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茨城空港は首都圏第三の国際空港になれる?インバウンド6000万人時代に向けて

2025.09.15 2025.09.15 00:53 経済
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茨城空港(「Wikipedia」より)

●この記事のポイント
・羽田・成田空港はインバウンド急増で容量不足の懸念があり、茨城空港が「第3の国際空港」として注目されている。
・しかし茨城空港は規模が小さく、成田の不足分を担うには限界があり、受け皿としては地方空港の役割も重要となる。
・空港戦略は容量拡大だけでなく、オーバーツーリズム対策や地方分散を含めた観光政策と一体で進める必要がある。

 東京の空の玄関口である羽田空港と成田空港。日本の空の需要を支える両空港は、急増するインバウンド需要に対応し、すでにキャパシティの限界が迫っているとささやかれている。こうした状況のなか、「首都圏第3の国際空港」として、茨城空港の活用が浮上している。

 本当に茨城空港は、将来の日本の空の需要を支える「第三の選択肢」となり得るのだろうか。航空経営研究所主席研究員の橋本安男氏への取材に基づき、首都圏の空港が抱える現状と、茨城空港の将来的な可能性、そして日本全体の空港戦略について考察していく。

●目次

羽田・成田の現状と将来的な課題

 まず、首都圏の空の現状を見ていこう。

 羽田空港は年間発着回数50万回と国内線を中心にほぼ上限まで活用されており、これ以上の余裕はほとんどない 。一方、成田空港は年間発着回数30万回(2025年10月以降は34万回)のキャパシティに対し、2024年度の実績は25.5万回で、まだ余裕がある状態だ 。この余裕は、旅客数に換算すると約1,500万人分に相当する 。

 しかし、政府が掲げる「2030年にインバウンド6,000万人」という高い目標を達成するためには、成田空港のさらなるキャパシティ拡大が不可欠だ 。成田空港では現在、B滑走路の延長とC滑走路の新設工事が本格的に進められており、2029年3月の供用開始をめざしている 。これが実現すれば、年間発着回数は50万回に達するため、当面は問題なく運営できると見込まれている 。

 ただし、この拡張計画には不確定要素も存在する。用地買収が全体の2割弱残されており、交渉が難航すれば供用開始が2030年以降にずれ込む可能性も十分に考えられる 。もし工事が遅れた場合、インバウンド需要が急増すれば、一時的に成田空港のキャパシティが不足する事態も起こり得るのだ 。

茨城空港は「第三の国際空港」になれるのか

 このような状況のなか、将来の容量不足に備えるため、茨城空港の活用が議論されている 。

 茨城県は、茨城空港を「首都圏の第3の国際空港」とブランディング戦略の一環としてアピールしている 。このキャッチフレーズに偽りはないが、その実態を知ると、成田空港の容量不足を補う主要な「解決策」にはなり得ないことがわかる 。

 茨城空港は、自衛隊の百里飛行場と滑走路を共有する「共用空港」として、2010年に開港した 。開港当初は自衛隊により「離陸は1時間に1回」などの運航制限が課せられていたが、現在は解除されている 。

 最も大きな課題は、その規模だ。茨城空港は、当初の想定利用者数81万人、国内線は小型機(リージョナルジェット)の使用を前提に設計された 。そのため、2024年度の利用者数が78万人になった現在でも、すでにターミナル内は混雑し、空港としてのキャパシティは限界に達している 。

 2024年度の国内空港における国際線年間旅客数ランキングを見ると、成田・羽田の両空港だけで日本の国際線旅客全体の5割以上を占めている 。茨城空港は国際線旅客数で約7万人弱と、成田のわずか0.2%に過ぎない 。この数字からもわかるように、茨城空港は現状、他の主要な国際空港とは規模感がまったく異なるのだ 。

茨城県が描く将来ビジョンと現実

 茨城県は、空港の現状を打開するため、2024年に「茨城空港のあり方検討会」を立ち上げ、2025年7月には「茨城空港将来ビジョン~首都圏第3の空港を目指して~」を発表した 。

 このビジョンでは、茨城空港の役割として、以下の3つを掲げている 。

 役割1: 茨城県や近隣県の観光・ビジネスの拠点となる空港
 役割2: 羽田・成田とともに、首都圏第3の空港として、日本の国際・国内航空需要に対応する空港
 役割3: 大規模災害時の災害対応拠点となる空港
ビジョンでは、ターミナルビルや駐機場の拡張、誘導路の増設など、大規模な改修による空港容量の拡大が計画されている 。これにより、国際線の旅客数を2030年代に50万人、2040年代には60万人まで増やすことを中期・長期目標としている 。

 これは、茨城空港にとっては大きな目標であり、実現すれば大きな成長となる。しかし、もし成田空港の工事が遅れ、年間2万回分の便が溢れた場合、旅客数にして約350万人分が受け入れ先を必要とする 。茨城空港が将来的な目標を達成したとしても、受け入れられるのは国際線で50万〜60万人程度だ 。残りの大半は、他の地方空港に分散して対応せざるを得ない 。

 茨城空港は「首都圏第3の国際空港」と名乗っているが、国全体で見た場合、その規模感は小さく、成田空港の容量不足をすべて賄うのは現実的ではない 。

 では、溢れた需要はどこへ向かうのだろうか。

 国内の国際線旅客数ランキングを見ると、成田・関西・東京国際(羽田)に次いで、福岡、中部、新千歳、那覇空港などの基幹空港が300万~900万人の国際旅客を扱っている。溢れた需要の一部は、首都圏を離れた入国とはなるが、これら基幹空港に向かうであろう。

 また、首都圏に比較的近い地方空港として、仙台空港は国際線旅客数が50万人程度、静岡空港も20万人程度と、茨城空港よりも多い実績があり、首都圏の需要の受け皿となる可能性を秘めている 。これらの空港は、首都圏からのアクセスも比較的良好で、今後、需要の受け皿として機能していくことが期待される 。もちろん、各空港がさらに発着数を増やすには、誘導路の増設などそれなりの改修が必要となり、時間も費用もかかるが、これらが現実的な選択肢となるだろう。

オーバーツーリズムと日本の観光戦略

 もう一つ、忘れてはならないのが、観光客の増加に伴うオーバーツーリズムの問題だ。

 観光庁自身も、一部の地域でオーバーツーリズムが深刻化していることを認識しており、この問題に対する委員会を立ち上げるなど、対策を講じ始めている。もしインバウンド需要が目標通りに増加しても、それを運ぶ交通インフラや宿泊施設が追いつかないという、空港のキャパシティとは別の問題も発生する。

 首都圏の空港が容量不足になった場合、地方の空港を活用する動きは、観光客の流れを分散させ、地方創生にも繋がる可能性がある。また、インバウンドの増加を抑制することで、日本人が旅行しにくくなる、航空券が高騰するといった問題を回避できる側面もある。

 茨城空港が「首都圏第3の国際空港」という看板を掲げ、将来に向けた大規模改修計画を進めていることは、高く評価すべき努力だ。しかし、日本の航空需要全体を支えるためには、茨城空港だけでなく、仙台や静岡をはじめとする地方の国際空港が連携し、それぞれの強みを活かした戦略を構築していくことが重要となる。

(文=Business Journal編集部、協力=橋本安男/航空経営研究所主席研究員、元桜美林大学客員教授)

橋本安男/航空経営研究所主席研究員、元桜美林大学教授

橋本安男/航空経営研究所主席研究員、元桜美林大学教授

日本航空で、エンジン工場、運航技術部課長,米国ナパ運航乗員訓練所次長,JALイ
ンフォテック社部長,JALUX社部長,日航財団研究開発センター主任研究員を歴任。
2008年~24年3月 桜美林大学客員教授。
2012~20年(一財)運輸総合研究所 客員研究員
2015年より航空経営研究所主席研究員
著書「リージョナル・ジェットが日本の航空を変える」で2011年第4回住田航空奨励
賞を受賞。
東京工業大学工学部機械工学科、同大学院生産機械工学科卒