金融商品取引法192条による差止
行政庁が、裁判所に申し立てて、一定の私人の行為を差し止めるという制度は、我が国では珍しいはずだが、その一例が活用されたというニュースに接した。
証券監視委:悪質業者へ「抜かずの宝刀」192条発動
毎日新聞 2013年08月03日 15時00分
警察庁の統計では、金融商品取引を巡る詐欺被害の認知件数は右肩上がりで増え、2012年(暫定値)は1980件、約184億円に上った。監視委の調査対象は本来、金商法の登録を受けた業者で、無登録業者などは「警察にお任せ」の状態だったが、捜査には時間がかかるため、監視委としても被害拡大を防ぐための対策を迫られていた。そこでクローズアップされたのが、10年11月に初めて発動した192条だった。監視委は「無登録業者なども対象になり、現在進行形の被害を食い止められる」として積極適用する姿勢に転じ、これまでに6件の差し止め命令が出た。
今年4月に差し止め命令を受けた名古屋市の業者は、運用益が出ていないのに多数の投資家にファンドへの出資を勧誘し続け、出資金を経費や配当などに充てていたという。
かねてから、消費者庁の研究会などでも行政による早期介入を裁判所を通じて行う方法が議論されてきたが、金融商品取引法192条とは以下のような規定である。
(裁判所の禁止又は停止命令)
第百九十二条 裁判所は、緊急の必要があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣及び財務大臣の申立てにより、この法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為を行い、又は行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる。2 裁判所は、前項の規定により発した命令を取り消し、又は変更することができる。
3 前二項の事件は、被申立人の住所地又は第一項に規定する行為が行われ、若しくは行われようとする地の地方裁判所の管轄とする。
4 第一項及び第二項の裁判については、非訟事件手続法 (平成二十三年法律第五十一号)の定めるところによる。
内閣総理大臣のこの申立て権限は、同法194条の7により、金融庁長官に包括委任され、金融庁長官は同条4項2号により、この申立て権限を証券取引等監視委員会に委任している。
そこで証券取引等監視委員会のウェブサイト上での昨年度の活動報告には、以下の記載がある。
4.無登録業者等に対する裁判所への禁止命令等の申立て等F-SEED(株)(適格機関投資家等特例業務届出者)及びその使用人
ファンドの契約の締結又はその勧誘に関する虚偽告知
その他、従来の裁判所命令への証券取引等監視委員会の申立て一覧のページもある。
この裁判所の禁止命令は、非訟事件の終局決定として出されるので、民事執行法22条に基づき執行力もあると思われるが、金融商品取引法198条8号により、禁止命令違反に対して懲役又は罰金が科されることとなっている。つまり刑事罰による法執行が担保されているわけである。
なお、この制度は色々と突っ込みどころがありそうである。緊急の必要が要件となっているが、仮処分とは異なり、本案訴訟が予定されておらず、非訟事件の決定を争う「訴訟手続」の場は保障されていないようだ。
真っ黒な詐欺業者と決め付けることができなければ、なかなか発動できないであろう。
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