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2020/12/24

arret:上場時の有価証券届出書の虚偽記載を見抜けなかった主幹事証券会社の責任が認められた事例

最判令和2年12月22日判決全文PDF

事案は、東証マザーズに上場を果たした本件会社(エフオーアイ)の有価証券届出書に架空売上の計上があるなど虚偽記載があって、元引受契約を結んだ被上告人(みずほインベスターズ証券承継人)がそのことを見抜けなかったという場合に、本件会社の株式を取得した上告人株主が後に本件会社の上場廃止により被った損害の賠償を、金商法21条1項4号に基づき被上告人に求めたというもので、同条2項3号の免責の可否が問われている。

金融商品取引法21条の関係部分は以下の通りである。

 有価証券届出書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、次に掲げる者は、当該有価証券を募集又は売出しに応じて取得した者に対し、記載が虚偽であり又は欠けていることにより生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該有価証券を取得した者がその取得の申込みの際記載が虚偽であり、又は欠けていることを知つていたときは、この限りでない。
(1号〜3号略)
 当該募集に係る有価証券の発行者又は第二号に掲げる者のいずれかと元引受契約を締結した金融商品取引業者又は登録金融機関
 前項の場合において、次の各号に掲げる者は、当該各号に掲げる事項を証明したときは、同項に規定する賠償の責めに任じない。
(1・2号略)
 前項第四号に掲げる者 記載が虚偽であり又は欠けていることを知らず、かつ、第百九十三条の二第一項に規定する財務計算に関する書類に係る部分以外の部分については、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかつたこと。
Temis3 原審は、元引受契約を結んだ被上告人が虚偽記載を知らなかったことから、2項3号の免責を認めたが、最高裁は、原審の詳細な事実経過を引用した上で、そのような判断は是認し難いとして、破棄差戻ししたのであった。
その論理は以下の通り。
(1) 有価証券届出書の虚偽記載に元引受会社も責任を負うことを定めたのは、その専門的能力による調査を行わせて、虚偽記載の防止を図るためである。
(2) もっとも、財務計算部分についての独立監査人による監査を信頼して引受審査を行うことは許容されているが、その監査が信頼しうるものであることは前提として必要である。
(3) そうすると、引受審査に際して上記監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接した場合には,上記監査が信頼性の基礎を欠くものではないことにつき調査確認を行う義務があり、これを怠れば、免責の前提を欠くことになる。
(4) かくして、「財務計算部分に虚偽記載等がある場合に,元引受業者が引受審査に際して上記情報に接していたときには,当該元引受業者は,上記の調査確認を行ったものでなければ,金商法21条1項4号の損害賠償責任につき,同条2項3号による免責を受けることはできないと解するのが相当である」と判示した。

その判断において、妥当であろうと思うが、本件においては、虚偽記載をうかがわせる情報として、二通の内部告発的投書があったことが挙げられる。

被上告人は、この匿名の投書が役員らと共謀した富士通などの協力者との粉飾行為を詳細に記載したものなのに、役員にそのまま投書の存在を伝え、犯人探しと処分とを指示し、疑惑をまともに取り上げるどころか、むしろその疑惑潰しに加担したとさえ評価できそうな行動に出ているのである(判決文が認定した事実による)。

これでは、免責などどんな顔で主張したのかということになる。

さらに、この件は、公益通報者保護法の不備を示唆する立法事実ともなるだろう。

結局、公益通報などをしても、報復を受けるだけだし、外部で敵性さを担保する義務を負っている存在に伝えても、一緒になって犯人探しをされてしまうというのが現実だということが如実に示されている。

これでは、なんらの罰則規定も置かない今般の公益通報者保護法改正では、全然不十分だということが分かろうというものである。

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