アルマーニ事件
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外套/シリウス/36・4×51・5センチ
二月の或寒い日、叔父さんが亡くなった。
私は濃紺のコオトしか持っていないので、前日通夜へ行った母の黒のを借りて、横なぶりの雪の中、会場へ向かった。
一通りの式が終わり、棺の中の透き通ったような叔父さんの周りを、皆で花で埋めていく。
きれいな御顔にそっと触れた。お別れである。
食事の後、(人はこんな時にも笑ったりして食べたり飲んだりするのだ。他の国では、お祭りの様に死者を送る所もある)
焼き場へ。
あっという間に骨になった姿に、全員が立ちすくむ。前日まで食事を共にしていた家族の顔など、闃として、直視できたものではない。こんな決定的な局面で、人は空ろな表情になる。ここに居る全員が、私も含め、数十年後には必ず同じ骨になる。
なぜか唐突に、原発のことを思った。
人はこんなにも脆き骨となるのに、どうして何万年と消えない放射能を出す、手に大きく負えない原発などを造ってそれがまだ止められないのだろう。どれほどの自然界の犠牲の上に生きているのだろう。
「哀れ人間の子」
棟方志功の言葉が浮かぶ。
クリスマスローズ/
二日後、息子さんから電話があり、
「ぼくのアルマーニのコオトがないのですが」と言う。
「ぼくのでないコオトがあって、中にICOCAが入っているのですが」
はたして、犯人は私であった。
あの日、暈りしていたのか、180センチの男性のコオトを着、その足で帰りに友人宅へ行き、飯を喰い、手も裾もダブダブのまま電車に乗り換え、椅子で眠り、雪の中を帰って、一度もおかしいと感じなかったのである。
ただ、街路灯が映し出す左腕の黒い生地の上に、礫のように雪が積もって、一朶となっていくさまを自転車を漕ぎながら眺めていた。
取り替えに来た息子さんは、内心はよほど驚いた様子で小さな外套と自分のを見比べ、
「着たときに変だと思わなかったの」
と、尋ねた。
靴/Waterford/F4
外套/シリウス/36・4×51・5センチ
二月の或寒い日、叔父さんが亡くなった。
私は濃紺のコオトしか持っていないので、前日通夜へ行った母の黒のを借りて、横なぶりの雪の中、会場へ向かった。
一通りの式が終わり、棺の中の透き通ったような叔父さんの周りを、皆で花で埋めていく。
きれいな御顔にそっと触れた。お別れである。
食事の後、(人はこんな時にも笑ったりして食べたり飲んだりするのだ。他の国では、お祭りの様に死者を送る所もある)
焼き場へ。
あっという間に骨になった姿に、全員が立ちすくむ。前日まで食事を共にしていた家族の顔など、闃として、直視できたものではない。こんな決定的な局面で、人は空ろな表情になる。ここに居る全員が、私も含め、数十年後には必ず同じ骨になる。
なぜか唐突に、原発のことを思った。
人はこんなにも脆き骨となるのに、どうして何万年と消えない放射能を出す、手に大きく負えない原発などを造ってそれがまだ止められないのだろう。どれほどの自然界の犠牲の上に生きているのだろう。
「哀れ人間の子」
棟方志功の言葉が浮かぶ。
クリスマスローズ/
二日後、息子さんから電話があり、
「ぼくのアルマーニのコオトがないのですが」と言う。
「ぼくのでないコオトがあって、中にICOCAが入っているのですが」
はたして、犯人は私であった。
あの日、暈りしていたのか、180センチの男性のコオトを着、その足で帰りに友人宅へ行き、飯を喰い、手も裾もダブダブのまま電車に乗り換え、椅子で眠り、雪の中を帰って、一度もおかしいと感じなかったのである。
ただ、街路灯が映し出す左腕の黒い生地の上に、礫のように雪が積もって、一朶となっていくさまを自転車を漕ぎながら眺めていた。
取り替えに来た息子さんは、内心はよほど驚いた様子で小さな外套と自分のを見比べ、
「着たときに変だと思わなかったの」
と、尋ねた。
靴/Waterford/F4