シチリア島 39 掃除婦人
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青いタイル/
コン・コン・コン...
ホテルの掃除係のひとがバケツに一式を詰めて戸口にやってきた。
「ボンジョールノ」
私は用事のあるふりをして部屋に残り、ぶらぶらしている振りをしながら描く。
どこに行ってもホテル掃除を見るのがすきなのだ。
彼らは毎日毎日短時間で多くの部屋をつむじ風のように掃除して回る、いわば掃除のプロで、そのやり方は家庭以上で勉強になるから、見ていて愉しい。
大体入り口のフロント係は笑顔まで商売勘定に入っているので、どこの国でもその人の素の感じにはほど遠い。
客室清掃係はその国の主婦層であることが多く、シーツを美しく張るために二人か三人一組のチームで動いている。見ていると、その国、土地土地の、普通のひとの平素の顔や空気を感じることができる。
ホテルのバックヤード、裏側を見たければ、清掃係にそっとついていくとよい。
よいホテルになればなるほど、そこには生活感がない。しかし掃除婦人たちには帰る家々があり、その先きの家庭の香り、身振りや話し方の地域性を感じることができる。それはその土地に来たのだという実感でもある。
洗面所の鏡に午の地中海が映っている。
シャワールーム/
このホテルは内装がどの部屋も少しずつ違っていて、ここは白とブル—が基調。
白い天井に褪せた青の柱が渡してある。木と石で作られている。
トイレの横に大きな丈の低い用途不明の水たまりがあり、(子ども用のトイレ?)と思ったが、これはビデで、女性のあそこを洗うためのものである。
ウィキペディアによると、ビデはイタリアから始まって、南欧では設置が義務づけられているといふ。
そういえばシラクーサのホテルにも付いていたなあ。
車谷長吉は、便所のことを「おトイレ」などと云う奴に呪いあれ、と記していた。(『世界一周恐怖航海記』文集文庫)
ちなみにこの婦人は、便器を拭いた雑巾で何の躊躇もなく、歯ブラシの載った洗面台を拭いていたので、コップは後で濯いだのだった。
隣のインド人家族の部屋を掃除していたマダム/
階段や部屋には褪せた植物画がかけられているが、すべて複写である。
日中は外が暑いが、建物の中は石造りのため少しひんやりとしている。
一階は吹き抜けで、石を踏む度タ、タ、タという乾いた軽快な音がする。
落ち着いた色調がとても美しい。
青いタイル/
コン・コン・コン...
ホテルの掃除係のひとがバケツに一式を詰めて戸口にやってきた。
「ボンジョールノ」
私は用事のあるふりをして部屋に残り、ぶらぶらしている振りをしながら描く。
どこに行ってもホテル掃除を見るのがすきなのだ。
彼らは毎日毎日短時間で多くの部屋をつむじ風のように掃除して回る、いわば掃除のプロで、そのやり方は家庭以上で勉強になるから、見ていて愉しい。
大体入り口のフロント係は笑顔まで商売勘定に入っているので、どこの国でもその人の素の感じにはほど遠い。
客室清掃係はその国の主婦層であることが多く、シーツを美しく張るために二人か三人一組のチームで動いている。見ていると、その国、土地土地の、普通のひとの平素の顔や空気を感じることができる。
ホテルのバックヤード、裏側を見たければ、清掃係にそっとついていくとよい。
よいホテルになればなるほど、そこには生活感がない。しかし掃除婦人たちには帰る家々があり、その先きの家庭の香り、身振りや話し方の地域性を感じることができる。それはその土地に来たのだという実感でもある。
洗面所の鏡に午の地中海が映っている。
シャワールーム/
このホテルは内装がどの部屋も少しずつ違っていて、ここは白とブル—が基調。
白い天井に褪せた青の柱が渡してある。木と石で作られている。
トイレの横に大きな丈の低い用途不明の水たまりがあり、(子ども用のトイレ?)と思ったが、これはビデで、女性のあそこを洗うためのものである。
ウィキペディアによると、ビデはイタリアから始まって、南欧では設置が義務づけられているといふ。
そういえばシラクーサのホテルにも付いていたなあ。
車谷長吉は、便所のことを「おトイレ」などと云う奴に呪いあれ、と記していた。(『世界一周恐怖航海記』文集文庫)
ちなみにこの婦人は、便器を拭いた雑巾で何の躊躇もなく、歯ブラシの載った洗面台を拭いていたので、コップは後で濯いだのだった。
隣のインド人家族の部屋を掃除していたマダム/
階段や部屋には褪せた植物画がかけられているが、すべて複写である。
日中は外が暑いが、建物の中は石造りのため少しひんやりとしている。
一階は吹き抜けで、石を踏む度タ、タ、タという乾いた軽快な音がする。
落ち着いた色調がとても美しい。