忘年会のある風景。
今年も師走に入りいよいよ1年の締めくくりである。巷では忘年会や新年を迎える準備などで多忙を極めている人も多いだろう。来年の話をしても、もう鬼は笑わないし、2016年を振り返り、宴会で美味しい酒とご馳走を前にして、寒さに引つった顔も綻ぶ事と思う。
私は「酒」と言う言葉に敏感である。嫌いではないが、病気のため殆ど飲めないに等しい。それでも20歳の頃などは正月になれば友人宅で一升瓶の日本酒とウイスキーのボトルを二人で空にしてしまった事もある。
一晩で飲む量としてはかなり多い方だと思う。次の日は朝から頭がガンガンして二日酔い、そのため一日中横になっていた。急性アルコール中毒で亡くなる人もあるし、自分の身体にあった飲み方をしないと取り返しのつかない事になる。
私の父はアルコール依存症で酒乱だったため、私の子ども時代はこの父と酒との闘いの日々と言っても過言ではない。私は一人布団に入り何時帰るか分からない父の事を気にしながら眠っていた。
柱時計は既に午前0時を過ぎている。当然こんな時間まで起きている子どもも大人もいない。深夜の道が街灯の明かりでぼんやりと闇の中に浮かんでいる。車も人の気配もなく何処かで犬が吼えていた。
小さな豆電球だけをつけたまま、薄い布団の中で明日の夢を見ている私の耳に聞こえて来たのは、無造作に玄関の扉を開ける音。静まり返った冬の夜空を裂くように響き渡った。そして不規則な足音と微かな呻き声。
いつもの聞きなれた音と声ではあったが、私の身体は震えていた。これから起きる父とのやりとりを既に感じていたからだ。座敷に上がり襖を力いっぱい開けると、父は布団をめくりあげ「とし坊」と声を掛けて来た。それは地響きのように私の小さな身体を恐怖に揺らした。枕元に座り込み愚痴を話始める父。かなり酔っているので何を言っているのか聞き取れない。
酩酊状態の父には明日の学校の事など頭の中には何もなく、自分の目の前にいる子どもが息子である事さえ忘れて、鬼になった父は吼えそして暴力が始まるのである。私は広い屋敷の中を小人のように逃げ回り、裸足のまま裏口から凍てついた庭の方へ逃げ出した。光輝く月と数々の星屑が庭の隅々まで反射している。逃げ場所はいつも決まっていてそこだけが安全な場所だった。
数時間じっと動かず寒さに耐え、そっと家に戻って見ると父はその晩飲み食いしたと思われる物を胃袋から全て吐き出していた。元々酒に弱い父だったから身体が受け付けてくれなかったのだろう。畳に染み込んだ嘔吐物を始末するのは私の役目。
父の身体に布団を掛け、自分も明日に備えて再び眠りに落ちた。私に取って酒は「きちがい水」そのものだった。いまでは差別用語になっているので耳にする事もないが、酔っ払いの姿を見るたびに父を思い出して懐かしい時代を振り返るのである。
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