2020年12月6日、オーストラリアの砂漠で、小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰ったカプセルが回収された。中には小惑星「リュウグウ」の岩石や塵が入っている。炭素が豊富なリュウグウには、生命の原材料があるのではと考えられている。
試料が汚染されないよう、カプセルは8日に早速、宇宙航空研究開発機構(JAXA)相模原キャンパス内にある地球外試料キュレーションセンターへ運ばれた。そこは、宇宙から持ち帰った物質が地球の有機物で汚染されないように守るための研究施設だ。
これまでの宇宙探査では主に、地球由来の物質が太陽系を汚染しないことに重点が置かれてきた。そのため、宇宙船を消毒し、宇宙飛行士に厳しい検疫を課してきた。しかし現在、科学者たちは逆の可能性に考慮するようになっている。もしも、宇宙から地球に病原体が持ち込まれてしまったら?
かつて科学者たちは、あらゆる地球外試料をバイオハザード(生物災害)の可能性があるものとして扱った。NASA(米航空宇宙局)は、月から帰還したアポロ計画の宇宙飛行士たちに検疫を受けさせていた。やがて月の試料に生命が含まれていないことがわかると、こうした安全手順の多くは廃止された。
しかし、はやぶさをはじめ、宇宙から試料を持ち帰る「サンプルリターン」のミッションが盛んになる中、再び細心の注意が要求されるようになっている。近年では、極限の環境で生存できる生物がいることも明らかになっている。例えばクマムシは、真空の宇宙空間でも生き延びることができる。
リュウグウから到着したばかりの試料に加えて、2023年にはNASAの探査機が炭素豊富な小惑星「ベンヌ」から採取した岩石を持ち帰ることになっている。(参考記事:「【動画】NASA探査機、小惑星ベンヌの岩石を採取」)
さらに2021年2月にはNASAの火星探査車「パーシビアランス(Perseverance)」が、生命の痕跡が残っているかもしれないエリアに着陸する予定だ。地球外生命の証拠を含むと期待される火星の岩石を採取し、やがて地球に持ち帰ることを計画している。(参考記事:「NASAの最新探査車が火星へ、どうやって生命の痕跡探す?」)
「我々の理解では、かつて火星に生命がいたというのは、全くもってあり得ることです」と、地球外知的生命体探査(SETI)研究所の上席研究員J・アンディー・スプライ氏は言う。「ひょっとすると地表の下には今も生命が存在するかもしれません」
そのため、NASAやJAXA、欧州宇宙機関(ESA)といった世界の宇宙機関は互いに協力し、高度な安全性を確保できる研究施設を開発しつつある。将来のミッションで持ち帰られるかもしれない地球外微生物や有機物から地球を守るためだ。
こうした施設は、現状のクリーンルーム技術と、エボラウイルスや新型コロナウイルスといった感染症を安全に扱うバイオセーフティー(生物安全)の仕組みを兼ね備えたものになる。
「現在進行中の火星のサンプルリターン計画では、パーシビアランスが採取した試料を密閉するという目標に向かっています」と話すのは、米カリフォルニア州にあるNASAエイムズ研究センターの元副所長で、宇宙生物学や火星関連のミッションを率いてきたスコット・ハバード氏だ。
「2031年にその容器が米ユタ州の砂漠に到着したときには、最高水準のバイオセーフティーレベル(BSL)を持つ施設に運び込まれることになります」
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