魚から鳥や哺乳類にいたるまで、脊椎動物の何億年にもわたる進化の歴史において、最も重要な出来事は「顎(あご)」の進化だ。
今や脊椎動物の99.8%が顎をもち、発声から食物の咀嚼まで幅広い機能を担っている。脊椎動物の中で、顎をもたずに現代まで生きてきたものは、ヤツメウナギやヌタウナギなど、ごく少数しかいない。(参考記事:「【動画】深海魚のヌタウナギ、驚異の7つの異能力」)
顎をもつ脊椎動物は過去4億5000万年の間に地球のすみずみに広がってきたが、これまで、この進化の物語には最初の数ページが欠けていた。顎をもつ魚、顎口類(がっこうるい)の進化の直接的な証拠となる化石が見つかっていなかったのだ。
しかしこのほどついに、中国西部で、物語の初期の登場人物である顎口類のすばらしい化石が見つかった。2022年9月28日付けで学術誌「ネイチャー」に掲載された4本の論文で、中国の古生物学者と海外の共同研究者からなるチームは、最古の顎口類の化石が保存されていた場所について報告している。この魚たちが生きていた年代は4億3900万年前から4億3600万年前までの間で、水中で暮らしていた動物が陸上に進出する時期の数千万年前である。
発見のきっかけは道路工事
現存する脊椎動物のDNAの研究から、脊椎動物の最も古い系統は4億5000万年前頃までに枝分かれしたと考えられている。これらの最古の系統は、太古の海に生息していた顎のない脊椎動物(無顎類)を生み出した。その後の枝から顎口類が生じ、これが硬骨魚類と軟骨魚類へと分岐した。硬骨魚類の一部は、のちに海から出て、両生類、爬虫類、鳥類、ヒトを含む哺乳類へと進化した。軟骨魚類には今日のサメやエイも含まれている。
理論的にはここまで解明されているのだが、問題は、裏付けとなる化石記録がないことだった。シルル紀(4億4380万年前〜4億1920万年前)に顎口類が生息していたことを示唆するウロコなどの化石は見つかっているものの、完全な骨格は見つかっていなかったため、古生物学者が初期の顎口類の生活や解剖学的特徴を推測することはほとんど不可能だった。(参考記事:「脊椎動物の強力な武器「顎」はどのように誕生したのか」)
そんな状況を一変させたのが、中国で見つかった貴重な化石の数々だった。化石の多くは、重慶の険しい山々に最近切り開かれたばかりの道路脇で見つかった。2019年にチームを結成した古生物学者の朱敏氏らは、ヘアピンカーブが続く道路脇に露出した岩の中から小さな魚の化石を見つけた。これが、2021年6月18日付けの学術誌「Current Biology」に報告された初期の甲冑魚(かっちゅうぎょ)ビアンケンギクティス(Bianchengichthus)の化石だった。
2020年には、この付近のさらに古い岩石層の調査が始まり、驚くほど多様な化石が見つかった。
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