協定世界時2022年10月9日の午後1時17分(日本時間午後10時17分)、フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡の検出器にガンマ線の波がどっと押し寄せた。
のちに「BOAT(the brightest of all time、史上最も明るい)」、正式には「GRB 221009A」と呼ばれることになるガンマ線バーストが検出された瞬間だったが、米航空宇宙局(NASA)の通信衛星の不具合により、研究者はすぐに気づかなかった。
その約1時間後、別のガンマ線バースト観測衛星ニール・ゲーレルス・スウィフトが、空の同じ場所で明るいX線の残光(アフターグロー)を検出し、天体物理学コミュニティーにこの発見について通知した。
通知を受け取ったフェルミ望遠鏡チームのメンバーであるイタリア、バーリ工科大学のエリザベッタ・ビッサルディ氏がフェルミ望遠鏡のデータを調べると、最初の爆発を捉えていたことが分かった。氏はチームの仲間に電話をかけ、ただちに爆発のエネルギーの分析に着手した。
フェルミ望遠鏡とスウィフト衛星のチームはその日の真夜中過ぎまで協力して作業にあたり、この前例のないシグナルが非常に明るいガンマ線バーストに由来していることを確認した。翌朝には、ほかの研究者たちも観測の準備を始めた。
この爆発はあまりにも明るく、フェルミ望遠鏡もスウィフト衛星も検出器の測定上限を超えてしまっていた。しかし中国のGECAM-C宇宙望遠鏡はそうならず、最初のガンマ線爆発のエネルギーを測定することができた。
「これまでに観察された中では最も明るく、70倍近くも更新しました」と、フェルミ望遠鏡チームのメンバーである米ルイジアナ州立大学の天体物理学者エリック・バーンズ氏は言う。その極端な明るさは、今回のガンマ線バーストが地球から約20億光年と比較的近い場所で発生していたことと、爆発そのものが非常に明るかったことによる。
爆発と残光
宇宙で最も激しい高エネルギー爆発現象であるガンマ線バーストが最初に発見されてから55年、天文学者たちは発生源についての理解を徐々に深めてきた。
今回のBOATのような極端に明るい高エネルギーのバーストは、大きな質量をもつ星が崩壊してブラックホールになるときに発生する。その際、未知のプロセスによって、高速の粒子と光のジェットが正反対の2方向に噴き出すことがある。これらのジェットがたまたま地球の方を向くと、ガンマ線が観測されるのだ。
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