ビジネスジャーナル > 経済ニュース > 逆風の洋上風力、北九州は総合拠点化

三菱商事も撤退で逆風の洋上風力発電、北九州は総合拠点化で経済波及効果に期待

2025.09.30 2025.09.29 23:29 経済
三菱商事も撤退で逆風の洋上風力発電、北九州は総合拠点化で経済波及効果に期待の画像1
UnsplashJesse De Meulenaereが撮影した写真

●この記事のポイント
・北九州市は港湾再生策として洋上風力発電に注力し、製造からO&Mまで担う東アジアの総合拠点化を目指している。
・三菱商事の撤退など市場逆風もある中、国と連携しつつ国産風車の復活やサプライチェーン構築による波及効果を狙う。
・漁協や住民との合意形成を経て推進。2030年度末の拠点稼働を目標に、人材育成や地域産業の活性化にも取り組む。

 再生可能エネルギーのなかでも「洋上風力発電」は、日本の脱炭素と産業政策の両面で注目を集めている。だが一方で、三菱商事が欧州での大型案件から撤退するなど、世界的に逆風も吹いている。そうしたなか、北九州市は「洋上風力の総合拠点化」に向けて歩みを加速させている。なぜ同市は洋上風力に賭けるのか。そして、実際に何を目指しているのか。北九州市港湾空港局 洋上風力拠点化推進課長・白井氏に聞いた。

●目次

港湾活性化策として始まった洋上風力

 白井氏はまず、「洋上風力推進の原点は港湾の再生にある」と語る。

「北九州は1901年の官営八幡製鐵所の創業以来、鉄とものづくりの町として発展してきました。港も輸出偏重型で活況を呈していたのですが、リーマンショック以降は産業の空洞化が進み、港の活性化策が課題になっていました。そこで2011年から、ヨーロッパの先行事例を参考に洋上風力の導入を進めてきたのです」

 参考としたのは、ドイツ北部の港湾都市ブレーマーハーフェン。造船不況で停滞した港を、洋上風力の拠点化によって再生させた実績だ。北九州市は同様に、港湾再生の切り札として洋上風力に着目した。

 北九州は鉄鋼、造船、機械といった産業基盤を長年育んできた。その蓄積は洋上風力にも直結する。

「現在、国内で風車を本格的に製造するメーカーはほとんどありません。しかし北九州には、かつて陸上風車のサプライヤーだった企業が集積しています。これらの技術を活かし、国産風車の復活、あるいは主要部品の国産化を進めたいと考えています」

 洋上風力の部材は巨大で、港湾インフラや重工業の知見が不可欠だ。北九州はその条件を満たす数少ない都市の一つだという。

経済波及効果と中小企業の参入余地

 洋上風力は「グリーントランスフォーメーション(GX)」政策の柱でもある。北九州市の取り組みも国策と密接に連動している。

「経済産業省や国土交通省と連携し、さまざまな支援を受けています。洋上風力を国産化することで、サプライチェーン全体が国内に根付く。それが国としても、市としても大きな意義を持つと考えています」

 製造拠点を誘致できれば、ティア1からティア3までのサプライチェーンが形成され、経済波及効果は大きい。非製造業分野にも裾野は広がる。

「基地港湾として西日本をカバーすることで、物流、海洋土木、電気工事など、これまでになかった産業が市内に定着します。中小企業やスタートアップの参入余地も当然生まれると考えています」

 ただし現状では「大元の製造拠点を誘致することが最優先」とも強調する。サプライチェーンの中心を引き寄せられるかが鍵だ。

 ただ、世界の洋上風力市場は順風満帆とはいえない。欧州では資材高騰や金利上昇の影響で採算性が悪化し、三菱商事も大規模案件からの撤退を決めた。

 白井氏もこの逆風を認めつつ、国の支援策の重要性を指摘する。

「三菱商事さんは見通しが甘かった部分もあるかもしれませんが、物価高騰への対策は国全体で整える必要があります。自治体レベルでできることには限界がある。市場環境を整えることが不可欠です」

差別化の鍵は「製造+東アジア」

 国内の基地港湾は東北・北海道が中心だが、北九州は別の強みを打ち出す。

「我々は単なる積み出し拠点ではなく、製造からメンテナンスまでを担い、東アジアに輸出する拠点を目指しています。ここまで構想している自治体は少ない」

 つまり北九州は「広域型の総合拠点」として差別化を図る。

 洋上風力は設置して終わりではない。長期にわたり保守が必要だ。北九州市は西日本をカバーするO&M(運用・保守)拠点の構築を進める。

「ヨーロッパでは部材のストックポイントを整備し、広域に供給しています。同じように、西日本全体を対象としたストック拠点を目指しています。また、人材不足が大きな課題なので、市内では人材育成拠点も既に稼働しています」

 風力発電は漁業者や住民の理解なくして進まない。

「北九州市の洋上風力は港湾区域内で、市が公募した案件です。その前段階で漁協や住民への説明会を何度も行い、大方の合意を得た上で進めました。これ以上新規サイトを広げる計画はありません」

 市民生活や雇用へのメリットについては「必ず波及効果はある」と断定する。

2030年に向けたロードマップ…北九州モデルは実現するか

 現在、浮体式拠点予定地の埋め立てが完了し、地質調査を進めている段階だ。

「2030年度末の稼働を目指し、関係企業や国と議論を深めながら拠点整備を進めます。製造からメンテナンス、輸出まで担える東アジアの総合拠点を構築するのが最終的な目標です」

 洋上風力をめぐる環境は厳しい。大手企業ですら撤退を余儀なくされる中で、地方都市が主導して総合拠点を築くのは容易ではない。それでも北九州市は「港湾再生」という原点を軸に、独自の戦略を描く。

 欧州では洋上風力が港湾都市の再生に成功例を生んだ。果たして「北九州モデル」は日本版の成功例となるか。2030年、その答えが見えてくる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)