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CES 2025
sunaharay.hatenablog.com
「住宅政策の静かな革命-1996年の公営住宅法大改正の政策過程分析」という論文を、日本政治学会『年報政治学2024-I 政策と政治』に寄稿しました。この論文は、2018年に『社会のなかのコモンズ』という書籍に寄稿した「コモンズとしての住宅は可能だったかー1970年代初頭の公的賃貸住宅をめぐる議論の検証」という論文の続編のような位置づけで、1970年代に国会で政治的に議論されつつも結局導入されることがなかった家賃補助が、1996年の公営住宅法大改正の中で形を変えて部分的に実現していく過程を検証したものです。1996年というと、いわゆる政界再編の中の連立政権期に当たるわけで、この時期に介護保険のような普遍主義的な性格をある程度持った政策が実現されていることから、政治のイニシアティブが大きかったことも予想されます。しかし本稿の検証からは、政治家の方はこの問題にほとんど関心を示しておらず、それに対
東京大学の東島雅昌先生から、『民主主義を装う権威主義-世界化する選挙独裁とその論理』をいただきました。ありがとうございます。こちらは、東島さんが英語で書かれたThe Dictator's Dilemma at the Ballot Box: Electoral Manipulation, Economic Maneuvering, and Political Order in Autocracies をもとにしているものですが、日本語では権威主義の歴史に関する説明なども加筆されているということです。東島さんは、権威主義体制の研究で国際的に活躍されている比較政治学者ですが、本書は権威主義体制の分析でありつつも、現在世界的に「民主主義の後退」が叫ばれる中で、民主主義国の人々にとっても極めて示唆に富むものになっていると思います。 本書で扱っているのは、権威主義体制における「選挙のジレンマ」、つま
広島大学の小林悠太先生に『分散化時代の政策調整』を頂きました。ありがとうございます。本書は博士論文をもとにしたものですが,小林さんは修士課程の時に大阪大学で副査として指導をした大学院生で,実は副査などをしていた大学院生が書いた初めての著作ということもあって個人的にも感慨深いです。内容としても,修士論文やその後の論文から非常に大きく展開した議論をされていて感銘を受けました。 本書で扱っているのは,内閣府を中心とした「政策調整」と呼ばれるものです。「呼ばれるもの」ってよくわかりにくいですが,これは制度っていうものでもないし,現象っていうのとも違うだろうし,取り扱いがしにくいものです。しかし従来から行政学のコア概念のひとつであることが意識されているもので,政策決定において様々な組織・機構が複雑に絡み合う現代行政においてその特質を解明することには大きな意義があります。 本書では,この重要な問題につ
慶應義塾大学の粕谷祐子先生に,『それでも選挙に行く理由』を頂いておりました。ありがとうございます。投票日に紹介するにふさわしい本のように思います。本書はプシェヴォスキという碩学が,自らのものをはじめとしたさまざまな研究の成果から,選挙を行うという営みによって何が期待できるのかを議論していくものです。決して目覚ましいものばかりではなく,見方によっては論争的であるわけですが,一定の成果と呼べるものが何かをわかりやすく説明していくものだと思います。プシェヴォスキは基本的には実証研究の人だと思いますが,こういうかたちで,政治についての実証研究を丁寧に整理し,それを事実として理論的に展開していくのはとても重要なことだし,日本でもいくつか行われるようになっていると思います。従来の演繹的な理論研究とはやや異なるように思いますが,このあたりは論文と違う「本」の一つのあり方なのかもしれません。 以下の最後の
2020年内は感染症の影響で色んなプロジェクトがストップしてしまったことの反動からか,年末あたりからいろいろと興味深いご著書が出ていて何冊か頂いております。できるだけ紹介させていただきたいのですが,とりあえずその一部を。 10月には宇野重規先生から『民主主義とは何か』を頂いておりました。古代ギリシャ以来2500年の民主主義の歴史を眺めながら民主主義とは何かという問題について説明する,というのはなかなかできる作業ではないと思います。宇野先生のご著書では,元々評判の悪かった民主主義というものがいかにして正統性を獲得し,その基礎付けを得てきたのかということが議論されていきます。多数決か少数派の尊重か,選挙か選挙以外か,制度か理念か,という3つの問いについてもまさに民主主義を考えるときに避けて通れないものですし,ぜひ広く読まれるべきではないかと。ただこういう本て,授業でじっくりやるのも難しいし(教
宣伝ですが,小熊英二・樋口直人『日本は「右傾化」したのか』慶應義塾大学出版会,に「地方議会における右傾化-政党間競争と政党組織の観点から」という論文を,秦正樹さん・西村翼さんとの共著で寄稿しました。ヨーロッパを中心に,右翼政党が進出するメカニズムについての先行研究を整理したうえで,日本の地方議会で同様に右翼勢力が進出のような現象がみられるか,見られるとしたらなぜなのか,について議論したものです。対象になっているのが2015年以降なので,「進出するようになった」といった時系列な変化について十分に扱えているわけではないですが,地方議会での審議から右翼的な言辞が交わされている傾向を持つ地方議会・議員がなぜ生まれるようになったかについて考えた感じです。 対象にしたのは大阪維新の会という「右翼」と見られがちな新党が参入している大阪府下の(政令市以外の)市です。仮説としては,(1)政党間競争→右翼とさ
これまで年末に頂いた本をざっと紹介していたりしたのだけど,去年は最後までバタバタしていたおかげでなかなかその時間が取れず,年明けにやろうと思っても体調を崩してこれもまた難しかった。まあ時間がないのも原因ですが,何よりたくさん研究書が出ていてそれを頂いていたりするので追いつかないというのが実情です。 せめて単著本は頑張って読みたいと思っているところですが,まず最近頂いたもののうち,比較政治・国際政治に関わるものをご紹介します。筑波大学の外山文子先生から『タイ民主化と憲法改革』を頂きました。ありがとうございます。本書では,しばしばクーデターが起きて「憲法改革」が行われるタイにおいて,そこで強調される「立憲主義」と民主化について論じられるものです。最近の日本でもそうですが,一般的に,立憲主義というのは民主主義とともにある考え方で,「法の支配」というかたちで強調されるわけですが,実際のところ民主主
少し前ですが,早稲田大学の遠藤晶久先生から『イデオロギーと日本政治-世代で異なる「保守」と「革新」』を頂いておりました。どうもありがとうございます。もともと英語での著書として書かれたものを日本語に翻訳して出版されているもので,若年層と高齢層で政党のイデオロギー位置についての認識に差異が生じるという本書の分析結果は,2014年にその原型が論文(『アステイオン』80号)として発表されたときからすでに注目を浴びていたように思います。参議院の通常選挙が近づいている中で,選挙での選択には直接関係しないかもしれませんが,イデオロギーという観点から政党の位置づけを改めて考えるのにも非常に有益になるのではないでしょうか。 本書では,様々な世論調査のデータを用いて,世代ごと・グループごと,あるいは章によっては国ごとに,有権者がどのようなイデオロギーを持っていると考えられるかが議論されていきます。「イデオロギ
7月2日付けの日本経済新聞・経済教室に『参院選で何を問うのか(下)将来を巡る対立軸 意識せよ』というコラムを寄稿しました。選挙前の記事という「ナマモノ」で,本来そういうのを書く能力に乏しいのですが,せっかくのお話なのでチャレンジしてみました。普段の地方政治や住宅などに関するコラムの場合には論文・本で言ってることをベースに書いてると思うのですが,今回は『二つの政権交代』以来細々と続けている研究がベースで,たまたま同じ日経新聞の2年前の経済教室や最近の記事*1でのアイディアを発展させて書いているような感じです。 まあ前半の参議院の選挙制度がもたらす個人投票の話や各政党のマニフェストの話はいいのですが,後半の生活保障-社会的投資の軸については,2年前の経済教室でも取り上げたHausermannさんらの研究をもとにしています。最近のヨーロッパの福祉国家研究の成果ということで,現在大学院のゼミでも勉
東京大学の羅芝賢先生から,『番号を創る権力-日本における番号制度の成立と展開』を頂きました。どうもありがとうございます。最近,私自身がマイナンバーのような番号制度に関心を持っていることもあり,本当に面白く読ませていただきました。これは番号制度や電子政府はもちろん,広く社会保障や行政改革に興味を持っている人必読といっていいんじゃないですかね。 本書を通じて勉強になることばかりでしたが,特に日本における医療や年金,運転免許の番号の発展を分析した1章の3節には感銘を受けました。それぞれの分野において一定の統合が図られる契機があり,それには事務の膨張や行政の電子化が関わっている,という議論です。私自身,番号制度に関心を持つ中で,これらの番号についても考えることがありましたが,本書で批判されているような,分散的な性格を過度に強調するような発想があったことを否定できません。ただ他方で,それぞれの政策分
大阪府知事・大阪市長が辞職し,2019年4月の統一地方選挙にあわせて選挙が行われることになりました。辞めた知事が市長に,市長が知事に立候補するということで「クロス(ダブル)選挙」と呼ばれることがあるようです。やってる研究上,私自身もこの件についてしばしば取材を受けるんですが,お話していることが担当の記者さんレベルではよく伝わっているものの,まあなんかほとんどボツになったりするみたいなので,こちらの方に掲載しておきたいと思います。 まず「どう思いますか?」と聞かれるんですが,まあこれまでに維新がやってきたことを考えると,こういう手法を取ることについて不思議は全くないと。法律で明確に禁止されていないことについては基本的に選択肢に入れていると思いますし*1,それについてはあんまり躊躇がない印象だと思います。それが望ましいかどうかと言われると別問題で,個人的にはアンフェアだと思います。その理由は,
関西学院大学の善教将大先生から『維新支持の分析』を頂きました。どうもありがとうございます。先週,山下ゆさんのブログでバズってましたが,本当にいい本だと思います。私の著書や論文もいろいろと引用していただいて感謝するところです。 内容は,まあ山下ゆさんが上手にご紹介されている通りですが,大阪維新が国政ではそんなに支持されない一方で地方(大阪)では強く支持されてきたこと,そしてそれにもかかわらず2015年の住民投票で敗れたことについて説得的な説明を与えているものだと思います。そのポイントはやはり両方を一緒に扱っていることでしょう。住民投票の直後にその結果をシルバーデモクラシーとか地域格差とかそういうもので説明しようとする話は色々ありましたが,まあ非常に僅差なのでそんなざっくりとした説明ではなかなか有効になりえないわけです。それに対して本書では維新が(国政とは違って)地方で継続的に支持を受けてきた
2月末に予定されている沖縄県の県民投票が非常に難しい状況になっている。地方制度と住民投票のそれぞれについて研究をしてきた身からするとややこしいけど非常に興味深いところでもある。 事実関係でいうと,2019年沖縄県民投票 - Wikipediaが端的にまとまっている 市民グループ「『辺野古』県民投票の会」が2018年5月、県民投票に向けた署名集めを開始。9月、必要数の約2万3千を大幅に上回る92,848人分を集めて直接請求を受けて、沖縄県が沖縄県議会に提出し、10月26日に可決、10月31日に公布された住民投票条例に基づくものである。条例では公布の日から起算して6ヶ月以内に実施することが定められており、告示日を2019年2月14日に、投開票日を2月24日に設定した。 この住民投票に関する補正予算案が、沖縄県市町村の12月議会において提案されたが、一部市町村議会で予算案が否決。全市町村で実施で
埼玉大学の宮﨑雅人先生から,『自治体行動の政治経済学』を頂きました。どうもありがとうございます。地方財政の非常に緻密な分析をされている本で,ここのところ少し地方財政の勉強をさぼってる今の私にはなかなか難しくて時間がかかったのですが(苦笑),非常に面白かったです。本書のメッセージを一言でいえば,一般財源こそが自治体の裁量行動の肝であって,地方自治体が国庫負担金や地方債を通じてレヴァレッジをかけるかたちで規模の大きな財政支出を行うことが,長期的に地方財政のあり方を変えていく,というものでしょうか。 より具体的に本書の構成について言えば,まず第2章と第5章で特に歳入面における制度的拘束が厳しいことが論じられていて,その拘束を前提としつつ,中央政府は地方自治体の歳出を補助金を通じて誘導することが論じられています。それだけだと中央政府が非常に強い統制を行っているように見えるわけですが,地方自治体は残
このたびミネルヴァ書房から『新築がお好きですか? 日本における住宅と政治』という本を上梓しました。何か研究書っぽくない変なタイトルですが*1,英語タイトルも同時に考えていて,そちらの方はNeophilia? Housing and Politics in Japan ということになっています(一応目次の最後に書いてあるんですが,たぶんすごく分かりにくい)。Neophiliaというのは「新しいもの好き」みたいな意味で,まあ要するに日本人は新しいもの好きだから新築住宅を買うのか?-いや必ずしもそんなことはないだろう,というかたちで議論を展開していくことになります。じゃあなぜ日本は諸外国と比べて中古住宅よりも新築住宅が多いかといえば,それを促す制度が強固に持続してきたからだ,というのが本書の主張になります。政府の住宅に対する補助や都市計画を通じて,人々が中古住宅や賃貸住宅よりも新築住宅を購入しや
京都大学の待鳥聡史先生に『民主主義にとって政党とは何か』を頂きました。ありがとうございます。政党についての歴史的・実証的研究を踏まえたうえで,日本を対象に戦前から現代にかけてその果たしてきた機能を確認し,将来の政党の役割を論じています。こういう大きな見取り図のもとで議論されるのはさすがだなあと思いました。政党については政治理論の研究者による議論は必ずしも多くないと思いますが,実証研究に関心を持っている側から政党についての政治理論(たとえば「情報縮約のための政党」とか)が提起されているわけですから,ぜひ応答(?)を読んでみたいものだなあと思ったところです。 しかし戦前の政党政治から議論するというのはなかなか大変だったと思います。私自身もいつか戦前の地方政治の話をしてみたいと思ってるのですが,地方になると結構気の遠くなるような話で…。本書だと,元老の役割とか議院内閣制じゃなかったこととか,政治
與那覇潤先生から『知性は死なない-平成の鬱を超えて』を頂きました。與那覇先生とは、以前に東洋経済の連載でご一緒して以来ですが、最近少し体調を崩されているということを人づてにお聞きして心配しておりました。それで出版されてから電子版で拝読していたのですが、大学にもお送りいただいていたようです。本書はその体調を崩された原因-うつ病-についての闘病記でありつつ、大学や社会の問題について鋭く批評する作品となっています。とりわけご闘病のところについては、うつ病という病気について私自身がいくつか根本的な誤解をしていたと分かったことも含めて大変勉強になりました。 大学や学問について書かれていることも,当事者のひとりとして身につまされる思いを感じながら読みました。相対的に高齢の「進歩的な」教員についての見方は私も近い感覚を共有しているように思いますし,幸か不幸かたまにマスメディアで機会を頂いて「論壇ごっこ」
ちょっと東京に戻ったときに,日本経済新聞社の清水真人さんから『平成デモクラシー史』を頂いておりました。ありがとうございます。あとがきに書かれている問題意識にもありましたが,特に民主党政権までのあたりについては,大きな枠組みをもとにこれまでのお仕事を再構成されていたようなところもあると思います。その中でも,個人的には民主党政権がどういう意思決定プロセスを取るべきだったかという議論が面白かったです。本書の中では「ドイツ式」というような方法の可能性が議論されていましたが,議員(と国会)の自律性を極端に高めるわけでもなく,さりとてイギリスのように政党規律で押し通すのではないようなやり方を考える必要があるのだと思います。このあたりは,清水唯一朗さんが博論をもとにした本で論じられていた戦前の話とも連続するところなのだと思いますが,制度化を考えるとなかなか簡単な話ではないんだろうなあという感想を持ったと
大佛次郎論壇賞を受けたことで,先日朝日新聞に割と長い寄稿を行う機会を頂きました。これまでも同じ朝日新聞の「耕論」欄や日本経済新聞の「経済教室」欄で割と長い寄稿の機会を頂いて,地方議会の選挙制度の問題点について触れることがありましたが,残念ながら具体的にどういう案があるかということに触れるほどの紙幅はなかなかありませんでした。ただ先日「経済教室」欄にそのようなことを書いたこともあり,今回はせっかくなので提案についてなるべく具体的に書いてみることができました。基本的には,2015年に『地方議会人』という業界誌(?)に書いたものを縮小したものです。より具体的にはこちらをどうぞ。校正前原稿です。 具体的に非拘束式の比例制を導入してはどうか,と書いたこともあり,大変ありがたいことに,ツイッターで見る限りですが当事者である地方議員の方からも反応を頂きました。検索で確認できた範囲でのコメントとしては,地
総選挙が終わり,衆議院だけでも自民党・公明党の三連勝(しかも大勝!)という結果に終わった。2012年はともかく,2014年と2017年は選挙前から広く予想されていた通りの結果となり,関心は三分の二を取るのかとか野党でどこが相対的にマシか,というようなところに限定されていたのではないかと思う。政権党としては,あらかじめ勝負の見えてる選挙をやる方が楽だという感じはあるかもしれないが,実はそれってかなり危険な話だと思う。選挙自体が「フェアなゲーム」じゃないとみなされると,政権自体の正統性が揺らいでしまって,何を言っても反発を受け,あるいは嘲笑されることもあるかもしれないからだ。そうなると政権としては,(選挙でちゃんと正統性を調達できないので)反対者に対して無理やりにでもいうことを聞かせるような行動を取らざるを得なくなるかもしれない。今もそういう兆候はあるように思うし,そうなってくると正統性の不足
このたび千倉書房から『分裂と統合の日本政治』を上梓しました。『地方政府の民主主義』以来二冊目となる研究書ということになります。実証研究の部分である2章から7章までは,主に大阪市立大学に在籍していたときに書いたもので,それをまとめ直したものになります。大阪大学にいた2014年に,1章のもとになった原稿を比較政治学会で報告させていただいて,まとめる道筋は立てていたのですが,思いのほか時間がかかってしまいました。ホントはこの本を書いたうえで,『民主主義の条件』につなげるつもりだったのですが。 元の論文は地方政治の色彩が強かったように思いますが,まとめ直す過程で中央地方関係を意識して整理したつもりです。中央政府の政治的競争とは異なる地方政府に独自の政治的競争を扱った前著の一番最後で, 日本においても首長のポストとそれをめぐる政治的競争が重要になる中で,地方政府における政治的なアクターの行動が,中央
森友学園につづいて加計学園の話が出てくる中で,共謀罪・テロ等準備罪の話(少なくとも海外から眺めていると)すっかり後景に退いた感がある。しかし,刑事法を専門にされる慶応義塾大学の亀井先生が精力的にブログにまとめられているように,刑事法の観点から様々な論点や疑問点が出されるのは自然だが,政治学・行政学の観点からも興味深い論点がいくつか存在するように思われる。 共謀罪・テロ等準備罪の重要なポイントのひとつは,犯罪が組織的に計画されるものを処罰するということである。詳細は亀井先生のこちらのエントリに当たっていただきたいが,法案の6条の2では,「組織犯罪集団」が「団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第3に掲げる罪を実行することにあるものをいう」と定義されている。じゃあその「団体」とは何ぞやと言えば,「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって,その目的又は意思を実現する行為の全
塚田穂高先生に『徹底検証 日本の右傾化』を頂きました。どうもありがとうございます。もう3刷りなんですね!主に社会学者・政治学者が書かれたところと,塚田先生がご執筆のところを中心に拝読いたしました。ジャーナリストや運動家の方々のところも興味深いのですが,読んでる印象としては,少し結論を急ぎ過ぎていて,ちょっとついていけないところを感じたのも事実です。14章で右派の「陰謀論」について書かれているところがありますが,「自説に対する反論があること」と「自説が広く受け入れられないこと」が陰謀論の特徴であるとすれば,それがそのまま当てはまるような章もないわけではないように思ったり…。しかしそういった方々も含め,多様な角度から議論できる執筆者を広く求めて一冊の本にされた塚田先生のご尽力はとても優れたものだと思います。 個人的には,竹中先生の議論(第6章)に近い印象を持っています。つまり,政治家の方は先走
一橋大学の中北浩爾先生(と中公新書編集部)から『自民党』を送っていただきました。どうもありがとうございます。ストレートなタイトルからも非常に意欲が伝わってきますが,選挙制度改革以降の自民党について,最近の研究成果を踏まえて書かれている,新たなスタンダードになりうる本だと思います。個人的にもいろいろと新しい知識が広がったと思いますが,特に政策過程を扱った第3章と地方組織を扱った第6章が勉強になりました。 自民党というと,中北先生の前著である『自民党政治の変容』も含めて,中選挙区時代の組織構造について説明されることが多かったと思います。しかし本書では,以前の派閥,後援会,族議員・政調会を中心とするような自民党の組織構造が,執行部への集権を軸にどのように変化したかを描き出しています。重要なのは,変化の過程にあることを論じているのではなくて,ある程度固まったかたちとして現在の(「一強」の)自民党の
紹介を読んですぐにKindleで買いました。非常に勉強になったし,何より読んでいて面白いと思えるところが優れた本だと思います。題名には煽りがあるし,力み過ぎてるところもあると思うし,また内容についても鈴木先生じゃない人が見たらそんなにいいもんじゃないと別のことをいう可能性はあるかもしれません。でも,鈴木先生は特別顧問を務められた間での行政や地域の政治過程というのをよくご覧になっていて,非常に体系的な形でまとめられているなあという印象を受けました。知らないことばかりで驚きも多かったですが,個人的に特に面白かったのは,警察の話が出てくる16章と,まちづくり会議をやっている18章です。あと,あいりん総合センターの移設検討のときに,初めての検討会の直前で毎日新聞がリーク記事を発表したという話(のちに訂正があったとか)。 一貫して本当にすごいなあと思ったのは,関係者の信頼関係がなんとなく浮かんでくる
4月に入って,さまざま研究業績を挙げられている先生方から一般向けに書かれた新書などを頂いておりました。理由はよくわからないのですが今年はなんだかそういう本を頂くことが多く,非常に勉強になる反面積読が増えるという…。しかし研究者の業界で閉じがちな議論が,受け手である社会の方に向けて発信されるというのは非常に良いことなんだと思います。書かれている先生方も,狭義の専門というのとは少し違うところまでいろいろと踏み込んで書かれていて,もちろん批判が来ることもあるんでしょうが,だからこそ刺激的なことが書かれていて読む方としても面白いのはうれしいですね。 まず牧原出先生からは『「安倍一強」の謎』を頂きました。ありがとうございます。民主党政権から自民党政権への政権交代のあたりから現在に至るまで,「なぜ安倍政権はこんなに強くなっているのか」「なぜ内閣官房・内閣府の改革が繰り返されているのか」「なぜ安保法案が
イギリスの国民投票の結果には驚いた。ご多分に漏れずまあなんだかんだ言って残留派が多数を占めるだろうと思ってたので。よくわかんないけど,まあ残留になるだろうと思ってキャメロン首相に対する「お灸」のつもりで離脱に投票したっていう人もいたりするんじゃないだろうか。政権が変わらないことを前提とした政権評価であるSecond-order electionのように投票したら,実は政権そのものを変えてしまうFirst-order electionだった,みたいな。 国民投票については,日本でも憲法改正関係で議論されているし,昨年の大阪での住民投票も思い起こさせる。「他に影響がある決定を狭い領域でやっていいのか」とか論点はいろいろあるだろうが,その領域の代表としては,当該領域の住民の意思表明を尊重すべきではないか。言い方を変えれば,そこで住民の意思に近い政党が本来選ばれるべきだった→政権を握るべしというこ
4月14日以降に発生した熊本地方の地震は本当に深刻な状況のようで,被害にあわれている方が不安な状態から少しでも脱せられることを願うとともに,支援に当たられている方のご無事を祈っています。このようにかなり規模の大きい揺れが連続して,建物へのダメージを蓄積させていくというタイプの地震はあまり想定されてこなかったのではないかと思いますが,都市計画などを考えるときに新たな想定が必要になるのかもしれません。 さて,森千香子先生の『排除と抵抗の郊外』を非常に興味深く読みました。はじめは住宅政策が中心の話なのかなと思って手に取ったのですが,メインはフランスにおけるエスニシティの問題というべきか。共和国としてエスニシティの問題は存在しない(たとえば民族別の統計をとるようなことも禁止されている)というフランスにおいて,高度経済成長期に入ってきた移民やその家族たちをどのように包摂しているか(していないか)とい
もう年末ということになりました。この数年続けている博士論文をもとにした著書の紹介の季節ということで。もともとは2010年に日本政治関連の博論出版が相次いだのを見てそれを紹介しようと思って始めたのですが,当時と比べると最近は現代日本政治関係の博論出版がちょっと減ってるのかな,という感じがします。その中で唯一(?)多いのは地方自治関係だと思いますが,辻陽『戦後日本地方政治史論』,稲垣浩『戦後地方自治と組織編成』,ヒジノ・ケン『日本のローカルデモクラシー』といった本が出ていました。 戦後日本地方政治史論―二元代表制の立体的分析 作者: 辻陽出版社/メーカー: 木鐸社発売日: 2015/03メディア: 単行本この商品を含むブログ (5件) を見る戦後地方自治と組織編成―「不確実」な制度と地方の「自己制約」 作者: 稲垣浩出版社/メーカー: 吉田書店発売日: 2015/04/01メディア: 単行本こ
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