ミャンマーで、約9900万年前のザトウムシの仲間 Halitherses grimaldii の化石が発見された。デート中、幸せの絶頂で突然命を奪われてしまったようだ。
数カ月間の幼虫期を経て成虫に達したオスのザトウムシは、勃起すると自分の体の半分ほどまで伸びるペニスを持っていた。
1月28日付の「The Science of Nature」誌に掲載された論文によると、発見された H. Grimaldii は木の幹でお取り込み中、完全に勃起したところを滲出してきた樹脂に襲われ、中に閉じ込められてそのまま死んでしまったという。その樹脂がまるごと化石化して琥珀となった。
「ここまで大きく勃起したところを見ると、よほどムードが盛り上がっていたのでしょう。かわいそうに」と米国自然史博物館のロン・クラウス氏は語る。同氏は、今回の研究には参加していない。
クモやサソリの生殖行為は、オスが特別仕様の足を使って精子の入った袋をメスに渡すというものだが、 H. grimaladii を含むほとんどのザトウムシは、メスの口の隣にある生殖器へ実際にペニスを挿入して交尾を行う。
琥珀の中でペニスが突出した状態で見つかった例は初めてで、保存状態も大変良いと、研究者たちは言う。
長い歴史をもつ生物
ザトウムシは、優れた生殖機能のおかげで4億年以上前から生き延びてきた。(参考記事:「ザトウムシ、3億年前からほぼ進化せず」)
これほど長い歴史を持つ生物は、貴重な研究材料だ。その系統を理解することで、太古の地球で変動を重ねてきた大陸の間を、他の生物たちがどのように拡散していったのかを知ることができる。
しかし進化の過程で、多くのザトウムシは似たような外見を持つようになり、異なる種の相互関係を判別するのが困難になってしまった。クラウス氏は、「ぐちゃぐちゃ」と表現する。(参考記事:「古代のザトウムシには眼が4つあった」)
今回の研究を率いたドイツ、ベルリン自然史博物館のジェイソン・ダンロップ氏の仕事は、ザトウムシの化石を探し、主にその生殖器を分析して、このぐちゃぐちゃを整理することだ。
「ザトウムシのペニスは、科どころか種によってすら異なり、それぞれ特徴的な形をしています。体や足の形よりもペニスの形の方がカギを握っていることも多いです」(参考記事:「女性の好みが男性器の進化に影響?」)
お家騒動
下半身以上に重要な発見もあった。
H. grimaldii の化石の詳細な3Dスキャンと写真を分析したところ、ペニスの先がハート形をしており、そこからさらに湾曲した突起物が観察された。その特徴的な形は他のどの種とも異なり、H. grimaldii が既知ではない独自の科をなしていることが濃厚となった。(参考記事:「新種のザトウムシにあのキャラクターの名前」)
このことはすでに、米ハンプデン・シドニー大学の生物学者ビル・シアー氏が2010年に提案していたが、状態の良い今回の化石も、シアー氏の案を補強する材料となる。
「あまり知られていない生物、ましてや化石が注目を集めるというのはうれしいものです」と、シアー氏は語る。
大きな目と突起のない鋏角(きょうかく)も、滅多に見つからない珍しいタイプのザトウムシの仲間であることを示している。近年、この仲間は以前とは異なる系統へ移され、分類が大きく修正された。
ダンロップ氏は、化石にはまだ解明されていない点もあるとしている。哀れにも琥珀に閉じ込められていた H. grimaldii はオスのみで、近くにメスの姿はなかった。2匹は悲劇的に引き裂かれ、突如死に直面したオスのペニスは勃起したまま固まって、長年の時が経過してしまったのだろうか。
「樹脂に捕らえられてもだえ苦しんだ結果、血圧が急上昇し、ペニスが飛び出してしまったという可能性もあります」。だとすれば、かなり痛そうな話だが。(参考記事:「ツタンカーメンの遺骸が勃起していた理由」)