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2013/12/11

jugement:エロサイトVsエロ雑誌の著作権争い

東京地判平成25年11月28日判決全文PDF

事案は、エロブログサイトを運営する管理人の架空の物語を、ある雑誌が漫画のストーリーに無断で用いたというものであり、サイト管理人が雑誌社と編集会社とに対し、著作権侵害で損害賠償と謝罪広告を求める訴えを提起した。
これに対して雑誌社側も、サイト管理人が雑誌社の盗作行為を非難し、その盗作行為をどう思うかなどと投票システムで読者の感想を募ったことを、雑誌社に対する名誉棄損になるとして反訴請求した。

結果は、両請求とも一部認容であった。しかし雑誌社側の請求認容には疑問がある。

原告のエロサイトは、判決文中で三行広告と検索すると6番目くらいに出てくると認定されている「ボクらの気持ちぃ自慢」と題するサイトである。(完全にエロサイトなので、敢えてリンクはしない。とはいえ違法性ある内容ではなさそうであった)。

他方被告のエロ雑誌は「実話大報」というもので、宣伝サイト上の画像を見る限り、週刊実話の別冊かと見紛う外見をしている。

そして、原告の主張する著作権侵害は、その一部について認められた。
認められた部分は「風俗サービスの内容を創作的に表現した」とか、「風俗サービスの内容,主人公の心情を創作的に表現した」などと評価されるもので、それ以外はありふれた情景を記述したに過ぎないとされている。そしてかなり微妙な判断で創作性ありとされた部分については著作権侵害のみならず、原告の氏名を表示しないという著作者人格権侵害も認められた。ただし慰謝料は5万円程であるし、著作権侵害の損害は被告のライターへの原稿料を下に算定して1万円とされている。

これに対して原告の被告に対する名誉棄損については、盗作と決めつけて、投票システムで読者の意見を求めた部分が被告の社会的評価を下げるというわけだが、違法性阻却事由のうち、公共性は認めたが公益目的は認められなかった。
その理由は、原告が、プログの内容は全くの創作であると記載している部分と体験に基づく創作であると記載してある部分とが食い違っていること、ブログの中で原告に損害が生じていることについて「盗作によって直接な利益が出なくても,数万かかる取材費や原稿料が浮くだけでも十分な利益と言えるはず。」とか、「被害総額は取材費だけで40万円超!」と記載しているところをもって、原告が風俗サービスを取材・体験しているかのように装って、しかも被告を「悪」と決めつけているという点をもって、「原告は,虚偽の事実を作出して被告 GOTを非難し,これにより,ことさらに被告GOTの名誉,信用等の社 会的評価を低下させることのみを目的としているといわなければならず, その目的が専ら公益を図るものであると認めることはできない」と結論づけている。

しかし、原告のブログがあるときは全くの創作といい、またあるときは体験に基づく創作と言ったからといって、あるいは被害額として取材費を挙げているからといって、被告の名誉を貶めることのみを目的にしていると結論付けるのは、論理的ではない。

しかも、判決の事実摘示欄には上記の公益目的を否定する根拠となった事実は摘示されておらず、仮にこれが被告も原告も主張していない事実であって証拠から認定した事実だとすると、公益目的のような評価概念の場合にはその評価を根拠付けたり評価を妨げたりする事実が主要事実になるという考え方を取る限り、本判決は弁論主義違反の疑いもある。

さらに、盗作だという決め付けが著作権侵害をいうのであれば、それは法的見解の論評に当たるのであり、これを事実の摘示として名誉棄損と構成していることは、最高裁判例にもそぐわないように思われる。
ただし、論評による名誉棄損でも公益目的は違法性阻却事由として必要であるから、本件の結論には影響がないのかもしれないが。

ということで、特に公益目的のないことの認定には、事実主張があったのかなかったのかという手続的問題と、仮にあったとしてもそれで公益目的なしといえるのかという実体法的な問題と、両面から疑問がある。

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