原発賠償ADRと倒産
事情はよく分からいのだが、原発事故による減収を賠償せよとの申し立てに対し、その減収が原発事故のせいだということを立証する資料の提出を求められた申立て会社が資料を揃えられず、その手続の間に申立て会社の一つが倒産したというのである。
理想を言えば、原発事故後にその周辺の観光地には客が来なくなり、またその周辺での仕事は原発事故の後始末くらいしか無くなったのだから、その周辺で営業していたバス会社の被ったキャンセルは原発事故に原因があることが公知の事実といっても良い。
そして、賠償請求手続中に存続が困難となってしまえば、権利回復も困難になるのであるから、仮払い仮処分が考えられて良いケースであり、倒産に瀕した企業にとってはなおのことということができる。
だとすると、この結果は手続としてうまくない。
ただ、結局のところ原発事故と減収との因果関係を証明する資料を提出できなかった企業は、倒産した会社を含み、和解協議が打ち切られてしまった。これは倒産から9ヶ月後のことである。
ということは、原紛ADR機関としても、上記のような公知の事実扱いはせず、裏付け資料がなければ和解協議に入らなくとも良いと扱っているわけだ。
そして記事には、以下のように記されている。
倒産したのは東京・多摩地区のバス会社。民間の信用調査会社などによると、1974年設立で、当初は冠婚葬祭の送迎や地元住民の旅行など小規模の契約が中心だったが、2007年からは大手旅行会社によるツアーを受注。08~10年は毎年4億~5億円の売り上げがあり経営は順調だった。しかし関係者によると、11年3月の原発事故後、旅行会社のツアーや小中学校の遠足、老人会の旅行、ゴルフ大会の送迎など、予約が次々とキャンセルされた。
こういうケースだと、例えば福島県内のバス会社というのとは違って、全体としての傾向は原発事故に由来するとしても一つ一つのキャンセルが原発事故のためというのを公知とは言いがたいし、推定もされるとは言い難い。
やはり、きちんと証拠を残しておかないと、実体的には正当な要求でも、正当と認めてもらえず、かなえられないという、一般的な話に落ち着いてしまうのであろう。残念なことではあるが。
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