なぜ人は他人を「敵」か「味方」に分類するのか

研究から、人間の「群れたがる性質」を知る手がかりが見えてくる

2018.03.30
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特集フォトギャラリー5点(画像クリックでリンクします)
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南アフリカ、ヨハネスブルク郊外の空撮写真。幹線道路の左側は白人の中流層が暮らすプリムローズ地区。右側は失業した金鉱労働者が1990年代に住みついたマカウセ地区で、住民はほとんどが黒人だ。PHOTOGRAPH BY JOHNNY MILLER

 2014年、ナイジェリアにある仲の良い二つの村に「危機」が降りかかる。民族と宗教と文化の違いが高い壁となり、壁の向こう側にいるだけで断罪の理由となった。妄言が飛び交い、ついに襲撃と報復の連鎖が始まった。畑はめちゃくちゃにされ、家畜は殺される。農耕民ティブの村は焼き打ちに遭い、男性も女性も殺害された。

 こんな不幸な出来事が世界中で起きている。人種や宗教、文化が違う者同士が何十年、時には何百年も仲良く暮らしていた。事態が突然変わり、よく知る顔が「彼ら」「敵」「あっち側」と呼ばれる存在になる。

 集団と集団のぶつかり合いでは、個人という概念は消えて、相手への共感も信頼もすっかりなくなってしまう。ナイジェリアと同じことが、フランスや米国の移民と地域住民の間でも起こりうる。状況は異なるが、重要なのは状況が違っても起こるということ。つまり問題の根底は同じなのだ。

人間は群れたがる

 人間は「同一性を求めてやまない」と進化心理学者のジョン・トゥービーは指摘する。それは仕方がない。人間は生まれつき「私たち」と「彼ら」を区別するようにできているからだ。脅威に直面すると、無意識にでも「私たち」を優先することは避けられない。

 米ニューヨーク大学の神経科学者で、集団同一性を研究しているジェイ・バン・ベイベルが行ってきた過去20年間の研究から、「同一性を求めてやまない」人間の脳について重要な事実がいくつかわかってきた。

 たとえば、集団に対する認知や情動の多くは意識外で生まれていて、コントロールが利かない。そして、新しい集団同一性は、古いものとすぐに置き換わる。

 これらの研究から、人間の「群れたがる性質」を知る手がかりが見えてくる。私たちは自分がどの集団に属しているのか、周囲にあるどの集団が重要なのか、常に心のレーダーを作動させている。人種、宗教、国籍といったアイデンティティーに十分満足していても、新たな集団に入る可能性を敏感に探っているのだ。

 なぜ人間は自分の所属チームと、チーム内の自分の位置づけを気にする方向に進化したのか。その理由は想像に難くない。生まれつき体に備わった武器がなく、かよわくて騒々しい人間という生き物にとって、相互依存は当然の生き残り戦略だ。集団生活は生存のための手段であり、だから多くの霊長類は集団をつくるし、人間社会にも必ず明確に線引きされた集団が存在している。

※ナショナル ジオグラフィック4月号「対立の心理学」では、人はなぜ群れたがるのか、なぜ他人を敵味方に区別したがるのか、差別の根底にある心理を考えます。

文=デビッド・ベレビー/サイエンスライター

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