メモ:WELQ事件は
情報法的に見て、重大な事案だ。
その記事の内容には問題が多かった。例えば「ラクトフェリン」という健康食品成分に関する記事では「放射能保護効果がある」「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)にも効果を発揮する」などと記し、「肩こり」について解説した記事では、「霊のしわざかもしれません」などと、医学的に根拠がない情報が掲載されていた。
こちらは毎日新聞サイトの記事より
IT大手ディー・エヌ・エー(DeNA、東京都渋谷区)が運営する医療情報サイト「WELQ(ウェルク)」が、サイト内の全記事を29日に非公開とした。このサイトをめぐっては、「記事の内容が誤っている」などの指摘が相次ぎ、サイトの「閉鎖」はそれを事実上、認めた形だ。誤った情報を信じて病状を悪化させた実例も出ている。
そしてDeNAのサイトでは、社長のお詫びが出されている。
代表取締役社長兼CEO 守安功からの一連の事態に対するお詫びとご説明
専門家による監修のないまま、根拠が不明確な医療関連記事を載せていたことについて、数多くのご批判をいただきました。細心の注意を払って取り扱うべき医療情報をこのように不適切な形で提供していたことは大きな間違いであったと反省し、11月29日にWELQの全記事を非公開化しました。そして、共通する運営体制のキュレーションメディアについては、ともかく非公開化して、今後の運営を考えるということである。
さて、今回は不正確な情報により健康被害がもたらされた(かも知れない)という点で、ネットワーク情報のある種の危険性を浮き彫りにした事件ということが言える。
これに類するメディア情報の危険性といえば、弁護士の発信する情報にも存在する。
弁護士という肩書で、ネットメディアには数多くの記事があふれるようになってきた。その中には、原稿料をもらって書くというどころか、むしろ逆に掲載料を支払って書かせてもらうという、要するに広告目的での記事が含まれている。
そして、その正しさは必ずしも保障されていないようである。弁護士の解説で逮捕はされないと思ったら、次の週に逮捕されたとか、そういったことも噂ではよく耳するし、弁護士さんが大丈夫だと書いているので信じてやったら犯罪になってしまったとか、民事で損害賠償義務が生じたなどというケースもありそうである。健康被害と同程度にひどい話である。
従前、弁護過誤というのは、依頼人が弁護士に事務を依頼した中で生じる不法行為であったが、直接の契約関係がなくとも、専門家の見解として公にしたことが誤りであって、それを信じて被害を被った人が出てくれば、それは不法行為として損害賠償義務が生じる余地が全くないとは言えないではないか。
とりわけネットメディアで、双方向的なやり取りがあるような場合には、例えば質問に回答するというような形式の場合には、責任が生じる場合がありそうに思う。
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