2019年、エディット・ペルティエ、セバスチャン・ペルティエ夫妻の生活は一変した。4人いる子どもたちのうちの3人が、失明に至る場合もある希少で元に戻らない目の病気を患っていることがわかったのだ。
来たるべき日に備えられるよう、夫妻は子どもたちに、目が見えなくとも自立して生きていくためのスキルを教え始めた。そして、病状が進行する前に「視覚的な記憶を美しいもので満たす」ために、子どもたちを世界を巡る旅に連れ出した。その旅を記録したナショナル ジオグラフィック(TV)の新作ドキュメンタリー「ブリンク~美しき世界の記憶を」は、12月20日と23日に放送される。
ペルティエ家の子どもたちが患っている病気は「網膜色素変性症」という。治療法は確立されていない。米国では約4000人に1人がかかっており、60歳未満の視覚障害および失明の主な原因となっている。日本眼科学会によれば、日本では人口10万人に対し18.7人と推定される(約5350人に1人の割合)。国の指定難病の一つだ。
この病気はさまざまな面で家族に影響を及ぼすが、「病気が深刻であることに加えて、治療法が存在しないという事実が患者をつらい状況に追い込みます」と、米カリフォルニア大学アーバイン校の眼科医で幹細胞・網膜再生プログラムのディレクターであるヘンリー・クラッセン氏は言う。氏は、この病気の治療法を見つけることを目的とした複数の臨床試験を実施している。
網膜色素変性症とはどんな病気なのか、その原因は何か、また予防や治療の可能性について、以下にまとめた。(参考記事:「色覚はなぜ、どのように進化してきたのか」)
網膜色素変性症とは何か
網膜色素変性症は1つの病気だと考える人が多いが、実際には希少な目の疾患群のことを指し、いずれも目の奥で光を感知する組織の層である網膜に影響を与える。
この組織の層は光受容体と呼ばれる細胞で構成されており、われわれが見るものすべてをつかさどる。
「目に入ってくる光を集め、それを脳に送り届けて視覚を形成するうえで鍵となるのが光受容体です」と、米ジョンズ・ホプキンス大学医学部ウィルマー眼科研究所の眼科講師であるローラ・ディ・メリオ氏は言う。光受容体には桿体(かんたい)細胞と錐体(すいたい)細胞の2種類があると氏は説明する。桿体細胞は夜間の視力と周辺視野を支え、錐体細胞は中心視野と色覚を助ける。
網膜色素変性症を発症すると、通常は最初に桿体細胞が冒されるため、初期症状として夜間に物が見えにくくなる。もう一つの兆候は、自分の横にある物にぶつかるようになることだ。これは周辺視野が失われるために起こる。錐体細胞の変性が始まると、色覚異常が現れ、最終的には視力を失う場合も少なくない。
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