小説・写楽 10 

(承前)  人づてに聞いた所では、裏店にくすぶってはいるものの、気は確かで筆も棄てた訳ではないらしい。都伝内はその時、何も深く考えず適当に歌舞伎恒例の演題と、思い付く役者連中の配役を一通り書き出し、磯田湖龍斎に届け、香典ではなく画料だといって五十両を奮発した。それが、5月の曽我祭りの摺り物に使える、という事らしい。   「なるほどね…

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古本を売る青果店の夢

始めて訪れた街並みは整った色調の石壁造りの建物が並び、歴史を感じさせる雰囲気に包まれていた。同行者の一人が、   あれは、日本人が経営している店らしい と言うので、道路の向こう側にある二階建ての店舗を眺めてみると、オレンジ、バナナ、ミカン、グレープフルーツなどの果物類が階段の殆どを埋め尽くすほど飾ってあり、店の左半分は黄色、いや黄金…

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小説・写楽 9 湖龍斎からの書面

(承前)  30枚近い下絵を部屋中に広げ、膳も取り払った座敷の中央に座り込んだ山東京伝が、ため息混じりに呟いた。   「へーっ、これが湖龍斎の手とはねぇ、それに、まだお江戸にいたとは知らなかった、    もう、随分以前に上方へ帰ったもんだと思っていたよ」   「薬研堀に居たんじゃあなかったかね、あの人は」   「流石に蔦屋の旦…

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