「大掴源氏物語 まろ、ん?」

IMG20240209145436-crop.jpg 小泉吉宏「大掴源氏物語 まろ、ん?」について。

「絵巻で楽しむ源氏物語」には、毎号最後のページに、源氏物語といろんな形でかかわりあっている人によるちょっと長め(1ページ)の連載随想というのがある。

このまんがの作者小泉吉宏氏もその1ページに登場していて、それで本書「大掴源氏物語 まろ、ん?」というものの存在を知った。

ただ光源氏を栗のキャラクターにした絵は、なんとなく見覚えがある。新聞・雑誌の書評とかでとりあげられたていたのを眼にしたのかもしれない。


新しい本もまだ手に入るようだが、ハズレかもしれないと思って(失礼)、古本を探して、メルカリで600円で出品されているのを発見、500円のクーポン(どうやって手に入れたのか記憶がない)を使って、100円で購入した。

カバーの縁が少しワカメ状になっているけれど、それ以外は全く問題なく、本自体は綺麗な状態だった。

クーポンを使ったとはいえこれが100円とは良い買い物だ。メルカリにはまだまだ700円程度で出品されているから、関心のあるかたはどうぞ。


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一帖が8コマ・見開き2ページーこれは「輝日宮」(後述)の部分
五十四帖の各帖をまんが8コマ・見開き2ページにおさめるというから全体で108ページ+αかと思っていたが、物語の理解を助けるための解説―物語の図解、寝殿造や装束など当時の様子など―が随所に挟まれ、全体では260ページになっている。

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平安風俗も丁寧に説明
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物語中の和歌も紹介される

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物語の理解を助ける図解
なかでも装束については、絵巻を参考にと思っていたところが、多くの絵巻は桃山時代の制作で、平安期のものとは違うことがわかり、それを再現するという手間がかかったそうだ。

前に里中満智子「古事記」の書評にも書いたけれど、歴史物を描く漫画家さんは大変だ。


さて内容についても一言。
一帖を見開き2ページにおさめる、というのは大変な作業だと想像するけれど、出来上がった本書を見ると、見事だと思う。
たしかに各帖の流れ・事件がきっちりおさえてあると思うし、登場人物の「表情」も物語の雰囲気を伝えていると感じる。

なにより、源氏物語では一帖の中に異なるエピソードが複数入っていたり、流れが複数の帖に分かれていたりするので、つかみきれなかった話の流れが、本書ではコンパクトにまとめてあるので、全体を俯瞰する視点が持て、話の整理ができる。

光源氏は栗のキャラクターで、頭中将は青い豆で描かれるが、その血縁関係(遺伝)が絵に反映する。つまり夕霧はやはり栗様、柏木は青い豆のキャラクターである。そして薫はやはり血はごまかせないと、青い豆のキャラクターで描かれる。
また、藤壺、紫の上、玉鬘はそれほど血縁が濃いわけではないが、光源氏が藤壺の面影を感じるという設定だから、この三人の顔はほぼ同じに描かれる。
こうした工夫も物語の理解を助けてくれる。

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そして「創作」部分が一つある。
本書では「桐壺」の次に「輝日宮」が置かれている。
原作にはなかったかもしれない「輝日宮」の帖

『源氏物語』を知っている人はなじみのないタイトルに「おや?」と思ったかもしれない。そう、「輝日宮」の帖は、通常の『源氏物語』には入っていない。ただ鎌倉時代の藤原定家の注釈書『源氏物語奥入』に「一説には 二 かかやく日の宮この巻なし」とある。一説によると第二帖「輝日宮」は、初めはあったらしいが、定家の時代にすでになかったという意味だ。今では片鱗すら知られていない。それをここであえて描いたのは、藤壺とまろの最初の密事や、六条御息所とのいきさつを明確にしておいた方が、後の物語展開が自然になるからである。
なお、この一帖を描くにあたって、大野晋博士の『古典を読む・源氏物語』(岩波書店)を参考にした。

とある。
そしてここに重大なシーン(光源氏が藤壺と最初に契る)が描かれている。
このことも「大掴」にはふさわしい、作者の意図が形になったものだろう。

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森の下草老いぬれば 駒もすさめず 刈る人もなし
ところで、源氏物語のまんが化といえば、大和和紀「あさきゆめみし」というのがある。妹に借りてはじめの何冊かは読んでいて、これはこれで面白かったし、さすが少女漫画、イケメンに別嬪。源典侍ですら、色っぽく描かれていた(と思う)。
これは作者が源氏物語をビジュアル化したもので、独自のストーリー世界が展開されていると思う。

対して、「大掴源氏物語」は、源氏物語そのものを解説するものだと思う。どちらが良いということではない。製作のねらいが異なるのだろう。

ただ思う、このまんがを読んでも、源氏物語を通して読んだことがなかったら、あまり面白くないのではないだろうか。
物語を通して読んでいてこそ、ああそうだったとか、この話はこっちへ続くんだったとか思いながら楽しめると思う。
「おわりに」に、
 この本を読んだ方々が、『源氏物語』をまず現代語訳からでも読みたくなってくださったら幸いです。
とあるけれど、読んだけどもうひとつ全体が掴み切れないという人(私など)にお薦めである。

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