北極圏の空にオーロラが現れる夜、どこからか不思議な音がかすかに聞こえてくるという。実際にそれを耳にしたことのある人は、オーロラの輝きが頂点に達するほんの数分間、ラジオの雑音にも似た、パキパキ、サラサラ、シューシューという小さな音を聞いたと証言している。地元では長い間、単なる言い伝えにすぎないと考えられてきたが、フィンランドの科学者らがこのほど、音は実際に存在することを証明し、発生原因についても有力な説を提示した。
6月22日にスウェーデンのストックホルムで開かれたバルティック・ノルディック音響会議で発表された報告によると、「オーロラの音」の原因は、寒い夜に形成される「大気のフタ」によって帯電した大気が閉じ込められることにあるという。太陽から放出されるプラズマの流れが地球に届くと、この帯電した大気が急速に放電。その際に、破裂音のような音を発生させる。(参考記事:2012年6月号特集「太陽嵐の衝撃」)
音と光のショー
太陽は常に太陽風というプラズマ(電気を帯びた粒子)の流れを放出している。それらの粒子が地球の磁場と作用しあい、大気と衝突することでオーロラが発生、色鮮やかな光のショーが生まれる。(参考記事:「オーロラ爆発、アラスカ北極圏」)
時に太陽は、この粒子を大量に噴出させることがある。そんな時は地球の磁場が乱されて磁気嵐が起こる。磁気嵐は人工衛星や地上の電気システムに影響を及ぼしたりすると同時に、最も壮大なオーロラを生み出すこともある。(参考記事:「太陽嵐で大規模停電が起きるわけ」)
オーロラの音については、針葉樹の葉や松かさが関係しているとする説が以前は有力だった。
磁気嵐の最中には、大気の電位がかなり高くなることがあり、空気と地上の物体の間に電位差が生じる。そこに、針葉や松かさのような先の尖ったものがあれば、簡単に放電が起こる。ちょうど、指先がドアノブに触れると静電気の衝撃でパチッと音が聞こえるのと同じである。(参考記事:「太陽嵐がもたらした強度「G4」の磁気嵐とは」)
暖かい大気がフタ説
しかし、2012年にフィンランドにあるアールト大学の研究者ウント・K・ライネ氏が、音はオーロラが最も活発な時に、木の高さよりもさらに上の、地上70メートルあたりから発せられていることをつきとめた。
さらにライネ氏はその後も研究を重ね、今回オーロラ音が生まれる過程について具体的な仮説を提案した。そのカギを握るのは、大気中に発生する逆転層と呼ばれる現象だ。
逆転層とは、普通ならば高度が上がるにつれて気温が下がるところを、逆に上層の気温が高くなる現象のことをいう。晴れた穏やかな日に起こりやすい。日没後、暖かい空気が上昇し、地表面は気温が低下する。そのまま穏やかな状態が続くと、両者の気温が混じり合うことがない。
ライネ氏の研究チームによると、この逆転層によってできた暖かい上層がフタのような役割を果たし、負電荷を帯びた大気を下の層に閉じ込める。そこへ磁気嵐がやってくると、このフタが壊れて放電が起こり、奇妙な音を立てるという。
以前の観測とも一致する。研究チームは、今回録音したオーロラ音のうち最もはっきりと聞こえる60個の音について、地上75メートルあたりで発生していることを確認した。それは、逆転層が通常発生する高さとしてフィンランド気象研究所が独自に計測した数値とちょうど同じだった。
映画製作者のアレクシス・コラム氏が、アラスカ上空に出現した色鮮やかなオーロラのダンスを撮影。(解説は英語です)
オーロラを体験するには
オーロラを見るには、北極圏に近い場所へ行くことである。運がよければ、音も聞けるかもしれない。ただし、強力な太陽嵐が発生すれば、それよりはるかに低い緯度でもオーロラが出現することはある。(参考記事:「北極点がヨーロッパ方向へ急移動と研究発表」)
真夜中ごろに外へ出て、できるだけ暗い場所から北の地平線の方向を見上げてみよう。地上の光源は弱いオーロラの光をほぼ覆い隠してしまうため、街に近い場所では最も明るいオーロラしか見ることはできない。
はじめのうち、かすかな緑色を帯びたリボン状の光が北の地平線上空に現れる。やがて粒子の嵐が起こると、空全体に舞い踊る色鮮やかな光のリボンやカーテンを目にすることができる。