゴールディンが、カリフォルニア州のエイムズ研究センターにて記者会見を行い、これからは"Astrobiology"という言葉を公式に使うと宣言したとされる。エイムズ研究センターは、その拠点に指定された。その後、「宇宙生物学」は着実に存在感を増し、今では国際学会も頻繁に行われている。そこには、宇宙物理学、天文学、鉱物学、海洋学、化学、生物学、情報学など、一見、方向が違う専門分野から、さまざまな研究者が集って、「宇宙と生命」という究極の問いに挑んでいる。
対応する動きは日本国内でもあって、2015年には東京都三鷹市の国立天文台の敷地内に、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターが開設された。初代センター長は本連載でも登場いただいた田村元秀さんだ。田村さんは、ハワイ島のすばる望遠鏡を使って太陽系外の惑星を探し、その中に生命が存在しうる、つまり「ハビタブル」な惑星も見いだせることを教えてくれた。これはまさに、宇宙生物学的な研究だったのである。
また、2012年には、東京工業大学が地球生命研究所(ELSI)を設けて、地球生命の起源を解明し、さらには宇宙における生命の存在を探索する「生命惑星学」という分野を確立しようと目標を掲げた。これもまた宇宙生物学と共通の関心を持っているのは明らかだ。
そこで今回は、後者の地球生命研究所(ELSI)を訪ね、「地球生命の起源」と「宇宙の生命」にかかわる宇宙生物学の話を中心に知見を深めたい。