news:熊本地震が特定非常災害に指定
勉強不足でよく知らなかったのだが、特定非常災害というのは随分と私法的にも重要である。
テレビニュースでは免許の更新に特例が設けられるということが述べられていたが、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律を見ると、「履行されなかった義務に係る免責、法人の破産手続開始の決定の特例、相続の承認又は放棄をすべき期間の特例、民事調停法による調停の申立ての手数料の特例」が関係している。
もっとも、上記のうちの「履行されなかった義務に係る免責」というのは、第四条にあるように、不履行が行政上または刑事上の制裁を伴うものであり、しかもその義務は政令により指定されなければならない。
これに対して破産手続開始に関する以下の特例は、興味深い。
(債務超過を理由とする法人の破産手続開始の決定の特例に関する措置)第五条 特定非常災害によりその財産をもって債務を完済することができなくなった法人に対しては、第二条第一項又は第二項の政令でこの条に定める措置を指定するものの施行の日以後特定非常災害発生日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日までの間、破産手続開始の決定をすることができない。ただし、その法人が、清算中である場合、支払をすることができない場合又は破産手続開始の申立てをした場合は、この限りでない。
2 裁判所は、法人に対して破産手続開始の申立てがあった場合において、前項の規定によりその法人に対して破産手続開始の決定をすることができないときは、当該決定を留保する決定をしなければならない。
3 裁判所は、前項の規定による決定に係る法人が支払をすることができなくなったとき、その他同項の規定による決定をすべき第一項に規定する事情について変更があったときは、申立てにより又は職権で、その決定を取り消すことができる。
4 前二項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。
5 第一項本文の法人の理事又はこれに準ずる者は、特定非常災害発生日から同項に規定する政令で定める日までの間、他の法律の規定にかかわらず、その法人について破産手続開始の申立てをすることを要しない。
要点は、特定非常災害のせいで債務超過となった企業は、最長2年間、債権者申立てによる破産を免れるし、理事の申立義務もなくなる。ただし、清算中の法人や支払不能となった場合、自己破産を申し立てた場合は別である。
ただし、この規定の適用も、政令で指定される必要があるので、適用の有無や具体的な期間は、今日のニュースで閣議決定された政令の内容によることになる。
この他、第6条には特定非常災害の被災者・避難者が相続のいわゆる熟慮期間について延長されること、第7条には特定非常災害に起因する紛争について民事調停の申立をする場合は申立手数料がかからないこと、これらの特則が規定されている。
以下、参考となりそうな文献。
佐藤彩香「特定非常災害法の一部改正の概要 : 災害時における相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例の制定」法律のひろば66巻10号51頁
大森政輔「立法学研究(10)特定非常災害対応特別措置法の立法過程--その制定経緯」NBL657号30頁
追記:政令が総務省サイトに載っている。それによれば、破産手続開始が出来ないのは平成30年4月13日までとのこと。
| 固定リンク
「法律・裁判」カテゴリの記事
- Arret:欧州人権裁判所がフランスに対し、破毀院判事3名の利益相反で公正な裁判を受ける権利を侵害したと有責判決(2024.01.17)
- 民事裁判IT化:“ウェブ上でやり取り” 民事裁判デジタル化への取り組み公開(2023.11.09)
- BOOK:弁論の世紀〜古代ギリシアのもう一つの戦場(2023.02.11)
- court:裁判官弾劾裁判の傍聴(2023.02.10)
- Book:平成司法制度改革の研究:理論なき改革はいかに挫折したのか(2023.02.02)
コメント