赤羽、せんべろの街が“住みたい街”に変貌…「まるで吉祥寺」専門家が指摘するわけ

●この記事のポイント
・飲み屋街の印象が強い東京・赤羽だが、近年は人口増と住宅価格の上昇で人気エリア化している。
・専門家は交通利便性や生活のしやすさに加え、再開発や多様な世代の共存が人気を後押しと指摘。
・一方で地価上昇に伴う課題や住環境の変化もあり、赤羽の住宅事情は新たな局面を迎えている。
東京・北区の赤羽と聞けば、まず思い浮かべるのは「せんべろ酒場が集まる街」というイメージかもしれない。駅前の飲み屋街はテレビ番組でもたびたび取り上げられ、“サラリーマンの聖地”と称されてきた。
だがここ数年、その赤羽が「住みたい街」として注目を浴び、住宅価格も大きく上昇している。なぜ“飲み屋の街”が、今やファミリー層をも惹きつける住宅地に変貌したのか。住宅評論家の櫻井幸雄氏に話を聞いた。
●目次
10年ほど前からじわじわと人気上昇
櫻井氏によれば、赤羽人気の高まりは突然ではなく、5~10年ほど前からの傾向だという。
「北区は23区の中でも比較的“安い”場所と認識されていました。しかし、安いといっても池袋や新宿など都心部へのアクセスが良い。そのコストパフォーマンスが評価され、徐々に人気が上がってきたのです」
東京23区内で“まだ手が届くエリア”としての存在感を持ち始めたのが、赤羽だった。
飲み屋街の印象が強い赤羽だが、駅から少し離れれば閑静な住宅地が広がる。この構造は「吉祥寺と似ている」と櫻井氏は語る。
「吉祥寺も駅前はごちゃごちゃとした商店街ですが、その周囲には落ち着いた住宅地が広がっています。赤羽も同じで、駅前の賑わいと住宅地の静けさが共存している。それでいて以前は吉祥寺の半額程度で住宅が買えていたという価格差も、人気を押し上げた要因です」
駅前の活気を“騒がしい”ではなく“便利で暮らしやすい”と捉える層が増えたことが、人気上昇に拍車をかけた。
同じ城北エリアの十条や板橋と比べても、赤羽は駅周辺の活気と交通利便性で優位に立つ。JR東日本の主要5路線が乗り入れ、湘南新宿ラインや上野東京ラインを使えば新宿や東京駅にも直通。複数路線が利用できる安心感は大きい。
さらに商業施設やスーパーが駅前に充実しており、生活利便性の高さも人気を支えている。
山手線外で価格が急騰、赤羽は“スターエリア”に
東京23区の住宅価格はこの10年で大きく上昇した。特に山手線内側は高騰が著しく、一般の会社員世帯では到底手が届かない水準となった。
「山手線外側にはまだ現実的な価格帯が残っていました。その中で特に人気を集めたのが赤羽と北千住です。いわば“スターエリア”ですね」
赤羽では駅近の新築マンションが人気を牽引した。数年前までは3LDKで6000万~8000万円程度と、共働きファミリーがぎりぎり手を伸ばせる価格帯だった。これが「なんとか買える場所」として脚光を浴びた。
「赤羽は飲み屋街だけではありません」と櫻井氏は指摘する。人気の幼稚園や緑の多い公園が点在し、教育環境も一定の評価を得ている。駅前の賑やかさに隠れがちだが、子育て世代にとっては“思った以上に暮らしやすい街”だという。
実際、飲み屋街がある駅前も歩道が広く、反対側に出れば水辺の公園や住宅街が広がる。ディープな印象とのギャップが、新たな発見として移住者に受け入れられている。
赤羽人気は長く続く可能性
赤羽での新規マンション供給の多くは、工場跡地や社宅跡地で進められている。そのため、既存住民の戸建て住宅地を壊して開発するケースが少ない。
「新しく移ってきた人たちが既存住民と摩擦を起こさず、新しい生活をゼロから始められるのが赤羽の特徴です。これも住みやすさにつながっています」
赤羽駅周辺では再開発計画も進んでいる。新たな商業施設や高層マンション建設が予定され、街の魅力はさらに高まる見込みだ。
ただし価格はすでに高止まりしている。3LDKで1億円を超える物件も出てきたが、実需層にとって1億円は現実的ではない。
「一般的に6000万円台までが“なんとか手が届く”水準です。投資目的の買い手が集まらない限り、これ以上の急騰は難しい。ただ、今の水準で下がりにくい“高止まり”は続くと考えられます」
「赤羽人気は間違いなく長期的に続きます」と櫻井氏は断言する。共働き世帯が増えるなかで、都心アクセスの良さと買い物利便性、教育環境を兼ね備えた街は貴重だ。夜も活気がある街のほうが「住んで楽しい」と感じる人も多い。
周辺エリアへの波及は?
価格高騰で赤羽に手が届かなくなった層は、戸田や川口など近隣エリアにも目を向けている。ただし、外国人住民が多い地域では好みが分かれるため、実際に現地を確認することが重要だという。
「川口は赤羽より安く、潜在的な魅力があります。外国人コミュニティの存在をどう捉えるかで評価が分かれますが、実際に行ってみれば“住みやすい”と感じる人も多いはずです」
東京全体で見ると、住宅価格は上昇一辺倒ではない。超高額化した都心部に対し、城北・城東エリアは“最後の手の届く場所”として注目を集めてきた。赤羽や北千住はその象徴だ。
今後、価格が大幅に下がることは考えにくいが、実需層の購買力を超える水準に達した物件は動きにくくなる。結果として「高止まり」が続く可能性が高い。
赤羽はもはや「せんべろの街」という枠を超え、「暮らす街」として存在感を増している。街の活気、交通の便、生活インフラ、教育環境――これらを兼ね備えた赤羽は、東京の住宅事情の縮図でもある。
「赤羽は楽しい街です。街の賑わいが生活を豊かにし、共働き世帯にとっても暮らしやすい。だからこそ多くの人が憧れるのです」と櫻井氏は結んだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=櫻井幸雄/住宅評論家)