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2015/10/23

justice:東住吉事件再審請求から窺われる刑事司法の諸問題

最近は、刑事再審が目立っているように感じられる。実際にも、2015年10月7日には知人の資産隠しに関わったとして国税徴収法違反で有罪が確定した元神戸市議に対して大阪高裁が再審開始決定を出し、同月には強姦被告事件で有罪となり服役していた男性が検察の申立てによる再審請求が認められ、無罪判決を得ている。その前には著名な袴田事件の再審開始決定が認められ、袴田さんが釈放されるという朗報があった。
もちろん再審が認められたニュースばかりではなく、長年の無実の訴えが認められないまま受刑者が死亡するに至った名張毒ぶどう酒事件のような残念な例もある。

その中で、東住吉事件と呼ばれる放火殺人事件について、再審請求抗告審での再審開始決定支持・抗告棄却・刑の執行停止決定のニュースは、日弁連の再審事件支援事件だけに、多くの方が祝福している。
私自身、関わりがあるわけではないので、事件の詳細は知らなかったのだが、報道やネットの情報から、この事件についてはいくつか感じるところがある。


・再審請求審の長さ
 まずもって、再審請求が長期間かかることへの疑問が禁じ得ない。
 この事件はちょうど20年前に起こった、平成になってからの事件であり、有罪判決確定が平成18年、最初の再審請求が平成21年である。以来6年かけて、高裁の決定を得た。
 再審開始決定というのは、これから裁判のやり直しをするということであるから、たとえすぐに確定してもさらにこれから審理が始まる。
迅速と適正はどちらも大事だが、訴訟遅延は裁判拒否に等しいという昔からの法諺を思い起こすべきではないか。

・人質司法と調書裁判
 この事件では(も)、捜査段階で両被告人が自白し、公判で否認したものの、容れられずに有罪が確定した。
 朴さんの言葉によれば、「この冤罪(えんざい)の人生は、噓(うそ)の自白をしたことで始まりました。裁判を甘くみすぎていた」とのことであるが、裁判を甘く見なくとも嘘の自白は強要されるものであることが、その後のパソコン遠隔操作事件誤認逮捕・誤判事件で明らかになっている。
 裁判員裁判は、そのような調書裁判を改善することを一つの目標として導入されたものだが、果たしてその趣旨は実現されているのかどうか、色々と疑問があるところである。

・外国人・外国出身者差別はなかったか
 再審決定を受けたうちの朴さんは、その名からも外国籍または外国出身であることがうかがわれる。ネットでは、そのことをあげつらうものも多い。
 差別問題と冤罪といえば、狭山事件を抜きにしては語れないが、この事件にそうした要素がなかったのかどうかも改めて考えてみる必要があるのではないか。
 関連して、ネット上には元被告人に対するひどい噂が散見される。真偽のほどは知らないが、ネットとかで書かれていたという以上の根拠を持たずに、鵜呑みにして書いている人たちは、首を洗って待つべきであろう。

・科学裁判としての適正さ
 報道によれば、被告人の自白通りの行動では無傷で逃げ出すことができないという評価が再審開始につながったと言うことだが、仮にそうなら、そんなことは確定審の段階でも認識できたはずではないか。事実経過をきちんと調べたのかどうか、裁判の事実認定が疑わしく思える。
加えてガソリンを撒いて火をつけたのではなく、ガソリンが給油口から漏れ出して引火したという可能性が焼燬実験で認められたという。こうした科学的な要素を、原審はきちんと審理できたのかどうか、この点も検証が必要なところである。

・製造物責任との関係性
 その給油口から漏れ出したという点について、報道では、「検察側が車庫にあった車と同じメーカーの4台で実験し、ガソリンが漏れることを確認」とされている。
 このメーカーはどこなのか、大いに気になるところだ。仮に車の構造的欠陥による失火だとすれば、当然、製造物責任が追及されてしかるべき事案だ。ただ、民事責任の除斥期間の問題がありそうだが、消費者安全委員会の出番ではないだろうか。

以上、具体的な事件の中身は知らないので、無理なことを書いている可能性はあるが、この事件から派生しそうな法的な問題はこれだけにとどまらない。法的思考の素材として、きわめて興味深い事件の経過である。

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