糖質制限

番組では、糖質制限ダイエットを実行してダイエットに成功した話と、体重も血糖値も落ちたが、筋力・思考力が落ちたという話が紹介されていて、後者の原因は、絶対的カロリー不足であると説明していた。
これは糖質制限では常識とされることで、糖質を減らすと同時に、たんぱく・脂質はそれに見合うだけ増やす必要があるということであり、多くの書でも注意されていることである。件のダイエットで不調に陥った人はちゃんと本を読んでいたらしいのだけれど、ダイエットに熱心な人は、どうしても食べすぎることに抵抗が強くなるようだ。
私はダイエットを求められるような体型ではなく、今のところ、糖質制限を手放しで認めるわけではないし、実行しようというつもりもない。だけど、糖質制限の考え方にはちょっと関心を持っている。
それは、少し前に宗田哲男「ケトン体が人類を救う~糖質制限でなぜ健康になるのか」という本を読んで、なるほどと腑に落ちることが書いてあったから。

そうした症状に陥った妊婦の苦労、不安が書かれ、それに対する今までの治療法に対する批判、糖質制限を推奨することに対する伝統的医療者から受ける理不尽な攻撃などが書かれている。
同書では、糖質制限の有効性の説明のため、糖質とインシュリン、肥満の関係について、いろいろ解説されていて、ふぅ~ん、そういうことなのかな、と思いながら読んでいたのだが、そういわれればそうかと腑に落ちる話が書かれていた。それは、
鳥の卵には糖質はほとんど含まれていないが、きちんと雛が育つ
実際、食品成分表を見ると、生鶏卵100gあたりの炭水化物は0.3gであり、ほとんどが蛋白質と脂質である。鶏卵だけでなく、魚卵でも同様である(ヘビやカエルの卵は食品成分表にはないようだ)。
生物進化で、人類あるいは哺乳類でも良いが、胎生になったとたん、発生に必要な栄養素の構成が大きく変わるとは考えにくい。人間の胎児の栄養には糖質がたくさん必要だというのは一体、どういう根拠があったんだろう。
前掲書では、胎児の臍帯の血液を調べたところ、糖質は少なく、ケトンが驚くほど高濃度であったと書かれている(それまで調べた人がいないというのも信じがたいけど。調べんと言うてたんか)。
もちろん人体に糖質が不要というわけではないが、その量は多くないそうだ。NHKの番組では、ミトコンドリアが脂質をエネルギーとして使えることは説明されていたが、前掲書には、あたりまえだがミトコンドリアをもたない細胞、たとえば赤血球などは糖質が必要であると書かれている。(もっとも糖質を摂取していないと糖新生ということも起こるらしいが)
また、最近まで脳が栄養として使えるのは糖だけだと考えられていたが、NHKの番組でも指摘されていたように、脳はケトンでも動作するという。
脳の栄養は糖だから、朝起きたらすぐに炭水化物をとるべきであるという話も聞いたことがある。脂質が脳に利用可能なケトンになる時間の問題もあるから、この話の有効性が直ちに否定されるわけではないと思う。
これは典型的なものだけれど、我々は三段論法を重ねられると、論理的で正しいと考えがちだが、実はその一つ一つの真偽があやしいものや、前提条件が違っているものが含まれていて、実は全くのデタラメだということは結構ある。専門家もそうした間違いをするというか、専門家ゆえに一層思い込みが強くて修正がきかないということもあるようだ。
前掲書によれば「三大栄養素(たんぱく、脂質、炭水化物)をバランス良く」という栄養学も実は何の根拠もなく信じ込まれていることなのだそうだ。(「バランス良く」って、その尺度は何?)

以前、何かの本で読んだ覚えがあるが、カロリーのない人工甘味料が体に悪いのは、甘味を感じてもエネルギー不足の状態になるため、甘味に対する感受性が落ちて、さらに大量の甘味を求めるようになるからだ、というような説明があったけれど、これもかなりアヤシそうだ。
その一方、あれほど悪者扱いされていたコレステロールも、今や健康指標として無意味とされ、新しい健康診査では使われなくなっている。
医学の世界は、健康に良い(悪い)習慣が、突然、健康に悪い(良い)習慣に、正しい(間違った)治療法が、突然、間違った(正しい)治療法に変わる世界らしい。
昔、タバコはコレラの特効薬と信じられていたことがあったらしい。今では、あらゆる病気の元凶である。これが再度、体に良いに変わることは…………やっぱり、ないだろうな。