火星では、真夜中ちょうどになると磁場が震えることがある。今のところ、原因は不明だ。
この現象を初めて観測したのは、地質調査のため火星へ送り込まれたNASAの探査機「インサイト」だった。2018年11月に火星に着陸して以来、インサイトは上部地殻の熱を測定したり、地震を記録したり、磁場の強さと向きを計測するなどして、火星の内部の様子を探り、星の進化を解き明かすための情報を集めている。(参考記事:「火星の地震を初観測、なぜ起こる?何がわかる?」)
その成果の一部が、9月に開かれた欧州惑星科学会議と米国天文学会の合同学会で発表された。
謎の振動以外にも、インサイトのデータからは、火星の地殻がこれまで考えられていたよりもはるかに強い磁気を帯びていたことや、地下深くに厚さ4キロの導電層が存在していることが明らかになった。現時点でははっきりしたことは言えないが、火星全体に液体の水を含む層があるのかもしれない。もし今の火星にそれほどの水があるのなら、過去にしろ現在にしろ、火星に生命がいる可能性はとても高まりそうだ。(参考記事:「【解説】火星に複雑な有機物を発見、生命の材料か」)
データはまだ専門家による評価を受けていないため、細かい部分や解釈は今後修正されるだろう。だが、インサイトの成果は、火星や銀河系にある他の岩石惑星に関する私たちの理解を大きく変え得ると期待させる発表だった。
異なる道を進んだ地球と火星
自転する地球の内部では、鉄を豊富に含む液体の「外核」が対流し、それによって発生した磁場が地球全体を覆っている。この磁場ははるか昔から存在し、時折激しく移動することが知られている。
なぜそんなことがわかるかというと、地殻のなかのある鉱物に、過去の磁場の強さと向きが記録されているからだ。同様に、火星の磁場の歴史も地殻のなかに刻まれていることが、1997年に火星周回探査機マーズ・グローバル・サーベイヤーから送られたデータで明らかになった。(参考記事:「火星地図200年の歴史、こんなに進化した15点」)
マーズ・グローバル・サーベイヤーが火星の地表から96~400キロ上空で磁気を検知したところ、その地殻磁場は、地球上の同じ高さから観測した場合と比較して10倍も強かった。つまり、火星もかつては強力な磁場で覆われていたわけだ。
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