偽物語 『かれんビー 其ノ漆』
『かれんビー 其ノ漆』
≪あらすじ≫
“囲い火蜂”の毒も癒えぬまま家を飛び出した火憐を追う暦は、忍の力も借りてようやく火憐を発見した。力尽くでも通るという火憐と、力尽くでも止めると決めた暦。互いのぶつかり合いに対して柔道黒帯を持つ火憐の前に体術では勝負にならない暦。しかし、妹に何度打ちのめされても決して暦は倒れることはなかった。
「正義は強くなくちゃいけないなら、勝ったヤツが正義ってことで良いだろ」
「その考えは危険だよ、火憐ちゃん」
強いことが正義だと言う火憐に苦言を呈す暦。だが「正義は強くなくちゃいけない」と言ったのは暦だと指摘する火憐に、彼は「強さとは意思の強さだ」と反論する。いつでも他人の為に動いている火憐には自分の意思などなく、他人に動く理由を預ける火憐には責任を取ることも出来ないのだ、と。
「誰にも迷惑はかけてない」
「いつだって迷惑かけられている」
火憐の最後の反論を一蹴した暦は、抱きとめた火憐に最後の一言をかける……「偽物が悪いなんて一言も言ってねぇだろ」と。
火憐を説得し、火憐からようやく正式に「後を任された」暦は火憐を実家に連れ戻してからひたぎと合流する。どこかのデパートの屋上。そこが、ひたぎがセッティングした貝木泥舟との待ち合わせ場所だった。
そこには相変わらず不吉な格好をした貝木がいて――
≪感想≫
どう考えても最初の1/3がメインだったでござるの巻(笑
まぁ、残りの2/3は泥舟とのやり取りだったわけだが、そこにはコレといって大したモノはなかったわけで、物語としてのクライマックスは最初の1/3の火憐とのやり取りだったわけだ。まぁ、劇中で火憐が口にしたように残りは文字通りの「尻拭い」でしかなかった、ということだ。
結局、暦は火憐に対して一度も手は上げてないんだよね、今回。実力差があってロクに反撃なんて出来なかっただけなのかもしれないが、「一度だって妹相手に本気で喧嘩なんてしてない」という“嘘か本当か”そんな言葉が如実に反映されたシーンだったと思う。
◆偽物=悪ではない
と言うことらしい。なかなか一般的にこの感覚は無いとは思うけど。
暦の火憐に対する論破シーンは個人的にここ数年のアニメ作品では屈指の論破シーンだったと思う。自分の持っている持論と暦の論破の軸となった主張が割と重なっていたこともあって、「言いたいことを主人公が言ってくれた」という妙に爽快感のあるシーンだった。
結局のところ、正義の味方は自己満足を受け止めることが出来ないとやっていけないということだ。正義の味方が「他人を助けたい」と言う想いや感情を否定するわけではなく、その想いや感情が究極的に突き詰めれば正義の味方自身のための行動であると甘んじて受け止めることが出来なければならない、ということなのだろう。
暦は火憐に「他人に動く理由を求めるのは意思が弱い」旨を語ったわけだが、個人的にそこはあまりそういう風には感じていないし、たぶん暦もそこを重要だと口にしたわけではないのだろう。別に自分の為に動こうが、他人の為に動こうがそこに大した差などない……極論を言えばそのどちらであったとしても、突き詰めれば所詮“自分の為”でしかないのだから、同じモノなのだ……それをちゃんと認識できているか否かと言う違いだけで。
それを理解しているか否かと言うのは、大きな境目なのかもしれない。火憐はそれを知らず、暦はそれを知っている。
そういう意味で暦が「自己満足と甘んじて受け入れられないなら正義の味方など口にするな」という言葉は凄く説得力があった。暦は割と自分のしている行動に対して「これは俺の自己満足だ」的な雰囲気を感じられるキャラクターだと思っているし、『化物語』での積み重ね亜があるからこそあの言葉には意味があったのだろう。
ただ、どちらかと言えばもう少し火憐に周りを見ることを暦には指摘して欲しかったなぁ、というのが本音ではある。実際のところ、「意思の強さ」で言うなら「私が負けを認めなければ負けじゃねぇ」と言ってた火憐の意思は相当のものだ(もちろん、その意思の根本的な発露が「自分」なのか「他人」なのかを履き違えているため、土台はグラグラに脆いわけだが)。だから暦には意思の強さの有無もそうだが、そうした視野の狭さはもっと指摘してあげるべきだったんじゃないかな、と。
泥舟も指摘していたように、相手と一対一で対峙したことが問題だったわけだから、暦が本当に指摘すべきはやっぱり本人は「誰にも迷惑をかけてない」ように思っているだけで、本当は一番身近な家族に「これ以上ない迷惑と心配をかけているのだ」と自覚させることだったように思えてならない。そして、正義の味方ならそもそも自分の一番身近な人に一番大きな心配などかけてはならないのだ、ということを……。
しかし、それでも暦としては伝えたいことは伝えられたのだろう。
「偽物が悪いわけじゃない」
最初に書いたようにこの感覚は普通薄いから難しいところではあるけれどね。でも、実際に世の中ってそういうものってことなのだろう。勧善懲悪、白黒、そんなどちらか一方なんてことは世の中あり得ないわけだ。偽物が悪いなんて誰も決めていない。例えば、ブランド物のアイテムの偽物が“悪い”のはその偽物のアイテムが悪いのではなく、それが偽物だと知りながら取り扱い利益を得るという詐欺行為が“悪い”のだ。
というと、まるでそれは詭弁のようにしか聞こえないのだけどね(苦笑
でも、偽物が必ずしも悪くないってことは、裏を返せば貝木が口にしていた「真実などない」と言う言葉に直結するのだろう。
◆真実なんてない
これを貝木がどこまでの意図と思惑で口にしたかは原作を読んでいない私にはわからないが、個人的には暦の「偽物が悪いわけじゃない」という台詞に繋がっているように思っている。
真実なんてない、とはどういうことか。
裏を返せばそれは、何を以ってソレを「本物(真実)」と見なすかなんて定まっていない、ということだと思っている。
例えば散々取り扱っている“正義の味方”。じゃあ、どんなスキルを有していればこれは本物の正義の味方だと言えるのだろうか? そんなことは決められるはずもないだろう。人それぞれに本物の正義の味方が持つべきスキルやステータスがあって、それは必ずしも一致するものではない。
暦の考える正義の味方と、ひたぎの考える正義の味方と、火憐の考える正義の味方と、貝木の考える正義の味方。
どれも“正義の味方”だけど、そのどれも絶対に一致しないはずだ。それぞれの考える正義の味方とそれに必要なスペックは多かれ少なかれやっぱり違うモノがあるはずだからである。
じゃあ、その状況で何を以って“本物”と言うことが出来るのか?
それに対する答えが「真実などない」だ。「真実=本物」だとも限らないのだけど(苦笑)、ここでは仮に「真実=本物」だと仮定して話を進めると、結局唯一無二の本物たる基準なんてこの世には存在しないということ。人それぞれの裁量によって真実はその姿や形、大きさを変えるものである。
ある意味、ここで真実は“正義”と言い換えることが出来るのかもしれない。正義なんて人それぞれ全く違う信念を基にして持っているもので、当然人それぞれ“正義”は千差万別なわけだ。つまり単純に“正義”と言ってもそれで統一された基準などないし、明確な線引きもないのだから、「真実などない=真実など人の数だけある」と。
もちろんその中でその人の数だけある“真実”や“正義”のクオリティというか性質の純度というか徳の高低というのは相対評価によって下されるべきものだと思うし、実際に貝木はそうやって人を判断し評価している節がある。
貝木は一般的な相対評価によって自分が一般的な“正義”的な感覚からは程遠いことを自覚しているし、そんな自分は正しき道から外れた者であると劣等感とも向かい合った上で受け入れてるし、その一方で自分の持っている“真実”感から重し蟹の怪異に掛っていた頃のひたぎを大きく評価していたわけだ。
こういうことを口にできる貝木は、まさしく火憐からすれば相性が悪かったと言える。自己満足の正義を受け入れることすら出来ない火憐が、自らの劣等感を受け入れつつ自らの持つ価値観で立ちまわれる貝木に討論で勝てる要素なんてまるでなかったわけだ……まして、詐欺師の暗示にあっさりかかってしまうようでは。
◆とまぁ、散々いろいろ書いてきたけど
『偽物』がテーマだったこの作品も、全11話の内7話が終了。概ね、この作品を通して語りたい『偽物』とは何だったのかというものを感じることが出来たわけだ。ここまで描きながら残り4話で何を描くのか、何を私たちに訴えかけてくるのかと言うのはとても楽しみである。
実はとても濃密な前半1/3(Aパート)だったが、個人的にはBパートのひたぎの台詞が好きだった。
「私は正義の味方じゃないわ。悪の敵よ」
あぁ、なるほどねと思ったw 確かにひたぎはこんな感じだ。
上でも書いたけど、世の中勧善懲悪で善か悪かのどちらかに割り振れるようなものじゃないわけだ。つまりひたぎの中で正義(善)は暦で、悪は貝木で、そして自分自身はそのどちらにも成り得ないしそのどちらでもないのだと認識しているということだ。
「悪の敵≠正義の味方」という認識を持っている辺り、個人的にひたぎの凄いところだと思う。そう言われればそうだよなーと思う。「悪の敵が悪」であることだって十分に考えられるわけだから。
こういう部分における“認識力”と言うのは、ひたぎ・真宵・忍辺りが作中ではトップクラスだろうなと感じる(まぁ、後の二人は生きて来た年数がそもそも違うわけだからその経験値もあるんだけどwww)。
そんなわけで、実はこの『偽物』を描いてきた本作のテーマってこの部分じゃないかと思わされるシーンが多い。つまり“認識力”だ。
無知は罪とも言われることもあるが、知識としての無知も罪だが認識としての無知(無自覚)もまた罪で、つまりちゃんと認識するって大切なことだってこと。散々取り扱ってきた“真偽”というモノゴトもそれを認識し見極めることも大切だが、それ以上にその先にある本質を認識することが重要なのだ。
だから暦は火憐を“偽物”と認識しながらそれを“悪いこと”とは認識しなかったわけだ。でも貝木に対して暦がどう認識したかは曖昧な部分もあるがでも、貝木は“偽物”でありそれを“悪いこと”と概ね認識したように見える。大切なのは“真偽”ではなく“本質”として、それをまずは認識すること。その後に認識したその本質を肯定するか否定するかそのどちらでもないかは、その各々が持ついろいろな要素で判断すべきなのだ。
要はちゃんと本質を“認識”出来ること――それも出来る限り広い視野を持って。そりゃそうだ。どんなに優れた認識力を持っていたとしてもその一点のみだったとしたら応用は利かないし、それ以外のシーンではまるで意味を成さないしわけだから。
だからここまでの『偽物語』でトラブルを起こすのは、視野の狭い火憐と知識はあるけど認識力に欠如する翼だったのだから。
もちろん、これは広義にいろいろなことに当てはめられてしまうので回答として優秀な回答ではないと自覚はしているが、「『偽物語』ってどんな作品?」と問われれば広義に「“認識力”を描く作品」って答えるかもしれない。それくらい便利な言葉ってことだけどね(ノ∀`*)アイター
さて、次回からは確か月火ちゃんメインだっけ? それとも1話くらい息抜き回入るのかな?(話数的にはそんな余裕はなさそうだが)
そうそう、これは余談だけど、屋上の床に映るひたぎの髪の影が良く動いていた。そのよく動いていた影の割に、その隣に映っていたポールの先の旗(?)みたいなものが全く微動だにしていない演出には意味があるのかなー、と思った。普通に考えれば、貝木の言動でひたぎの内面は波風立てられている描写で、実際には風なんて吹いていないという比喩的な表現のようにも見えたけど(暦の髪もそんなに風が強く吹いてうねってる感じは無かったし)。
まぁ、この辺りは明日起きて観返す余裕があったら確かめたい(笑
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